AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する


そんな年末年始



「イルカ先生の嘘つき!」
カカシに嘘つき呼ばわりされてしまった。
「年末年始は休むって言っていたのに!」
確かに予定は休むつもりだった。
「俺も休むから一緒に年末年始を過ごしましょうって約束したのに!」
約束も破ってしまった。
カカシは、えらく怒っていた。
怒っているカカシなんて稀だ。
それだけ年末年始の休みを楽しみにしていたに違いない。
約束を破ってしまったイルカは言い訳もせずに項垂れた。
言いたいことは山ほどあったのだが日頃から忙しいカカシが年末年始に休むのは並大抵のことではない。
ハードなスケジュールをこなして休みをもぎ取ったことは容易に察せられる。
カカシの苦労をイルカは水の泡にしてしまったのだ。
後悔、余りある。
だから「ごめんなさい」としか言えなかった。



「はああ」
溜め息を吐くと肩が下がってしまう。
ついでに幸せも逃げていくような気がした。
イルカは仕事をしながら気がつくと溜め息を吐いていた。
今日から年末、年始と仕事が押し迫っている。
家に帰る暇もないほどだ。
だいぶ、疲れも溜まっている。
体も心も。
仕事をしながら、ふと思った。
カカシさん、どうしているかな・・・。
今日から新年明けて数日は休みのはずだから家にいるだろう。
もしかして誰かと一緒にいるのかもしれない。
自分じゃない誰かと。
そう考えるとイルカの胸は、ちくりと痛んだがカカシを責めることはできない。
恋人同士とはいえ約束は大切だ。
そして、その元々の約束を破ってしまったのはイルカなのだから。



イルカとてカカシとの約束を最初から破るつもりはなかった。
年末年始の休みの申請は早くからしていたし、そのために仕事も計画的に終わらせてきた。
周りに迷惑を掛けないように仕事を終わらせてきたのだ。
順調にいけば年末年始は休みが貰えてカカシと一緒に過ごせるはずだったのに。
ハプニングは忘れた頃にやって来る。
突発的な出来事が起きたのだ。
それは流行の病気。
いわゆる風邪の一つだったのだが、これが中々の曲者で悪性の病だった。
一度、罹ると回復するまで、かなりの時間を要し感染力も強い。
イルカの仕事の同僚たちは次々と罹病していった。
結果、残ったのは少ない人員と大量の未処理の仕事だ。
年末なので、その量はより多く、また通常の業務もしなければならない。
幸いなことに病気に罹らなかった者数名は、この仕事を終わらせることを余儀なくさせられた。
仕事が終わらなければ年が明けない。
ついでに夜も明けない。
このような事情があったのだがカカシには打ち明けられなかった。
所詮、言い訳にしかならないような気がした。
カカシに仕事のことを言うことは自分に対する甘えにしか思えなかった。



「イルカ、終わった?」
「うん、あとちょっとかな」
年末、一緒に書類整理の仕事をしている同僚は凝った肩を自分で、とんとんと叩いた。
「あー、疲れたなあ」
「うん」
「まさか、今年に限って、こんなことになるとはなあ」
愚痴っているが愚痴りたくなる気持ちも分かる。
「風邪に罹らなかったのは不幸中の幸いとはいえ、この仕事のハードさは泣けるな」
「そうだな」
「それに年末年始、休みじゃないと家族に言ったら怒られてさ」
「ふーん」
同僚は結婚していた。
新婚である。
「でも、正直に訳を話したら仕方がないわねって笑われて」
疲れているのに同僚は幸せそうな顔をする。
「無理しないでねって言われたんだぜ。仕事が終わるのを待っているからねって」
自慢げに言った。
「そっかー、よかったなあ」
「ああ」
同僚は惚気て元気が出たのか、再び、仕事に精を出し始めた。
イルカも仕事を再開したのだが。
カカシさんに本当のことを言えばよかったかな・・・。
少しだけ、そう思った。



「イルカ、朗報だ!交代だ!」
深夜、イルカが受付所の係に就いていると例の惚気た同僚が仕事の交代を言い渡してきた。
今日は今年最後の日、大晦日だった。
「え、なんで?」
交代の時間には早い。
「風邪で休んでいるやつが完治して深夜だけど復帰してくれたんだよ。だから俺たち交代だって」
同僚は瞳を輝かせている。
「今まで、ずっと家にも帰れず仕事仕事だったから交代して家に帰っていいってお達しだ」
「そうなんだ」
はあーっとイルカの肩から力が抜けていく。
家に帰れる、と思うと気が緩む。
「さ、早く帰ろうぜ。俺たちには、これから三日間の休暇が待っている!」
「え、そうなの?」
「ああ」
仕事が交代できる上に休暇も貰える。
イルカの気持ちは一気に急上昇した。
そうして家に帰る頃には年も明けて新年になっていた。



喜び勇んで家への道を歩いていたイルカであったが、その歩みがだんだん遅くなっていた。
足取りが非常に重い。
そうだ・・・。
思い出したのだ。
家に帰ってもカカシさんはいないんだっけ・・・。
イルカと年末年始を過ごせないと知って自宅に帰っているだろうに。
うきうきとした気分が沈んでいく。
家に帰ってもカカシはいないのだ。
待っていてくれる人がいない家。
新年から、なんと寂しいことだろう。
年始からになってしまったけれど休みは貰えた。
これからカカシと一緒に過ごせるとイルカは思っていたが、もしかしてカカシは他に予定を入れてしまったかもしれない。
大晦日、正月に一人で過ごすのはつまらない。
楽しく、誰かと過ごしたいと思うのが普通だ。
一人でもしょうがないよな・・・。
新年早々から後ろ向きな考え方をしてしまっているイルカであった。



