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今日はいい日



朝、受付所に任務の依頼書を貰いに行った際にイルカに会ったカカシは、いつもと違うイルカに気がついた。
「はい、どうぞ」
今日も頑張ってくださいね、怪我なんてしないように。
イルカは、いつも任務のことについて気遣ってくれる。
明るく、にこにこと笑顔を振りまいている。
その笑顔が今日は一際、輝いて見えたのだ。
嬉しそうに。
・・・何か、いいことあったのかなあ。
カカシは、ぼんやりと思う。
聞いてみたいと思ったが、カカシとイルカはそれ程、親しくはない。
カカシも里に帰ってきたばかりで上忍師という慣れない仕事をしている。
イルカは、その上忍師として指導している子供たちの元担任でアカデミーの先生だ。
子どもたちを通じて、面識はある。
挨拶をする程度の。



「ありがとうございます」
里内での任務についての依頼書をイルカに渡されて、カカシは目を通した。
ランクは低い。
これなら夕方までには終わるだろう。
「行ってらっしゃい」
イルカに言われてカカシは思わず、返事をしてしまった。
「行って来ます」
・・・これじゃあ、なんだか子どもみたいだ。
イルカは学校に子どもを送り出す、さながら母親みたいな感じだ。
・・・面白い人だなあ。
またしても、すごく興味が惹かれた。



またしても・・・。
カカシは子供たちの任務を監督しながら、イルカと初めて会ったときのことを思い出していた。
あっさりとしたものだった。
自己紹介されて、子供たちのアカデミーでの記録を引き継ぎされて。
それで終わり。
だけど、最後にイルカは顔の傷を触りながら言ったのだ。
イルカの顔の傷は横一線に走っている。
「はたけ上忍」
ちょっと恥かしそうに。
「こんなことを申し上げるのは僭越なのですが」
頭を深々と下げた。
「あいつらのこと・・・。ナルトやサスケ、サクラのことをどうぞよろしくお願いします」
下げた頭は暫く上がらなかった。
漸く、頭を上げたイルカの顔は少し寂しげなのが印象的であった。
きっと子どもたちが自分の元を去るのが寂しいのだろう。
容易に想像できた。
とても子供たちのことを思っているということも。



そんなイルカが一回だけ、任務のときに近くを通りかかった。
里内で用事でもあったのか、手には風呂敷に包まれた物を持っていた。
子どもたちは目敏くイルカを見つけて、任務中だというのに駆け寄っていってしまった。
「イルカ先生!」と大声で名を呼びながら。
そしてイルカに飛びつく。
イルカは驚きながらも、たいそう嬉しそうな顔をして飛びついてきた子どもたちを少し身を屈めて抱きしめた。
ふわりと包み込むように子供たちの背に手を回し、愛しそうに抱きしめたのだ。
大事なものを包み込むように。
その光景を見たとき。
どきん、とカカシの心臓は音を立てた。
音を立てた心臓は、そのまま鼓動が早くなり。
いいなあ・・・。
素直に思ってしまった。
いいなあ、あんな風に抱きしめてもらいたい。
誰かに、出来たらイルカに。
イルカに抱きしめられる子どもたちは幸せそうな顔をしていた。
きっと本当に幸せなのだろう。
先生と生徒という強い結びつきだけではないようで。
人と人のしっかりとした絆みたいなものを感じた。
そう、カカシはイルカとあんな関係になりたいと願ってしまったのだ。
イルカの無償の愛を受ける子どもたちが羨ましかった。
無条件で愛を与えるイルカに抱きしめてほしかった。



