ある夏の日
休みの日。
カカシは朝から、のんびりしていた。
イルカの家で。
イルカも休みで一緒に家にいる。
家の中で二人で、のんびりとしていたはずだった。
「暑いっ!」
イルカが怒ったように呟いた。
その日は朝から太陽が、灼熱の陽を燦燦と地上に惜しみなく降り注いでいた。
言うなれば、めちゃくちゃ暑かった。
真夏の太陽が遺憾なく力を発揮していたものだから。
なのでカカシとイルカは家の中にいるものの額に、じんわり汗している。
家の中の窓という窓は開け放っているが、何しろ風が吹いていない。
湿った熱気が家の中に篭って、暑苦しさの拍車を掛けていた。
かといって外は、もっと暑い。
日なたは勿論のこと、日陰にいても暑そうだった。
家の中の方が幾分か、ましというものである。
だけども家の中で涼しくなる手段は扇風機だけ。
扇風機が首を、ゆっくりと回して生ぬるい風を部屋にいるカカシとイルカに送っている。
その生ぬるい風は焼け石に水状態で涼しさとは程遠かった。
「イルカ先生。」
暑さで怖い顔になっているイルカにカカシは言った。
「俺の家、行く?」
訊いてみた。
「クーラーあるよ。」
それは、とても魅力的なお誘いだった。
しかし、イルカは頑として首を縦に振らなかった。
「行きません。」
「なんで〜?」
「行ったら負けなような気がします。」
そんなことを言っている。
「負けるって・・・。何と戦っているの、イルカ先生。」
少々、呆れ顔のカカシだ。
「無理しなくてもいいのに。」
「だって!」
イルカは、きっとカカシを睨む。
「俺だけ暑くて汗かいているのに、カカシさんは涼しげじゃないですか!」
半そで姿のイルカの服は汗で濡れている。
「いや俺も、ちょっと汗かいているけどね。」
「でも、カカシさんが涼しげなのは何でです?」
「何でって言われても〜。」
「俺は暑さに負けません。」と言いながら既に暑さにやられているようで、ふらっとしたりしている。
困ったようにカカシは眉を顰めた。
暑くてイルカは、いらいらしているようだし。
無理っていうか、無謀なことしないで俺の家にくればいいのになあ。
日頃、イルカの家にばかりいるので、こんな時こそカカシに家に来てほしい。
まあ、カカシはイルカと一緒ならば、どちらの家にいてもいいのだが。
朝から容赦なく暑くて朝食も碌に食べないくらいだったら、カカシの家のクーラーを存分に使うべきだと思うのに。
何と言ってイルカを説得したものかと思案しているとイルカが、しゅたっと立ち上がった。
何かを思いついたらしい。
台所に行って棚を、がさごそと漁る音がする。
そのうちに「あった!」とイルカの声がした。
嬉しそうな声が。
台所から戻って来たイルカは、嬉々としていた。
手に持っている物を自慢げにカカシに見せてくる。
「じゃーん!ほら、カカシさん!」
「・・・それ、なに?」
訝しげな視線を向けるカカシを余所にイルカは説明した。
「手動のカキ氷機ですよ!」
「かきごおりき?」
「そうそう。」
頷いたイルカは、そのカキ氷機の上に付いている取っ手を、ぐるぐると回した。
「これで氷を削れば家にいながらカキ氷、食べ放題ですよ!」
「イルカ先生、そんなの持っていたっけ?」
「去年、ナルトが泊まりに来た時に買ったんです。」
「泊まり?」
「はい、カカシさんがいない時にですけど。」
「俺のいない時・・・。」
それを訊いたカカシは渋い顔をした。
別にいいんだけど、いいんだけどね・・・。
ちょっとだけ嫉妬してしまう。
自分が不在の時にイルカが誰かと仲良くするなんて、と。
「さあ、カキ氷を食べましょう!」
渋い顔をするカカシを余所にイルカはカキ氷を作る準備を始めてしまう。
家の冷凍庫あった氷と器とスプーンを二つ持ってきて、がりがりと削り始めた。
あっという間に器に削られた氷が山となる。
冷たく光る氷の山は暑い夏には、ぴったりだった。
「はい、カカシさん、どうぞ。
どこにあったのか、カキ氷用のシロップがかけてあった。
氷の山が赤くなっている。
そこにスプーンが突き刺さっていた。
「どうも。」
受け取ってカカシは一口、食べた。
真夏の暑い日に、ぴったりの味だ。
ひんやりしていて、仄かに甘い。
イルカも自分の分を削り終わって、ほくほく顔でカキ氷を食べている。
「やっぱ夏は、これですね!」
にこにこしていた。
「そうだねえ。」
イルカと一緒に食べるカキ氷は、やけに美味しかった。
暑さも吹き飛んでしまう。
偶には、こういうのもいいかな、とカカシは和む。
だが。
「真夏の食生活はカキ氷が基本ですよね。夏の間はカキ氷さえあれば充分ですね!」なんてイルカが言うものだから。
そんなの駄目だと思ったカカシは。
その日の夜。
イルカを攫うように自分の家に連れて行き。
カカシの家のクーラーをフル回転させ。
涼しい空間で久しぶりにイルカと寄り添って寝ながら。
真夏の夜を爽やかに過ごしたのだった。
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