「ただいま〜」
玄関を開けて誰もいない部屋に向かって言うが当然、返事はない。
冷たく暗い部屋にイルカは一人でいる。
「疲れたなあ」
心底から言ってイルカは居間の電気を点けて、ずるずると座り込んだ。
居間にあるテーブルに上半身を突っ伏すと疲労が襲ってきた。
眠い。
他にも何か食べたい、風呂に入りたいという欲求もあるが一番は・・・。
「カカシさん・・・」
カカシに会いたかった。
猛烈に会いたくなった。
「カカシさんに会いたいなあ」
瞼を閉じるとカカシの顔が浮かんでくる。
優しいカカシは、いつもイルカを気遣ってくれていた。
力強くあたたかい腕で抱きしめられると安心した。
自分の居場所はここなのだと。
「俺のことギューッと抱きしめてくれないかなあ」
そのときだった。
「はーい、いいですよ」
声がした、と同時にイルカの体を抱きしめる腕が。
背後からイルカを抱きしめてきたのだ。
振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべたカカシがいた。
「カカシさん!」
「はい、俺ですよ」
返事をしたカカシはイルカを、ギューッと抱きしめた。



「ど、どうして、ここに!」
てっきりいないものだ思っていたのに。
なぜにカカシがイルカの家にいるのだろう。
混乱するイルカにカカシは説明した。
「自分の家にいてもつまらないし寂しいし切ないのでイルカ先生の家にいました。さっきまで眠っていたんです」
イルカ先生の家はイルカ先生の匂いや存在感が残っているし寝つきがいいんです、と話しながら、尚もイルカをギューッと抱きしめる。
「イルカ先生の家を大掃除して、あと買出しに行ってました」
「買出し?」
「そう」
すり、とカカシがイルカの頬に自分の頬をくっ付けた。
「お正月の。イルカ先生が帰ってきたら一緒にお正月しようと思って」
遅れてもいいからイルカ先生と一緒がいい、とカカシは言う。
「それに」とカカシはイルカに耳に唇を触れんばかりに近づけた。
「仕事がすごく忙しかったんでしょう?後で知りました。それなのにイルカ先生を責めてごめんね」
謝られる。
「嘘つきなんて言って本当にごめんなさい」
イルカ先生は悪くないのに、と。
「ごめんなさい」
カカシは、もう一度、謝った。



イルカの胸に蟠っていたものが、すーっと融けていった。
もやもやとした感情がなくなっていく。
「俺の方こそ」
イルカはカカシへ向き直ると両手でカカシを抱きしめた。
「俺の方こそ、ちゃんと言わなくてすみません」
妙なことを考えずに最初から言っておけば良かったのだ。 「そんなことないよ、俺だってイルカ先生のことを一方的に責めて・・・」
「違います、俺の説明不足で」
「俺がイルカ先生にきちんと訊けばよかったのに」
しばらく言い合いしていた二人だったが目が合った瞬簡に噴出した。
「これからは、ちゃんと言いますから」
「これからは、ちゃんと訊きますね」
そして惹かれるようにキスをした。
今年最初のキスだ。



「これで仲直りですね」
「はい」
イルカが頷くとカカシはイルカの頬に唇で触れる。
「明けましておめでとう、イルカ先生」
「おめでとうございます、今年もよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
抱きしめあったまま新年の挨拶をした。
「あ、そうだ」
イルカは思い出す。
「俺、今日から三日間、休みが貰えたんですよ」
「本当ですか!」
カカシの目が、きらーんと光った。
「はい。カカシさんも、まだ休みが残っていましたよね?」
「ちょうど三日です」
すると、これから三日間はカカシとイルカは一緒に正月を過ごせることになる。
「嬉しい〜」
カカシは、ギューッとイルカを抱きしめた。
「これから何しますか?初詣?お屠蘇?お節?お年玉?抱っこ?膝枕?マッサージ?」
なにやら色々、混じっている。
「あー、まずは・・・」
イルカは欠伸をした。
「風呂に入って寝たいです」
急激に眠気がきた。
カカシが傍にいると安心して眠くなる。
「いいですよ、まずは寝正月ですね」
対してカカシは元気溌剌だ。
新年といえど真夜中なのに。
「腕枕しますね」
「はい、お願いします」
イルカの返事は眠そうだった。
さっさと風呂を済ませたイルカはカカシのいるベッドに潜り込んできた。



イルカの体をカカシの腕が、ふわっと包み込む。
頭の下にはカカシの腕がある。
腕枕だ。
温かい布団の中で好きな人と二人で、ぬくぬく。
ああ、幸せだ。
イルカは目を閉じた。
安らかな気持ちだ。
隣にはカカシがいて体温を感じて、そこにいると実感できた。
それだけで心が満たされる。
今年は、どんな年になるのだろう。
カカシと一緒なら、きっと幸せな一年になる、とイルカは予感した。




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