リラックスタイム
「行ってきますね。」
任務に行かなけりゃいけないのに、俺は物凄く名残惜しくてイルカ先生の手を離せない。
「はい、お気をつけて。帰りを待ってますからね。」
イルカ先生が優しく言ってくれて、俺の手を自分の手からそっと離そうとする。
でも、俺は離れられない。
あー、任務行きたくねー。
心底、そう思いイルカ先生にがばっと覆いかぶさって抱きしめた。
「任務に行きたくないです。イルカ先生と一緒にいたい。」
思いの丈をこめて言ったのに、イルカ先生は俺を自分からバリバリと剥がした。
「任務に行ってらっしゃい。」
笑顔が既に怖くなっている。
不承不承、俺は返事をして任務に赴いたのだった。
イルカ先生のアカデミーの仕事が漸く一段落ついて、最近は定時か、定時より少し遅めに帰ってきて。
夜は、ゆっくり二人の時間が出来始めたのに。
なのに、俺が任務だなんて憑いてないよ。
それも十日間もだ。
ああ、夜の時間がもったいない。
ご飯を食べて後片付けして、風呂に入って、それから待ちに待ったリラックスタイムなのに。
二人だけで、のんびりできる俺の至福の時間が。
ああ、早く任務を終わらせてイルカ先生の許に戻りたいよ。
口に出ていたのか、横にいたアスマが「うっせーぞ。」と睨んできた。
「任務を早く終わらせりゃいいだろーが。そんなに難しいものでもあるまいし。」
「あ、そだね。」
アスマ、ナイスアドバイス。
礼を言うと「俺が、ムラムラしているお前と一緒にいたくない。煩すぎだ。」と辛辣に返されてしまった。
任務を終わらせて里に帰れることになった。
予定の十日間を八日間で終わらせて。
俺、頑張ったな〜。
これでイルカ先生との夜のリラックスタイムは約束されたも同然だ。
今時期に二人だけの時間を確保しておかないと、二学期になったら、また忙しくなるからな。
今のうちにやれることはやっておかないと。
「ただいま〜。」
イルカ先生の居る家に帰る。
「お帰りなさい。」
嬉しそうにイルカ先生は出迎えてくれた。
「予定より早かったんですね。」
「うん、頑張っちゃった。」
「お風呂できてますから。それから、夕飯にしましょうか。」
見ればイルカ先生はもう風呂には入ったようだ。
後はご飯を食べれば待望のリラックスタイムだ。
まだ時間は早いし、ご飯を食べ終えたら、たくさん時間は残っている。
浮き浮きとする気持ちが抑えられず、一人風呂場で不気味な笑い声をあげてしまっていた。
イルカ先生の手料理を全部たいらげて「ご馳走様。」と手を合わせる。
食器を洗いながらイルカ先生が声をかけてきた。
「カカシさん、歯磨きしてくださいね。」
歯磨きって、もう寝るのかな?
まさか、ね。
だって、まだ宵の口だもの。
食器を洗い終えたイルカ先生も歯を磨く。
歯を磨いたイルカ先生はベッドに行き、枕や掛け布団を寝る様に準備し始めている。
「あの、もう寝るの?」
任務後で疲れているけど寝たくない。
俺の気持ちを知ってか知らずか、イルカ先生はさらりと言ってくれた。
「はい。もう寝ましょう。」
無邪気に言って、ベッドに潜り込んでいる。
俺が任務帰りだから気を遣ってくれているのかな。
イルカ先生の気遣いを無にしたくはなかったので、その日は俺は何年かぶりに九時前に就寝したのだった。
次の日も次の日も。
俺達は健康的な生活に従事していた。
つまり、夜は九時前後に寝ていたのだ。
夜が早いと、当然朝も早くなる。
お蔭で七班との任務の集合時間にも遅刻することはない。
でもさ、でもさ。
朝の時間て、リラックスできないんですけど。
イルカ先生とのんびりできないんですけど。
どうして、こんなことになったんだ?
早寝早起きなんて、子供じゃないんだし。
俺達、大人でしょ!
と、まあ、俺はイルカ先生に言ってみた。
「夜にのんびりしましょうよ。」と。
夜の良さを主張して、夜のリラックスタイムを取り戻すべく説得してみた。
なのに、俺の説得も空しくイルカ先生はこう言う。
「早く寝た方が体が次の日、楽なんですよね。ほら、もう年取ったってことですよ。」
年取ったら体は労わらないと、って。
イルカ先生、俺達、まだ一応二十代じゃないの。
まだまだ、イケテマスって。
なので、俺は夜のリラックスタイムを取り戻す計画を今、着々と進めている。
多分、近々、それは戻ってくるはずだ。
戻ってきたら思い切り、イルカ先生と二人だけでリラックスしてやる。
待ってなさいよ、イルカ先生。
と、密かに闘志を燃やす俺だった。
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