AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する
ハイスペック専用サーバー
39周年!BIGサンクスキャンペーン


夏の終わり



明日から九月だ。
イルカは仕事の帰り道、高くなってしまった夕暮れ時の空を見上げた。
夏の時は地上から空までが低く感じて、雲にまで手が届きそうだった雄大な迫力を持っていた空が、今の時期は手の届かぬところへ行ってしまう。
まるで夏が逃げて行ってしまったようだ。
「もう秋か・・・。」
何気なく言葉が出た。
暦の上では明日から九月、アカデミーの新学期も始まるし、いつもの日常が戻ってくる。
暑い日も、まだまだ続くだろう。

「それでも九月になると気分は秋なんだよなあ。」
九月の気温は、日中、夏の暑さでも夕方になると少しずつ冷え込み、秋の訪れを感じさせる。
秋は嫌いじゃないけど、少し寂しい季節だ。
意識しなくても感傷的になってしまう。
誰かに自分の傍にいてほしくなってしまう。

そして九月に入れば年末まで、あっという間だ。
気がつくと年の暮れになっていたりもする。

夕日を見ながらイルカは、今日は蒸し暑いけど、もう夏は終わりなんだなあ、と沁み沁みと思った。



家に帰ると朝方、任務から帰って来たカカシがイルカのベッドの中で熟睡していた。
イルカの家なのに、ぐっすり眠っていて起きる気配はない。
だいぶ疲れているのだろう、イルカが帰って来たことに気づきもせずに、すやすやと眠っている。
その健やかな寝顔を見て、ちょっと微笑み、イルカはカカシが起きるまで起こさず待っていることにした。

夕飯は素麺か冷麦でいいかな。
まだ暑いしから冷たいものが夕飯でもいいよね。
すぐに出来るし、カカシさんが起きてから作っても大丈夫だよな。
夕飯のメニューを決めたイルカは手持ち無沙汰になってしまった。

カカシさんが起きるまで、何していよう。
テレビでも見ているか、と、ぐるりと居間の見回したイルカは居間の棚に何気なく置かれた、あるものに目を止めた。
生徒の誰かから貰って、そのままになっていた線香花火だ。
子供は賑やかな花火は好きらしいが、地味な線香花火は苦手らしい。
夏休み中のある日、里中で会った生徒に「これから花火をやるんだ。」と言われた序に「イルカ先生に、これあげる。」と言われて、線香花火の束を渡されたのだ。
「花火でもやろうかな。」
夕暮れ時で、いい按配に外も暗くなってきている。
貰った線香花火をやるのには丁度いいだろう。
冷蔵庫にはビールが準備万端とばかりに冷えている。
どうせなら、とイルカは態々、浴衣に着替えて冷えたビールを何本か片手に持ち、庭で花火を始めた。
一人きりで。



今日は風もなく、花火の火点け用の蝋燭の火も消えることはない。
線香花火には打ってつけの日だな。
そんなことをイルカは思い、子供に帰ったような気分で、うきうきとして花火に火をつけた。
火が点いた花火は、ぱちぱちと燃え上がり、小さな光の玉になっていく。
それを辛抱強く持ち、火花が出るのを待つのだ。
何回か失敗して、揺らして光の玉を落としてしまったイルカは何回目かで、漸く、線香花火を最後まですることに成功した。
「きれい。」
最後まで火花を散らす線香花火を見て、イルカは呟いた。
「儚くて、一瞬で終わってしまうのに、こんなに綺麗だなんて。」
昔はこんなこと思わなかったのに。
年を取ったなあ、と苦笑する。



「俺たち、忍者の一生みたい。」
花火を終えたイルカは縁側で冷たいビールを飲みながら感慨にふける。
「でも、俺、長く生きたいんだよなあ。」
好きな人もいるから、その人とずっと一緒にいたい。
「来年もカカシさんと一緒にいられたらなあ。」
来年と言わず、一生涯と共にしたいと思っている。
「そしたら、きっと幸せだろうなあ。」
飲み干したビール缶を置くと、イルカは新しいビールに手をつけた。
「そうなったらいいなあ。」



「そういう大事なことは本人に直接言ってください。」



後ろから、突然、声がした。
振り向くと、起き抜けのカカシが、ぼうとした顔で立っていて欠伸をしている。
「カ、カカシさん。」
「おはよう、イルカ先生。って言っても、もう夜だけど。」
再び、欠伸をしたカカシは、すてすて歩いてイルカの隣へ胡坐を掻いて座った。
「帰っていたのなら、起こしてくれてよかったのに。」
カカシは拗ねたような口調で言う。
「だってカカシさん、よく眠っていましたよ。起こすの可哀想じゃないですか。」
「イルカ先生が帰って来たのに、一人で寝ている俺が可哀想です。」
「そうですか?」
「そうですよ。」



「それよりも。」とカカシは、ずずいっとイルカに近寄った。
ぴたりと体をくっ付ける。
「さっき、聞き捨てならないことを言ってましたね。」
「え?」
「来年も俺と一緒にいられたらなあ、って。」
「あ、あれ・・・。」
聞かれていたのか、とお酒を飲んでいたイルカは頬が、ほんのりと赤くなっていたが、いっそう赤みを増す。
そんなイルカにカカシは畳み掛ける。



「来年だけですか、それは?俺と一緒にいたいのは?」
「え、えっと。」
口篭るイルカにカカシは顔を寄せて、更に迫った。
「俺は、勿論、来年もだけど、これからもイルカ先生と永く一緒にいたいです。」
「そ、それは・・・。」
イルカも同じ事を思っていたが、カカシも同じ事を思っていてくれていた。
それは、とても嬉しいことだ。


「カカシさん!」
イルカはカカシの両手を自分の両手で、ぎゅっと包み込んだ。
「・・・イルカ先生?」
「好きです!」
「・・・・・・えっ。」
そう言ってイルカは逆に自分の方から身を乗り出してカカシに迫る。
いつもらしからぬイルカの行動にカカシの方が驚いた。



イルカが、きらきらした目を潤ませて自分を見つめている。
何となく妙な気になってしまうのを自制しながらカカシは聞いた。
「ど、どうしたんですか、急に?大丈夫?」
「だって、カカシさん、俺と同じこと思っていてくれたから。」
イルカは満面の笑みだ。
「同じこと?」
「ずっと一緒にいたいって。俺もカカシさんと、ずっと一緒にいたいんです。」
そう言うとイルカはカカシに思い切り抱きついた。



「カカシさん、大好き。」
「イルカ先生・・・。」
積極的なイルカの告白で感動に包まれたカカシであったが、抱きついてきたイルカの背後のあるビールの空缶を見て眉を潜めた。
目で、ざっと数えても二桁ある。
「ねえ、イルカ先生。」
抱きついてきたイルカを優しく抱きしめながらカカシは聞いた。
「あの、ビール一人で全部飲んだの?」
「はい、そうです。」
口調も、しっかりしていて顔も少し赤いだけのイルカだが、カカシが寝ている間に相当の量のビールを飲んだらしい。
きっと、もう冷蔵庫にあったビールはない。

さすがに、あれだけ飲めば酔っ払うだろう。
「そっか。」
お酒の勢いで、イルカは日ごろ思っていたことが口に出てしまったらしい。
普段のイルカ先生なら、恥ずかしがって言わないもんなあ。
こんな時しか本音が聞けないのが悔しいが、でも、これがハッピーサプライズというものかもしれない。


カカシの腕の中で機嫌良く、自分に懐いているイルカを見て可愛さが込み上げてくる。
夏の終わり、カカシは幸せな気分を満喫したのだった。








text top
top