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思い出したあの人



イルカは悩んでいた。
それはカカシと酒を飲んだ晩にカカシに言われたことで。
イルカが若い頃に助けられたことを話したら言われたのだ。
カカシは言っていた。
そんな男のことなんて忘れてしまいなさい、と。
男・・・。
カカシは何故、男などと言ったのだろう。
その口調は確信に満ちていた。
イルカ自身は自分を助けてくれたのは今の今まで男とは全く思っていなかった。
女性だと思っていたのだ。
そう思うには理由があったのだが。
今、思うとそれが理由で助けてくれたのは女性と違う気がしてきた。
もしかして、あの時、自分を助けてくれたのは女性ではなく男性だったかも。
イルカは出来るだけ正確に思い出してみた、助けてもらったときのことを。



冷静に一晩、考えてイルカは助けてくれたのは男性だったかもしれないと結論付けた。
自分の思い込みで女性だと思っていただけなのかも、と考え直したのだ。
助けてくれた時しか会ってないのも考え直した根拠の一つになる。
朝、カカシさんに会ったら言っておこう。
酒の席だが昨日のイルカの発言でカカシはどこか不愉快な表情をしていた。
カカシを怒らせるのは本意ではない。
せっかく親しくなれたのだが、これからも付き合いは続けていきたい。
繋がりは大切にしたいイルカらしい考え方だった。
幸い、朝は受付所の仕事があり、きっとカカシは任務の依頼書を取りに来る。
その時に言おうとイルカは決心していた。
イルカの予想通り、カカシは朝の受付所に現れてイルカのところへ依頼書を取りに来た。
その際にイルカは助けてくれたのは男性かもしれない、自分の思い違いだったことを告げたのだが。
それを聞いたカカシの様子は大変、嬉しそうであった。
嬉しそうに身を乗り出してきて、お互いの額宛がぶつかってしまったほどだ。
更にカカシは話したかった感じだったが受付所が混んできたために退出し、その時にイルカに夜の約束ごとを手を振って知らせてきた。
その後、イルカは受付所内で注目されて針のむしろだったのは言うまでもない。



なんというか、その日に限って仕事が進まなかった。
カカシと特に時間は決めていなかったが余り遅いと悪い。
早く行かなければと思えば思うほど仕事は捗らない。
自分の仕事は自分でやらなければならないのはイルカは百も承知ではあったが焦ってしまっていた。
やっとのことで仕事を終わらせて時計を見ると、だいぶ遅い時間になっていた。
やばい!
カカシを結構な時間、待たせている。
焦ったイルカは慌てて書類を仕舞おうとして整理した書類をばら撒いてしまった、床に。
運悪いことに通りかかった同僚が歩きながら飲んでいた缶コーヒーが運の悪いことに書類の上に溢されてしまった。
同僚に悪気はなく手が滑っただけであった。
ものすごく謝られて書類を拾うのも整理するのも手伝ってくれて、駄目にした書類の作成を申し出られた。
イルカが辞退すると同僚は半ば奪うようにイルカから書類をもぎ取った。
どちらかというとイルカが罪悪感を持ってしまったほどだった。
そもそも俺が焦って急いで書類を床に落としたからだ。
反省と後悔である。
結局、同僚に半分だけ手伝ってもらって再度、書類を作り直した。
そんな訳でイルカはは冷や汗半分、焦りの汗半分でカカシの元へ行くと。
カカシは怒ることもなくポケットから出したハンカチで丁寧にイルカの汗を拭ってくれたのである。
優しい手つきで。
いい人だなあ、カカシさん。
イルカは心底、思ったのだった。



店に着くと終始、穏やかな雰囲気でイルカは寛げた。
カカシがいる所為かもしれない。
カカシの話は、いつも面白かった。
酒量も、いつもより多かった。
カカシは何かを言いたげしていて、それが何なのか気にはなったのだが。
まさか、朝の話の続きで昨日の話に関係することだとは夢にも思っていなかった。
真剣な顔で問い質されて、とうとうイルカは理由を話してしまった。
理由というよりも秘密に近かったが。
ついでに肩に回ってきたカカシの腕に体を引き寄せられて、くっ付いたカカシの体に妙に安心してしまったこともある。
この腕、どっかで覚えがあるような・・・。
何の覚えか思い出す前にカカシに問われて秘密を口にした。
解毒剤を飲ませてもらったことを話した、口移しだということも。
「口移しって要するにキスのことでしょう。キスは男女の間でするものだと思っていたので、口移しで薬を飲ませてくれたのは女性なんだと自然、思っていたんです」
口移しについてイルカが思い込んでいたことを有りのままにカカシに言う。
カカシは口を挟まず、イルカに話に耳を傾けている。
一言も聞き漏らすまいと。
そして次のイルカの言葉でカカシは叫んでいた。
「あれが俺のファーストキスだったから、だから・・・」
「えっ、ファーストキスだったの!」
店の中にカカシの声は響いた。
中には知り合いもいるかもしれないのに。
「あれがイルカ先生のファーストキス!俺がイルカ先生のファーストキスの相手なの!」
イルカを助けてくれた相手が、たった今、判明した瞬間だった。