だけども、イルカは任務の邪魔をしたと思ったのか。
任務の際に、偶にイルカの姿を見かけることはあっても、決して近づいては来ず。
遠くから任務の様子を眺めるに留まった。
子供たちの任務を見守るイルカの目はあたたかく、常に優しかった。
ものすごく子供たちを心配して、気にかけているようだったが必要以上に絡んでくる様子はなかったし、かといってカカシに子供たちのことで付き纏うようなこともしない。
上忍と中忍、上忍師と元担任としての一線を引いているかもしれない。
会えば、礼儀正しく挨拶はする。
それ以上は特に話したりはしない。
立ち話くらいはしてもいいんじゃないの?
その頃にはカカシはイルカに対して興味を持ち始めており、もっとイルカのことを知りたくなっていた。
しかし、その機会は中々、訪れない。
「はあ〜」
カカシは読んでいた本を閉じて、空を見上げた。
空は青く澄み渡り、晴れている。
快晴だ。
「イルカ先生と仲良くなりたいなあ」
目下、それがカカシの目標である。



夕方、任務の報告書を出しに行くとイルカはいなかった。
イルカに会えないことをカカシは残念に思う。
朝の嬉しそうなイルカの顔を思い出す。
・・・いいことがあったのか、聞こうと思っていたのに。
切っ掛けがあればイルカと繋がりが持て、仲良く出来るかもしれないのに。
報告書を出すとカカシは受付所を後にした。
自宅への道を歩きながら、今日の夕飯は何にしようとカカシは、ぼんやりと考えていた。
食べたいものは特にない。
毎日、何を食べるか悩んでいる。
夕日と浴びて歩いていると、不意にカカシを呼ぶ声がした。
「はたけ上忍〜」
振り向くと誰かが手を振っていた。
「イルカ先生!」
夕日を背にイルカが駆けて来る。
走ってカカシの傍に来たイルカは息を切らせていた。
「今、お帰りですか?」
「ええ、まあ」
「俺もなんです」
イルカは笑う。
「今日は早く仕事が終わって」
カカシと並んで歩き出す。
「早く終わったから飯でも食べて帰ろうかな〜って」
朝と同じく、イルカは嬉しそうで。
やっぱり、何かいいことがあったのかもしれない。
「あの・・・」
イルカの事を、どう呼ぶか迷ってカカシは子どもたちと同じ呼び方をした。
「イルカ先生」
「はい」
黒い目を大きく開いてイルカがカカシを凝視する。
イルカ先生と呼ばれたことに驚いているようだった。



「はい!」
にこーっと笑うイルカが目を細めた。
カカシにイルカ先生と呼ばれたことに喜んでいる。
「何でしょうか」
「ご飯食べに誰と行くんですか?」
思い切って聞いてみた。
「一人ですけど?」
「だったら」
更に思い切った。
「一緒に食べるとかって・・・、駄目ですか?」
「はたけ上忍が俺と?」
「そうです、駄目でしょうか」
「駄目じゃないですけど」
イルカは明後日を見て、初めて会ったときのように顔の傷を触っている。
「俺の食べに行く飯って、ラーメンなんですけど」
お口に合わないかも、とイルカは萎縮した。
「上忍の方はラーメンなんて食べませんよね?」
「まさか」
本当に、まさかだった。
「上忍だってラーメン食べますよ。ラーメンを食べるのに上忍も中忍もないでしょう」
至極最もな意見を言っただけであったのだが、イルカは安心したようで。
ほっとした顔で頷いた。
「そうですか・・・。なら、良かったです」
お勧めの美味しいラーメン屋さんがあるんです、と。
カカシは偶然、会ったイルカと夕飯を食べることになった。



