美味しくて幸せ!
「カカシ。」
上忍の控え室で紅に話しかけられた。
「なーに?」
「これ。」と紅は小さくて、お洒落な紙袋を俺に差し出してきた。
「イルカ先生に渡しておいて。」
「イルカ先生に?」
俺は眉を潜めた。
紅がイルカ先生に何を渡すっていうんだ?
どうして何かを渡すんだ?
紅は上忍でイルカ先生は中忍、陰謀を感じる・・・。
「陰謀なんてあるわけないでしょ。」
紅は、ばしっと俺の頭を叩いた。
どうやら思っていたことが総て、口から出ていたらしい。
「これは、この前、任務の資料集めでお世話になったから、そのお礼なのよ。」
「へええ。」
お礼ねえ。
すると紅は「ふふん。」と居丈高に俺を見ると「これはねえ、お礼だけど、イルカ先生が食べたいな〜って言っていた物なのよ。」
「イルカ先生の食べたい物って?」
「そんなの教えな〜〜い。」
紅は「おほほほほ。」と高飛車に甲高く笑うと「恋人のくせに、恋人の食べたい物も知らないの?」と憎たらしいことを言っている。
むむむ、と俺が唸ると紅は俺の手に、その紙袋を押し付けた。
「とにかく、これをイルカ先生に渡すのよ。渡すまで、絶対に中を見ちゃ駄目だからね。」
見たらひどいからね、と恐ろしい言葉を吐くと紅は「じゃ、これから私、任務に行くから。」と控え室を出て行ってしまった。
俺の手には、俺には不似合いな、お洒落な紙袋が一つ、残る。
猛烈に紙袋の中を見たかったが、そんなことをすれば紅に、どんな目に合わされるか分からないので我慢した。
イルカ先生の食べたい物って何だろう?
俺の知らないイルカ先生の食べたい物・・・。
この袋の中に未知の世界が待っている、ちょっとだけ、わくわくした。
夕方、家に帰って紅に言付かった袋を渡すとイルカ先生は、ぱあっと顔を輝かせた。
いそいそと袋から中味を取り出す。
「あー、紅先生、覚えていてくれたんですねえ。」
取り出した中の物をを見て嬉しそうにしている。
入っていたのは、保冷剤と、そして高そうな『生ハム』と『チーズ』だった。
「生ハムとチーズ・・・。」
それが、イルカ先生の食べたい物だったのか。
確かに、俺とイルカ先生の食卓に、そんなハイカラなものがあがったことはないけど。
そんなに食べたかったのか!
一言、俺に言ってくれればよかったのに〜。
じーっと見ている俺の視線に気づき、イルカ先生が照れくさそうに笑った。
「あー、これですね。俺が、何か美味しい酒の肴がないかなあって言ったら、紅先生が『お勧めがあるから、後で差し入れるわ』って言われたので、お言葉に甘えたんです。」
あ、任務の資料集めのお手伝いをしたので、そのお礼でってことですよ、と説明してくれた。
「なあーんだ。」
俺は、ちょっと、ほっとした。
イルカ先生が食べたいを、って紅にリクエストしたんでなくて、紅が勝手にお勧めしたものだったことに。
イルカ先生は「折角、美味しそうなものいただいたので、冷えたビールでも飲みましょうか。」と早速、酒の準備を始めている。
まあ暑くなってきたし、冷えたビールは美味いに違いない。
大賛成だ。
お揃いで誂えた浴衣に着替えて縁側で、月を見ながらビールを飲んだ。
イルカ先生と、かちんとグラスを合わせて「かんぱーい。」と言ってビールを飲む。
冷えたビールは喉越し爽やかで最高だった。
イルカ先生も美味そうに飲んでいる。
そして、切り分けた生ハムとチーズを摘んで「おいし〜い。」と顔を綻ばせていた。
「すっごく美味いです。」
「そう。」
「高級なチーズとか生ハムって初めて食べましたけど、この世にこんな美味いものがあったんですねえ。」と少し大げさすぎるほど絶賛している。
おまけに「さすが紅先生!」とか言っちゃって、すっげー悔しい。
美味しいものを食べて、幸せそうなイルカ先生を見るのは大好きだけど・・・。
大好きだけど、それが俺からじゃないなんて!
「イルカ先生!」
「はい?」
「俺、美味いもの、たっくさん探してきますからね!」
「へ?」
「その美味いもの食べて幸せそうなイルカ先生の顔、俺にもください!」
イルカ先生は、口に入っていたチーズをビールで飲み込むと、ちょっと笑ってこう言った。
「カカシさんと一緒に食べるから美味しくて。」
イルカ先生は俺に近寄ってくると、なんと頬に、ちゅっとキスしてくれたのだ。
「そして幸せなんですよ。」
「そうなんですか。」
イルカ先生がキスしてくれた俺の頬が熱を持って赤くなるのが分かった。
「カカシさん、可愛い〜。」
にこにこ笑ってイルカ先生は俺を見ている。
イルカ先生は、ちょっと酔っていた。
ほんのり顔が赤くて、にこにこしていて上機嫌。
あー、もう!
「イルカ先生の方が可愛いです!」
俺は、そう言うとイルカ先生に、がばりと抱きついた。
イルカ先生は歓声をあげる。
縁側だったけれど、俺達を見ているのは月だけだった。
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