「えっ!」
ばっと離れてイルカはカカシの顔を見た。
「ええっ。あの時、俺を助けてくれたのはカカシさんだったんですか!」
衝撃的な展開であった。
イルカを助けてくれた本人が目の前にいたのだから。
「カカシさんが俺を助けてくれた・・・」
イルカは目を瞬かせた。
「そうだったんですか」
「あー、あのですね」
罰が悪そうにカカシは頭を、がしがしと掻く。
しばらく二人は無言だった。
先に動いたのはカカシでイルカの手を取ると「外に出ましょう」と促したのであった。



カカシに手を引かれてイルカは歩いている。
どこに向っているかは分からない。
歩きながらカカシは、ぽつぽつと話してくれた。
「あの後、お見舞いに行けなくて・・・」
任務で里を離れていたのだとカカシは言った。
「イルカ先生のことは気にはなっていたんですが」
「いいんです」
イルカはカカシの言葉を遮った。
立ち止まるとカカシがイルカを振り返る。
イルカは手を引かれたまま、頭を下げた。
「俺の方こそ、助けてくれたのがカカシさんとは思いも寄らなくて」
ずっと言いたかった言葉を言う。
「助けてくれてありがとうございました。カカシさんは命の恩人です」
「そんなこと・・・」
「カカシさんが助けてくれたから俺は生きています。カカシさんが助けてくれたから今日まで頑張って生きてこられたんです」
「そんなことないよ」
カカシの強い力を込めた発言に頭を上げた。
「そんなことないです、俺だってイルカ先生の事を思って任務を頑張れた。生き延びられたんです」
引かれた手を引き寄せられた。
今度は、しっかりと抱きしめられる。
「だってねえ」
カカシはイルカの耳元で囁く。
囁き声は甘い。



「だってねえ、イルカ先生に会いたくて里に帰ってきたようなもんです、俺は」
腕が背中に回りイルカは思い出していた。
この腕が自分を助けてくれたんだ。
店で感じたのは、このことであった。
助けてくれた腕の感触を体が覚えていたのだ。
「俺はですね、イルカ先生のことを考えたり思ったりすることで生きていたようなものなんです」
きっとカカシの任務はイルカの想像もできないほど過酷だったのだろう。
イルカに知るすべはないが。
「お陰でイルカ先生のことを思いすぎて好きになってしまいましたが」
カカシが低く笑ったのが分かった。
体が揺れている。
「あー、イルカ先生に会えてよかった」
ほっとしたような声にイルカは体の力が抜けてしまった。
酔いも多少はあったかもしれない。



どっと力が抜けてカカシに寄り掛かったイルカの体をカカシは易々と受け止めた。
「どうしたの、イルカ先生!」
焦ったような声が妙におかしかった。
「飲みすぎですか?体が熱いですよ」
体が熱いのには別の理由があったのが酒の所為にしておいた。
まさかカカシに告白されたからだとか、まさか自分もカカシが好きみたいだとか告白するにはイルカには早すぎた。
時間が欲しい。
「・・・飲みすぎたみたいで横になりたいです」
眠って頭の中を整理したい。
そんな意味でイルカは言ったのだがカカシは別の意味に解釈したようだった。
「それはいけません」
寄り掛かったままの体制で難なく抱き上げられた。
「家に帰って休みましょう!」
声が弾んでいた。
家って、どこへ?
訊きたかったが眠気が強い。
助けた時と同じ腕に抱きかかえられていることがイルカを安心させた。
多分、起きたらカカシはイルカの傍にいるのだろう。
それもいいか、と思いながらイルカは完全なる眠りに落ちていったのだった。



終わり




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