俺嫌われてる?
イルカ先生との仲が、ぎくしゃくしているように感じる。
・・・って言っても、しょうがないんだけどね。
口論してしまった過去があるから。
それも、かなり激しく、人前で。
冷静沈着が売りな俺が口論、というかあれは口喧嘩に近いというか。
意地の張り合いのような気がした。
イルカ先生も元生徒のことだったから引っ込みがつかなくなったんだろうなあ。
本当に純粋に生徒も元生徒のことを思っているから。
俺が担当している下忍、そしてイルカ先生の元生徒の中忍試験の是非についての口論だった。
中忍試験が終わってから木の葉の里は目まぐるしく変わり俺もイルカ先生も忙しく日々を送っていた。
一応、口論については互いに謝意を表して一件落着になったと俺は考えているのだが。
俺に対してイルカ先生は、ぎこちない。
どこがどうって指摘は出来ないけど、何となくだ。
何となくイルカ先生は冷たい・・・。
俺は仲良くしたいなあ、って思っているのに。
それから時が経ち季節は冬だ。
この頃になると、かなり里は落ち着いてきて任務の回数も落ち着いてきた。
忙しいけど眠る暇がないほど忙しいって訳でもなく、ほどほどに忙しく、日常業務も通常に戻ってきていた。
受付所でイルカ先生に会って、二言三言、会話する時間も出来ている。
「お願いします」
俺が任務の報告書を差し出すとイルカ先生は、にっこり笑って受け取ってくれた。
違和感はない。
「はい、お疲れ様でした」
労ってもくれて癒される。
嬉しい一言だ。
丁寧に素早く報告書を確認してから再び、イルカ先生は俺を見て、にこりと笑う。
「不備はありません、大丈夫です」
「そうですか」
微笑を浮かべ、俺もイルカ先生を見る。
目と目で通じ合い、二人の間に密な空気が流れた。
・・・はずだったのに。
イルカ先生が「次の方、どうぞ」と言い、呆気なく密な空気は消滅する。
イルカ先生は俺のこと、何とも思ってないだろうか。
やっぱり、イルカ先生は俺に冷たい・・・ような気がしたのだった。
それから何日か経ちイルカ先生と自動販売機の前で偶然、会った。
どうやら休憩時間にコーヒーでも買いに来たらしい。
ちょうど俺も買いに来て、買ったばっかりの缶コーヒーを「どうぞ」と差し出してみた。
奢りです、と。
躊躇った後にイルカ先生は「ありがとうございます」と缶コーヒーを受け取ってくれた。
缶コーヒーはホットだ。
だって冬だから。
俺は続けて買った自分の分の缶コーヒーの開けて飲んだ。
あったかくて美味しい。
イルカ先生は、と見ると缶コーヒーを手の中で遊ばせている。
飲む気配はない。
コーヒーを買いに来たんじゃなかったのかな?
イルカ先生は、もじもじとしてから罰の悪そうな顔をして俺を見た。
「あの、もう休憩時間が終わりですので」
「失礼します」と頭を下げると行ってしまった。
俺のあげた缶コーヒーを持って。
俺は、そんなイルカ先生を見送ってショックを受けていた、柄にもなく。
・・・イルカ先生、俺のあげたコーヒー飲んでくれなかった。
後で職員室かどこかで飲むのかもしれないけれど。
出来たらイルカ先生と缶コーヒーを飲んで他愛もない世間話でもしてみたかった。
そしたら仲良くなれたかもしれないのになあ。
がっかりしてしまった。
次にイルカ先生に会ったのは深夜だった。
俺は単独任務の報告後の帰りでイルカ先生は仕事帰り。
また偶然に会ってしまった。
しかも道の真ん中で。
お互いに顔を見たときは「あ!」と声を上げてしまったほどだ。
「カカシさん、こんばんは」
「・・・こんばんは」
「こんな遅くに出会うなんて。もしかして任務だったんですか?」
「はあ、まあ」
「大変ですね」
イルカ先生は笑顔だった。
受付所の笑顔と変わることない、俺を癒してくれる笑顔だ。
「イルカ先生こそ仕事だったんでしょ」
自然と連れ立って隣同士で歩き出す。
肩と肩が触れそうになって、はらはらしてしまった。
肩が触れたら、どうしようと思って。
「俺は残業していたら遅くなってしまって」
「ほどほどにしないと体に毒ですよ」
頑張っても体を壊したら元も子もない。
「はい」とイルカ先生は頷いて、それから俺に視線を向けてきた。
「カカシさん、優しいんですね」
そう言うイルカ先生の方こそ優しい顔をしていて、どきどきしてしまった。
なんだ、このどきどきは・・・。
妙にときめく。
それに穏やかで心地よい。
・・・あ、そうだ!
これはチャンスかもしれない。
視界に入ったものを指差してイルカ先生を誘ってみた。
「イルカ先生、よかったら少し飲んでいきませんか?」
目に入ったのは屋台の赤提灯。
幸い、人はいないようで今ならイルカ先生と二人きりで酒が飲める。
酒を飲むと親交が深まるというのは先人の言葉にあったかもしれない。
「いいですね」
イルカ先生は気軽に同意してくれた。
で、俺はイルカ先生と酒を飲むことになったのだった。
この時期の酒は熱燗に限る。
入った屋台で並んで座って熱燗を頼んで、屋台の定番のおでんを頼む。
熱々の酒をお猪口に入れてイルカ先生と「乾杯」と、お猪口同士をかつんと合わせる。
熱い酒を喉に流し込むと五臓六腑に染み渡った。
冬の熱燗て、なんでこんなに美味いんだろ。
イルカ先生は、どうかな?と気になって横目で見るとお猪口には口をつけていなかった。
そのままテーブルの上に置いている。
・・・イルカ先生、お酒好きじゃないのかな?
