呪い
呪いをかけられた。
女が真っ赤な唇で笑う。
「あんたなんか死ねばいい。」
唇の端を吊り上げて笑った。
「一生、この言葉を聞き続けるがいいわ。」
死んでしまえばいいのよ。
女は呪いの言葉を残し、消えた。
「イルカ、顔色が悪いわよ。」
紅が偶然、食堂で見かけたイルカは、かなり憔悴していた。
目の下に隈ができていて、少し痩せていのだ。
「久しぶりにお酒でも飲みに誘おうと思っていたんだけど・・・。」
紅とイルカは下忍を通して知り合った仲なのだが意外に気が合い、時折、お酒を飲んだりしていた。
イルカが座っているテーブルに座り、紅は顔を覗き込んだ。
「食べないの?」
イルカは先ほどから、言葉も発さずに食事にも手をつけていない。
下を向いて、じっとしている。
もしかして、と思い紅は聞いてみた。
「カカシがいないから寂しいの?大丈夫、もうすぐ帰ってくるわよ。」
カカシとはイルカと懇意の上忍だ。
カカシの名を聞いてイルカの体はビクリと震えたが、すぐに首が横に振られた。
「イルカ・・・?」
いつもと違う様子に紅は首を傾げる。
どこか変だ、違和感がある。
「ねえ、イルカ?」
肩に手を置いた時、紅の指先が微かにビリッとした。
これは。
そう、イルカには、ものすごく高度で難解な幻術がかかっている。
誰も気づけない。
気づくとしても紅のように幻術を専門とし得意とする忍か、もしくは火影かカカシくらいなものだろう。
そして、今、里には火影もカカシも不在だった。
この術をかけた者は自分も死ぬ気で、イルカに術を掛けたに違いない。
イルカを殺して自分も死ぬつもりだ。
早急に手を打たないと確実にイルカが死ぬ。
どうすればいいかと考えた紅は一番確実な手を取った。
イルカが目を開けると、最初に目に映ったのはカカシだった。
カカシがイルカを見て微笑んでいる。
「イルカ先生、目が覚めたんだね。気分はどう?」
はっとしたように、イルカは身を起こす。
「ここは病院だよ。イルカ先生、もう少し安静にしていなきゃ。」
急に身を起こしたイルカの体を支えながら、カカシは穏やかに言った。
「随分、意識がなかったんだから。」
「あ、あの。」
「イルカ先生ね、任務の帰り道に崖から落ちて気を失っていたんだよ。」
「え・・・。」
告げられた事実に、イルカの体から力が抜けた。
「・・・そ、れは本当ですか?」
「うん。そうだけど。」
カカシの目をみると嘘を付いているようには見えず、純粋にイルカの心配をしているようである。
「そう、なんですか。」
イルカは目を閉じて、支えてくれたカカシの腕に身を任せた。
「俺、悪い夢を見ていたようで・・・。皆が俺に死ねと言うんです。」
イルカの体の震えを感じたカカシが強く抱きしめてくれる。
「必ず、皆が会話の最後に俺に死ねと・・・。」
「夢だよ、それは。」
カカシは、きっぱりと言い切った。
「悪い夢を見ていただけだから。」
もう少し寝ていて、とイルカをベッドに横たえるとカカシの存在に安心したのか、すぐに目を閉じて眠りに就いた。
イルカが寝たのを確認するとカカシは静かに廊下に出た。
そこには紅が待っていた。
「どう、イルカは?」
イルカの様態を訊いてくる。
「うん、もう大丈夫だよ。」
「良かった。」
紅は胸を撫で下ろす。
「間に合わないかと思ったわ。」
「ありがとね。」
カカシが素直に礼を言った。
「本当に危なかったよ。」
イルカに呪いを懸けたのは以前カカシに振られた、くの一だった。
死ねをいう言葉が、誰かに言われた言葉の最後に聞こえるという厄介なもの。
例えば「イルカ。」と誰に名前を呼ばれると必ず「イルカ、『死ね。』」と聞こえるのだ。
呪いを掛けられたイルカだけに。
そんなものを聞き続けていれば、いつかは精神に異常をきたす。
そうやって、じわじわとイルカを殺すつもりだったのだろう。
紅は、それに気がつき確実に呪いを解くためにカカシに、すぐさま連絡した。
そしてカカシが呪いを解いたのだ。
「で、術者はどうなったの?」
紅が興味半分に訊くと、カカシが禍々しく笑った。
「聞きたいの?意外に勇気あるね、紅。」
「いえ、結構よ。」
間髪入れず、紅は自分から聞いておいて断った。
どうせ、聞いたら忘れられないくらいに禄でもないことをしでかしているに違いない。
この男はイルカのことになると少し、おかしいから。
「でも、一つ貸しよ。」
紅が人差し指を立てて、一つ貸しということを突きつける。
「ああ、そうだね。」
のんびりとカカシは答え、じゃあ今度奢るよ、と言ったのだが。
「イルカが回復したら、二人きりで飲みに行かせてもらうわよ。」
「・・・え?」
「朝まで飲むから邪魔しないでね。」
それでチャラでいいわ、請求書はカカシに回すから、と。
それから美しく微笑んで見せた。
「ええ〜。そりゃないよ。」
喚くカカシを捨て置いて紅は病院を後にする。
イルカは大丈夫そうだし、良かった良かった。
妙に楽しい気分だった。
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