ぬくもり
「寒い・・・。」
イルカは呟いて布団に潜り込んだ。
今は朝で、とっくに起きる時簡になっていたのだが、部屋が寒くて温かい布団から出たくなかった。
十月なのに今朝は気温が低く、まるで冬が一足早く訪れたようだった。
「起きなきゃ、でも、寒い眠い。でも、起きなきゃ。」
呪文のように「起きなきゃ起きなきゃ。」を繰り返すイルカの瞼は一度は開いたものの、再び落ちてくる。
早く起きて、飯食べないと、それから着替えて、出勤の準備もしないと・・・。
そう思っているのに、心とは裏腹に体は睡眠を欲求してくる。
ああ〜、布団に誘惑されているよ〜、遅刻したら布団の所為だ〜。
朝から的外れなことを考えているイルカは、もぞもぞと布団の中で動いていたのだが布団の中で見つけた、ある温かい塊りに、ぴたっと張り付いた。
「あったかい〜。」
温かい塊りはイルカを包んでくれて、その気持ち良さにイルカは、ほわんとなる。
起きなければいけないのに、ずっと、このままでいたいと思ってしまったほどだ。
・・・・・・ん〜、でも。
布団には今、イルカしかいないはず。
温かい塊りは、明らかに人の形で布団の中でイルカを抱きしめている。
現在、同居人は任務でいないはずだ。
じゃあ、この人、誰だ?
そのことに思い至り、不審に思ったイルカは、ぱっちりと目を開いた。
目の前には任務に出ているはずの同居人の顔がある。
「カカシさん!」
イルカを包んでいた、温かい塊りはカカシだった。
目の前のカカシは目を開けたイルカを見て、面白そうに笑っている。
「おはよう、イルカ先生。」
「おはようございます。・・・って、じゃなくて、いつ、帰って来たんですか?」
カカシの帰還予定は、もっとずっと先のはずだ。
「えーとね、予定が大幅に変わって、さっき、帰ってきちゃった。」
楽しそうに話すカカシは、イルカを自分の方に引き寄せた。
「お陰でイルカ先生の寝顔は見れたし、すりすりと擦り寄ってくる様子なんて子供みたいで可愛かったですよ。」
「な、なに言ってるんですか・・・。」
にこにこと笑うカカシの腕の中は温かい。
こんなにカカシが温かいのが悪いのだ。
だって寒かったら、温かいものに吸い寄せられるのは当たり前だ。
そんな風に言い訳しながら、イルカは疑問に思って聞いた。
「カカシさんの体、やたら温かくないですか?」
「ああ、これね。」
ぎゅっとイルカを抱きしめながらカカシは答える。
「汚れていたから帰ってきて、真っ先に熱いシャワーを浴びたんです、その所為ですよ。」
そうか、だからカカシさんは、ほかほかなのか。
再び、温かいカカシに抱きしめられて、ほわんとなりながらイルカは、はっと気がついた。
「時間!」
時計を見ると、出勤時間が迫っている。
「やばい!」
慌ててベッドから飛び出ると、急いで着替えて出勤の準備を、ばたばたと始めた。
「イルカ先生、今日、休みじゃないの?」
カカシが残念そうな顔をする。
任務から帰って来たカカシは休みだったからイルカも休みだったりすると嬉しいのだが現実は、そうはいかない。
「俺は休みじゃないですけど。」
朝ご飯のトーストを少々行儀悪く、出勤の準備をしながら大急ぎで食べるイルカは、食べ終わってからカカシに言った。
「早めに帰ってきますから。」
歯磨きをして顔を洗って、忍服に着替えたイルカは準備万端だ。
玄関まで見送りに来てくれたカカシをイルカは見上げる。
ちょっとだけ心配そうな顔だった。
「どこにも行かないでね、カカシさん。」
「どこにも行きませんよ。」
心配そうなイルカの頬を撫でてカカシは微笑んだ。
「俺は、ここ以外、行くところなんてありません。」
イルカ先生がいるところが俺のいる場所ですから。
カカシの言葉を聞いてイルカは、ほっとしたように笑みを見せた。
「じゃ、行って来ます。」
「行ってらっしゃい〜。」
玄関を一歩出たイルカだったが、くるりと回れ右をすると玄関で手を振って見送るカカシに、すたすたと近寄ってきた。
「どうしたの?遅れるよ。」
不思議そうな顔をするカカシにイルカは、少しだけ背伸びしてカカシの顔を正面から見据える。
「カカシさん、お帰りなさい。」
「ただいま。」
そしてカカシの口に風のように軽く、掠めるように口付けると振り向きもせずに、あっという間に走って行ってしまった。
「行っちゃった。」
ふふ、と笑ってカカシはイルカに口付けられた唇を触る。
イルカの唇の感触が、仄かに残っていた。
「続きは帰ってきてからね。」
愉しみ〜とカカシは浮き浮きした気分で、イルカのぬくもりが残る布団に、いそいそと潜り込んだ。
イルカの匂いに安心する。
ああ、里に帰ってこれてよかった、イルカに会えてよかった。
そう思いながら、カカシは深い眠りに落ちてイルカが帰ってくるまで、ぐっすりと眠っていたのだった。
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