「うわ、美味しいですね!」
イルカに連れられていったラーメン屋は本当に美味しかった。
「すっごく美味いです」
「でしょう?」
ちょっとイルカは得意げだ。
「ここ、本当に美味しくて。俺、大好きなんです」
常連なんですよーと自慢もしてくる。
「毎日、食べても飽きません」
「イルカ先生はラーメンが好きなんですね」
「あ、はい」
照れたように言ってイルカは顔の傷を、また触っていた。
イルカの癖なのかもしれない。
今日はイルカと話せて、新しい発見もたくさんあった。
イルカの好物はラーメンで、顔の傷を触るのが癖。
笑うと可愛くて・・・。
可愛い?
カカシは思考が止まる。
イルカ先生が可愛い?
可愛いなんて、何で思うんだ?
イルカ先生は男で可愛い要素なんてないだろう。
そう思ってイルカを見ると既にラーメンを食べ終わっており、ポケットやカバンの中を探って焦っていた。
「あれ?あれ?あれ?」
ぽんぽんとポケットを叩いたりしている。
「ない?ない?ない?」
どうやら、財布が忘れたらしい。
「えー、嘘?朝、カバンに入れたと思ったのに〜」
泣きそうになっている。
前言撤回、やっぱり可愛いかも。



「いいですよ、イルカ先生」
カカシは懐から財布を出した。
「今日は俺に出させてください」
「え、そんな・・・」
「いいから、いいから」
これでイルカとの切っ掛けが出来るなら安いものだ。
「次はイルカ先生が出してくれたらいいですから」
次回の約束も、さり気なく取り付ける。
「すみません」
イルカは、しょぼんとして小さくなっていた。



店を出るとイルカは「すみません」と、再度謝る。
「気にしなくていいですよ」
「はい」
肩を落として、項垂れている。
「はあ」と溜め息が聞こえた。
「今日は、いい日だと思ったのになあ」
最後の最後でミスるなんて、と呟いている。
「ねえ、イルカ先生」
イルカに聞いてみたかったことをカカシは思い出した。
「今日は何か、いいことあったんですか?」
いい日、だと今しがた言っていた。
「いい日だって言いましたが」
「あー、それは」
ぼっとイルカが赤くなる。
「そのう」
言い難そうに言葉を濁す。
「何なんですか?教えてくださいよ」
悪戯心で詰め寄るとイルカは渋々、白状した。
「笑わないでくださいね」
念を押してくる。
「今日は俺の誕生日なんです」
「誕生日・・・」
意外な答えだった。



「誕生日だから嬉しくて。大人なのに変ですけど」
自分の誕生日だから、イルカは朝から嬉しそうにしていたのだ。
「この年になっても誕生日だと浮かれてしまって」
毎年自分で祝うだけですけど、と浮かべた微笑は寂しげで。
カカシは、きゅっと胸が痛む。
「イルカ先生、誕生日おめでとうございます」
カカシはイルカの手を握っていた。
「じゃあ、あの・・・。さっきのラーメンは誕生日のお祝いってことで」
言ってからしまったと思った。
誕生日のプレゼントなら、もっと良い物を贈ればいいのに。
「ほんとですか!」
ぱあっとイルカの顔が輝いた。
朝とは比べ物にならないくらいに。
「すっごい嬉しいです、ありがとうございます!」
思いの外、喜んでくれている。
「誕生日を祝ってもらうなんて、何年ぶりだろう」
無邪気に喜んで、はしゃいでいる。
「いえ、これくらい・・・」
これくらい、お安い御用だ。
来年は綿密に計画を立ててイルカの誕生日を祝いたい。
野望が出来た。
それと。
「俺のこと、はたけ上忍じゃなくて名前の方で呼んでもらえませんか?」
ついでのお願いしてみた。
子どもたちと同じでいいから。
「カカシ先生と?」
「はい」
イルカは快く了承してくれた。



「ご馳走さまでした、カカシ先生」
「はい、また明日、イルカ先生」
それぞれの家への分かれ道。
手を振って分かれる。
家への道を歩きながらカカシは満たされた思いだった。
これから、イルカと仲良くなれる予感がする。
親密になれる予感が。
イルカに抱きしめられる日も、そう遠くはないかもしれない。
イルカを抱きしめる日も。
イルカの誕生日を境にカカシとイルカの二人の仲は急速に深まっていったのだった。





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