落ちてきた!
文机に向かって正座しているイルカ先生を、俺は後ろから眺めている。
いい眺めだ。
今、イルカ先生は、明日にアカデミーの授業で使う習字のお手本を書いている。
習字には着物が合うとか言って、わざわざ淡い色の和服を着流して普段とは違う色っぽさが醸し出されていた。
そんな俺の心中にも気づかず、難しい字を次から次へと書いている。
朝から二時間くらいやっているから、すごい集中力だ。
そんなイルカ先生の邪魔しないように、俺は寝転がりながら本を読んで終わるのを待っていた。
一区切りついたのか、イルカ先生が正座したまま俺を振り返る。
「もうお昼ですね。」
そういえば、時計は正午を回っていた。
「お昼ごはん、作りましょうか。」と立ち上がるイルカ先生。
と、立ち上がる動作が中腰で不自然に止まった。
そのまま眉を顰めて動かない。
ははあ、足が痺れたんだな。
二時間も正座してればねえ。
イルカ先生は顰め面のまま、足の痺れが切れるのを待っているつもりだろう。
でもね、そんな絶好のチャンスを逃す俺じゃない。
俺は寝転がっていたので腹這いのまま、ずるずると匍匐前進でイルカ先生に近づいた。
イルカ先生は、ぎょっとしたように俺を見る。
「あの、カカシさん。・・・まさか。」
俺はにやりと口角を吊り上げて笑った。
「その、まさかでーす。」
俺は、その痺れた足に触りたい。
触ってイルカ先生が、どんな表情をするのか見てみたい。
イルカ先生の顔が恐怖に引き攣る。
「その足に触らせて、ちょっとでいいから。」
ね、と可愛くお願いしてみた。
「い、いやです。」
首をぶんぶんと横に振りながら、イルカ先生は後退ろうとしているけど痺れた足が動かない。
ふふふ、と笑って俺は益々近づいた。
遂に、俺は立ち上がりかけて止まっているイルカ先生の足元に到着した。
足元からイルカ先生を見上げると一段といい眺めだ。
多分、俺の顔は楽しさ全開になっていることだろう。
イルカ先生は「絶対に絶対に触らないでくださいね。」と俺を牽制しながら、漸く足の痺れが取れてきたのか少しだけ動けるようになっていた。
だけどね、痺れがまだ残っていた足で慌てて動いたものだから、ぐらりと踉めく。
そして、踉めいて倒れて、俺の方に落ちてきた。
「危ない、退いて。」と言っているが落ちてきたイルカ先生を避けるとつもりはない。
俺は腹這いだったけど、素早く引っくり返って仰向けになる。
そこにイルカ先生は落ちてきたのだ。
しっかりと俺はイルカ先生を受け止めた。
滅多にない着物姿のイルカ先生が俺の腕の中にいる。
何にもしてないのに何だかとっても、ついていて俺はほくほく笑顔だ。
二時間、大人しく待っていた甲斐があったなあ。
イルカ先生はほんの少しだけ抵抗したけれど、そのうち俺の腕の中で大人しくなった。
顔は見えなかったけれど、イルカ先生の心臓のどきどきが伝わってくる。
それが伝わって俺も急にどきどきしてきた。。
しょうがないよね、だって好きな人とくっついているんだから。
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