ならば、とおでんを頼んでみた。
それぞれ、各自好きなものを。
頼んだおでんが皿に盛られてきたけど、それにもイルカ先生は箸をつけない。
「あ、カカシさん、お酒どうぞ」
空いた俺のお猪口に酒を注いでくれる。
気遣ってくれるのは嬉しいけれどイルカ先生は?
俺と酒を飲むのも食事をするのも嫌なの?
胸に疑問が湧き上がる。
暫くしてイルカ先生はお猪口の酒に口を付け、おでんにも箸をつけ食べ始めた。
それから会話も出てきて楽しく酒も飲めた。
イルカ先生も普通に飲んで食べていた。
俺のことが嫌いな訳ではないらしいのだが。
じゃあ、いったい何なんだろう、この胸のもやもやは・・・。
次の日。
イルカ先生は上忍の控え室を訪れていた。
もちろん、仕事のことで。
上忍の誰かに用事があって来たのだ。
俺でないのが残念だけど。
用事が終わるとイルカ先生は俺のところに来た。
「昨日はありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ」
ちまみに昨日は割り勘だった。
「誘っていただいて嬉しかったです」
「え?」
意外な言葉だった。
本当に嬉しかったのかなあ・・・。
昨日、湧き上がった疑問が頭を掠める。
ふと思って俺は飲みかけの、と言っても一口飲んだだけの缶コーヒーをイルカ先生に差し出してみた。
「これ、美味しいですよ。よかったら飲みませんか、冷めていますけど」
「あ、どうも」
イルカ先生は何の躊躇もなく一口飲んだ。
「ほんと美味しいですね」
にっこり笑って返された。
「では失礼します」とイルカ先生は控え室を出て行った。
その間、呆然としていた俺。
ポーカーフェイスのつもりだったが実は呆然としていたのだ。
イルカ先生が何の躊躇いもなく俺の飲みかけのコーヒーに口をつけた。
てっきり断られると思っていたのに!
俺とは飲みも食事もしたくないと思っていたのに!
しかも、これは間接キスじゃないか?
イルカ先生、気にならないのか、そういうの。
考えると俺は、どきどきしてきた。
昨日の夜にイルカ先生の優しい顔を見たときと同じ、どきどきだ。
あー、この胸のどきどきはいったい何?
覆面の下で百面相をしていると近くにいた同僚たちが見かねて声を掛けてきた。
「カカシ、不気味よ」
「そうだぞ、顰め面したり笑ったり嘆いたり、にやけたり。はっきり言って変だぞ」
同僚たちは同僚だけあって遠慮がない。
「まあ、気持ちは解らなくもないけどね」
「そうだなあ、やっとイルカが靡きつつあるからなあ」
「嬉しいのは解るけど、慎重にいかないと駄目になるわよ」
「道のりは長いが成就するかもしれんからな、万が一にも」
言っていることが意味不明だ。
「え、なにが?」
素で訊いた。
同僚たちは心底、呆れたように俺を見て深い溜め息を吐き説明してくれた。
「イルカが好きなんだろう?あー、恋とか愛とかで」
「そうよ、受付所でイルカを見つめて動こうとしなかったらしいじゃないの」
「何かにつけイルカの話をしているからなあ」
「暇さえあればイルカの動向、探っているわよねえ、無意識に」
くら、と目眩がした。
「本当に本当に本当に?」
自分でも気づかなかった、素で。
「本当よ!」
「本当だ!」
同僚たちはきっぱりと言ってくれた。
「知らなかった・・・」
俺って、そうだったんだ〜。
イルカ先生のことが好きなんだ。
自覚すると様様なことが理解できた。
好きだからイルカ先生に冷たくされると嫌だったんだ。
好きだからイルカ先生と仲良くなりたかったんだ。
そっかー、納得。
目の前に霧が晴れ、明るい光が差し込んできたような気分だ。
まあ、自覚すればやることは一つだ。
行動あるのみ。
俺は同僚たちに礼を言うと、これからの行動について画策し始めた。
裏であれこれするのは割りと得意だ。
まあ、ちょっとアレかもしれないけれど、そんなことは言っていられない。
イルカ先生と恋人になれるように頑張るしかないのだ。
それから数ヶ月後。
俺は恋を実らせた。
夢が叶って好きな人に告白して恋仲になって恋人になることができたのだ。
正に天にも昇る気持ちだ。
生きてて良かった。
恋人は俺の隣で優しく笑っている。
俺だけを見ている。
その人はイルカ先生。
イルカ先生も俺を好きだと言ってくれた。
幸せの絶頂とはこのことだ。
で、恋人になってからだけど、いつかのことを訊いてみた。
「何で、あの時、奢ったコーヒー飲んでくれなかったの?」
「あー、あれは熱かったので・・・」
「熱燗は嫌いなんですか?」
「えーと、熱すぎて飲めなくて・・・」
「おでんは好きじゃないんですか?」
「好きですけど、少し冷ましてから食べます」
つまり。
イルカ先生は、ちょっと猫舌らしい。
熱い物が苦手ってことかなあ。
そんなイルカ先生が可愛くて俺はイルカ先生にキスをする。
猫舌のイルカ先生だったけど熱いキスは平気みたいだった。
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