今年もよろしく
大晦日。
明日は新年明けて、めでたい正月という、今年ぎりぎりの三十一日まで俺とイルカ先生は仕事をしていた。
していたけど、夕方にはお互いに仕事が終わって落ち合えて、帰り道、酒と大晦日用と正月用の料理を買って、それから注文していた蕎麦を受け取って家に帰ってきた。
蕎麦は勿論、年越しに食べる、年越し蕎麦ってやつだ。
家に帰って来た俺とイルカ先生は代わる代わる風呂に入って、すっかり寛いだ格好になって炬燵に入っていた。
炬燵の上には買ってきた酒と料理が、所狭しと並んでいる。
それを摘みながら酒を飲み、テレビを見ながら他愛もない話をしたりして、すっかりリラックスした俺たちは年越し、そして来たるべき正月を迎える気持ちになっていた。
お酒を飲んで、ほんのり頬を朱色に染めたイルカ先生が俺に訊く。
「そろそろ、お蕎麦食べますか?」
「あ、そうですね。」
年越しには少し時間が早かったけど、さっきから摘みばっかなので、腹に溜まるものを食べたくなっていた。
「じゃあ俺、蕎麦を茹でてきますからカカシさん、器とつゆの準備お願いします。」
そう言い残してイルカ先生は台所に消えていく。
「はーい。」と俺は、いい子で返事をして器とつゆの準備をする。
蕎麦のつゆは買った店でついてきたもので、茹でた蕎麦をつけて食べる、所謂、ざる蕎麦のつゆだ。
程なくして蕎麦が茹で上がり、イルカ先生が蕎麦と薬味を台所から持ってきた。
「美味しそうですね。」
本当に美味しそうで俺は、ほくほくしてしまう。
「じゃあ、いただきましょうか。」
それぞれの器につゆと薬味をお好みで入れて、蕎麦をつけて食べる。
「美味い!」
「美味しい!」
俺とイルカ先生は同時に声を上げた。
そして顔を見合わせて少し笑う。
「お店で食べても美味しいですけど家で食べると、また味わいが違いますね。」
イルカ先生が感慨深そうに言った。
「ですね、お店で食べても美味いですけど。」
蕎麦を買ってきた店は俺とイルカ先生が時々行く蕎麦屋で、美味いので気に入っている。
だから今年の年越し蕎麦を注文してみたのだ。
家で食べても、また美味いだなんて、得した気分だなあ。
「でも、ですねえ。」
蕎麦を食べながらイルカ先生は言った。
「このお蕎麦屋さん、二人前からしか注文受けてないですから。」
口に入れた蕎麦を咀嚼して飲み込んでからイルカ先生は俺を見る。
「カカシさんと一緒じゃなかったら、お蕎麦食べられませんでしたね。」
そうして嬉しそうに、にこっとした。
「そ、そうですね。」
そういや念願叶って、俺とイルカ先生がお付き合いし始めたのって今年から、だもんな。
つまり、イルカ先生が言いたいのって・・・。
俺がいて良かったってことかな。
イルカ先生の一言で猛烈に、どきどきしてしまった俺は、その後に食べた蕎麦の味が全く分からなかった。
そうこうするうちに蕎麦は食べ終わりイルカ先生は、さっさと片付けしてしまう。
「あ、カカシさん。座っていていいですよ。」
「いえいえ、それじゃあいけません。」
俺もテーブルの上を拭いて食器を運ぶのを手伝った。
二人でやれば早く終わるし、それだけ一緒にいられる時間が長くなる。
「ありがとうございます。」
イルカ先生と一緒に片づけをする俺にイルカ先生は、やはり嬉しそうにしていた。
蕎麦を食べ終わってから、俺たちは炬燵に隣通しに座って入った。
一つの面に男二人は、少々狭いけど、くっ付いていられる幸せがあるので文句はない。
イルカ先生とくっ付いていると、何も話さずとも気持ちが、ゆったりしてくるのは何故だろう。
とても穏やかで、温かい気持ちになってくる。
ああ、きっと、好きな人といるからだ。
だから、こんな気持ちになるんだなあ。
いい年越しができそうだ。
遠くで鐘の音が聞こえてきた。
どうやら年が明けたらしい。
大晦日まで仕事をした俺とイルカ先生は、これから正月三が日、揃って休みなのである。
イルカ先生と一緒に正月を過ごせるなんて、すごく楽しみだ。
ふと片方の肩に温もりと重みを感じて、隣のイルカ先生を見ると俺の肩に凭れ掛かって目を閉じていた。
安らかな寝顔から、健やかな寝息が聞こえてくる。
寝てしまっていた。
俺の隣で、安心しきって眠っている。
可愛い寝顔だなあ。
イルカ先生の肩に、そっと手を回して少しだけ俺の方に体を引き寄せる。
その額に俺は口づけた。
今年もよろしくね、イルカ先生。
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