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成り行きパラダイス



その日はアカデミーの野外学習の日だった。
野外学習とはアカデミーの外で忍術、体術等の訓練をする。
生徒たちに数人の教師が引率して、定期的に行われるのだ。
午前中の訓練が終わり、昼休みの時だった。
持参した昼食の弁当を各自が食べて休憩時間で俺は日陰で、ゆったりと座っていた。
すると、ある一団が通りかかった。
「よ!」
手を上げて声を掛けてきたのは上忍のアスマ先生だった。
アスマ先生はアカデミーの元生徒を上忍師として指導してもらっているので面識がある。
「こんにちは」
慌てて立ち上がって挨拶を返す。
「こんにちは、イルカ先生」
隣の紅先生も、にこやかに挨拶をしてくる。
紅先生もアスマ先生と同じ上忍師だった。
「こんにちは、紅先生」
ぺこっと頭を下げる。
その背後にはカカシ先生がいて、目だけで俺を見た。
・・・カカシ先生とは余り話したことがないので正直、どんな人が分からない。
俺は一応、カカシ先生にも挨拶をする。
特に返事は返ってこなかったけど。
で、その後ろにはアスマ先生や紅先生、カカシ先生と同じく上忍と思える人が十数人いた。
上忍が集団でいるとは珍しい。
何してるんだろ?
もしかして里に不審者でも忍び込んだのか・・・。



それが顔に出たのか、アスマ先生が、にやっと笑って教えてくれた。
「上忍が、こんなに集まって何しているんだって顔だな」
「あ、いえ、そんなことは・・・」
思っていたけど。
「別に、サボっているんじゃねえよ」
アスマ先生は銜えていたタバコの煙を吐き出した。
「それに敵が侵入したとかでもねえしな」
「そうなんですか」
とりあえず、ほっとする。
でも、じゃあ、この上忍の集団は本当に何だろう?
「そうそう、心配するようなことはないのよ」
横から紅先生が口を挟んだ。
「偶々、暇な上忍が今日はたくさんいるから、それなら里中や境界に張ってある結界やトラップの点検や張り直しをして来いって火影さまのお達しなの」
なーんだ、そうだったのか〜。
「下忍の指導も今日は三人とも休みでな」
理由が分かると納得。
後ろの方の上忍の何人かは既に何事か作業をしている。
そういや、この近辺はトラップとか張ってあるんだよなあ。
「ということでな」
アスマ先生は言った。
「この辺で少しばかり真面目に仕事するんで、生徒たちにはこっちに来るなと言っておいてくれ」
「了解しました」
それから俺は離れた安全な場所で他の教師たちと午後の授業を再開させた。



授業をしながら、ついつい上忍たちの作業をちら見してしまった。
時々だけど。
上忍たちは地面に線を引いたり、測量したり、メモを取ったりしている。
その姿は、ゆっくりのんびりしていたが手を抜く様子は見受けられず、ああ、この人たちは里を守っているんだなあと実感し、ある意味感動してしまった。
俺も、あんな忍になりたいなあと密かに思ってしまったほどだ。
アスマ先生も紅先生も、てきぱきと動いている。
ただ・・・。
カカシ先生だけはポケットに手を突っ込んで、他の上忍たちが作業しているのをうろうろしながら見ているだけだった。
なまじ、髪の色が銀灰色だから目立つんだよなあ、あの人。
何をしていいのか解らないのかなあ、もしかして。
あっち行ったり、こっち行ったりしているけど何かをしているように見えない。
・・・まあ、案外、俺がそう思っているだけでカカシ先生は何かしているのかもしれないしな。
よほど、見ていたのかカカシ先生が突然、俺の方を見た。
ばっちり目が合う。
俺も仕事中なのに集中していなかったのが、ばれてしまった・・・。
ちら見し過ぎた。
カカシ先生に怒られるかもと思ったのだが。
何故かカカシ先生は俺に小さく手を振ってきた。
そんでもって遠目からでも判別できるほど、にこにこしている。
なんで?
・・・・・・やっぱり、よく分からない人だ。
その後、俺はアカデミーの授業、生徒たちの指導に没頭して気づけば休憩時間になっていた。



休憩時間。
俺は生徒たちに囲まれていた。
「イルカ先生」と呼んでくれて慕ってくれて、ほんと子どもたちは可愛い。
無邪気な笑顔にも癒される。
しかし時には、どきりとするようなことを話すので対応に困ることもあった。
それが今だった。
「ねえ、イルカ先生」
生徒の一人、女の子が訊いてきた。
「恋人いるの?」
「・・・・・・え?」
女の子は小さくても女の子だ。
ませている。
しかも手強い。
しかも俺はこの手の話には弱い。
「恋人いないの?」
笑った顔は、あくまで可愛くて無邪気だ。
釣られて他の生徒たちも訊いてきた。
「イルカ先生の恋人って誰?」
「おしえて〜」
「恋人いるんでしょう?」
「誰なの?」
「恋人と仲いいの?」
「どんな人?」
質問責めだ。
ついでに子どもであっても忍術学校の生徒だ。
それなりに情報も持っていた。
「イルカ先生、今年で二十五歳でしょ、そろそろ結婚?」
「そうだよねえ、適齢期ってやつでしょ」
「イルカ先生はいい人だから恋人いたら、すぐ結婚できるよね!」
うんうん、と皆、頷いている。
俺の事を心配してくれるのは嬉しいが。
・・・なんだか大きなお世話のような気もする。
でも、子どもって、特に女の子はこの手の話が大好きなんだよなあ。
どうしてだろ?



他にも教師はいるのに、この日に限って俺は質問責めにされた。
今日のターゲットは俺か・・・。
恋人なんて生まれて、この方いたことないのに。
それを口に出すのは憚られる。
悲しいが、こんな日もあるよなあ〜。
心の中で涙しながら俺は真実を言おうとした。
だが、その時。
視界の端に上忍の集団が入った。
上忍たちは作業が終わったみたいで立ち話で歓談中。
その中にはくの一も何人かいた。
・・・ふと閃いた。
あの中の誰かが恋人だと言ってしまうのは、どうだろうか。
誰かは言わない、名前は伏せてだ。
そうすれば上手いこと誤魔化せるんじゃなかろうか。
で、適当に流して休憩時間を終わりにすれば・・・。
頭の中で素早く計画を立てた。
こっそりひっそり、あくまで上忍たちには聞こえないように言ってみたら・・・。
俺は小さい声で生徒たちに告げた。
「あのな、実はなあ」
内緒の話は子どもは大好きだ。
「なになに?」と耳を寄せてくる。
「実は、あそこにいる人の中に先生の恋人がいるんだ」
「えー、ほんと〜!」
「うそー!」
一気に盛り上がる。
嘘・・・という言葉が、ぐさっと胸に突き刺さった。
だって嘘だから。
真実を言った方が良かったかなあ、ちょっと後悔。
・・・真実を言っても自分の言葉が自分の胸に突き刺さるだけ、だけどね。
あはははは〜。



案の定、訊かれた。
「誰か教えて」
「誰にも言わないから」
「イルカ先生の恋人ってどの人?」
俺は何も考えず、適当に指差した。
上忍の集団の誰かを指しただけ。
指差すのは少し行儀悪いけど、この際、仕方がないってことで、まあ勘弁。
すると適当に指差しただけなのに。
「へえ、あの人がイルカ先生の恋人なんだ〜」
「カッコいいね!」
「男の人が恋人なの?」
「は?」
最後の言葉に、ぎょっとして自分が指差した方を見ると、そこには・・・。
カカシ先生しかいなかった。
「あ、あれ?」
他の上忍たちはどこに?
さっきまでいたのに。
きょろきょろと周囲を見て探してもカカシ先生しかいない。
生徒たちは、きゃーきゃー騒いだ。
「イルカ先生、本当に恋人いたんだね!」
「結婚はいつするの?」
「恋人がいていいなあ」
「い、いや、えーと、これは、その・・・」
今更、違うだなんて言えやしない。
どうしよう。
自分が蒔いた種だけど収集できない!
「あー、こっちに来る!」
「ほんとだ〜」
「えっ!」
カカシ先生が、ずんずんと俺の方へ歩いてくる。
やばい・・・。
冷や汗が流れた。
今度こそは確実に怒られる。
嘘を言ったから。
嘘が聞こえたから俺の方へ来るのだろう。
得意の雷切りとか、いきなり発動されるかもしれない。



ずんずん歩いて来たカカシ先生は俺のところに到達した。
俺の横に立つと照れたように笑って生徒たちに宣言した。
「イルカ先生の恋人のカカシです」
よろしくねって。
生徒たちは口々に「すごーい」とか「本当なんだ〜」とか歓声を上げているが。
ぐらり。
俺は、よろめいてしまった。
恋人って何だよ、それ。
いつ、何時何分何曜日に恋人になったんだ、俺たち。
碌に話したこともないじゃないかー!
「あ、大丈夫ですか、イルカ先生」
よろめいた俺をカカシ先生が腰に手を回して支えてくれた。
「そんなに恥かしがらないで。いずれは皆に言うべきことでしょう」
・・・って、それはどういうことだ。
カカシ先生は俺に話を合わせてくれているのか?
それにしては話が大げさ過ぎるような。
生徒たちは今度はカカシ先生に質問していた。
「イルカ先生のこと好きなの?」
「そう、大好きだよ〜」
「愛しているの?」
「愛しているよ、とっても」
「どうして好きなったの?」
「理由はないよ、一目惚れかなあ。会った瞬間に好きになったの」
カカシ先生は見るからに照れっ照れっ。
腰に回した手も、そのままに。
「恋人にはいつなったの?」
「さっき」
「なれて良かったねえ」
「そうなんだよねえ、成り行きで恋人になれたようなもんだからねえ」
「ふーん」
「どうやって話しかけようか好感度を上げようか、いつも悩んでいたからね」
だからカカシ先生は俺とそんなに話をしようとしなかったのか・・・。
「ねえねえ、もうキスはした?」
「まだだよ〜」
「いつ、するの?」
「今日」
「結婚は?」
「男同士じゃ無理かな」
「ええ〜」
「同棲はするよ〜」
際どい話になってきたような気がする。
「休憩時間、終わりだ!」
俺はストップをかけた。
生徒たちは「えー」と言いながら戻っていく。
どっと疲れた。
他の教師たちは遠巻きに俺たちを見ているし。
係わり合いにはなりたくないらしい。



「あ、あのカカシ先生」
「はい」
カカシ先生に間近で微笑まれると、どきっとした。
いつも眠そうな目をしているが意外に見目良い人なんだな。
まずは・・・。
「手を離してもらえませんか」
腰に回ったままの手を。
「あ、はい」
素直に手を離してくれた。
で、次は・・・。
「あの、さっきの話は」
ごくり、と俺は唾を飲んだ。
「俺が勝手に言ったことに話を合わせてくれた・・・んですよね?」
まさか、先ほどの話が全部、本当だとか言わないよな。
「俺に合わせて嘘を言ってくれたんですよね?」
「いいえ」
きっぱりと否定された。
「全部、本当のことですよ」
「ま、まさか〜」
「嘘偽りなく真実一路、有言実行です」
・・・なんと答えていいものか。
で、俺は逃げた。
逃げるが勝ち、という、ことわざもある。
「じゃ、じゃあ、俺、まだ授業があるんで、この辺で」
白黒はっきりさせるのが怖かった。
ちょっとだけ、よろめきながら生徒たちの方へを歩いて行くと。
後ろからカカシ先生に叫ばれた。
「イルカ先生!今日、一緒に帰りましょうね!待っていますから!」
恐る恐る振り返るとカカシ先生は手を振っていた、嬉しそうに。
どうやらカカシ先生と帰るのは決定事項のようだ。
一緒に帰ったらどうなるんだろ、俺・・・。
だが不覚にもカカシ先生の嬉しそうな顔を見て、どきどきしてしまった俺だった。




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