なんか変
イルカ先生に思い切って告白してみた。
ずっとずっと好きだという想いを抱えていたから。
「俺と付き合ってください」と。
返事は俺の望んでいたものだった。
イルカ先生は優しく微笑み「いいですよ」と言ってくれたのだった。
それから俺たちは、毎日、一緒に帰るようになったし、食事などもして一緒にいる時間が増えた。
といっても俺がイルカ先生のお宅にお邪魔して、食事をご馳走になることが圧倒的に多かったけれども。
でも、付き合っていくうちに俺は感じていた。
なんかおかしい。
なんか変だ。
だって、これって仮にもお付き合いしている人たちのお付き合いってやつなのかなあって。
夕飯をイルカ先生と食べると食後、俺はイルカ先生とお茶を飲み、少し話をしてから自宅に帰る。
こんなことが、ずっと続いていた。
実はイルカ先生の家に俺は泊まったことはない。
仕事が終わってイルカ先生と一緒に帰り、イルカ先生宅で食事をして帰る。
こんな日々が続いていた。
今日も今日とて食事が終わって、ご馳走様を言うとイルカ先生が自然に立ち上がった。
帰る俺を玄関まで見送るためだった。
「気をつけて帰ってくださいね。」
にっこりしてイルカ先生に言われると俺も、これ以上、長居はできない。
本当は、もっと一緒にいて話をしたりして二人きりの夜を、ゆっくり過ごしたいと思っていたのだけれど言い出せずにいた。
イルカ先生、そういう方面、疎そうだし。
付き合って日は浅いし。
無理は禁物かなあ、と。
俺も待てるだけ待つつもりだし。
だからいいかなと思っていたんだけれど。
だけども、ある晩、あることが発覚した。
その晩のイルカ先生は元気がなかった。
食事をしながら、時折、小さく溜め息をついている。
俺は、とても気に掛かった。
体調でも崩しているのか、それとも重大な悩みでも抱えているか、と。
だったら、俺に話してほしい。
解決にはならないけれども話すことで少しでも心が軽くなるかもしれないから。
こんな時のために俺がいるのだから。
「イルカ先生、どうかしたんですか?」
俺が訊くとイルカ先生は弱弱しく微笑んだ。
「いえ、何でもないんです。」
「でも溜め息ついているじゃないですか。」
「あ・・・。」とイルカ先生は今、気がついたように口を押さえた。
「すみません、俺、溜め息出てました?」
「ええ、少し。」
「すみません。」
再び、そう言ったイルカ先生は項垂れる。
そして、ははは〜と乾いた笑いを漏らした。
「ちょっと落ち込んじゃって・・・。」
そんなことを言う。
普段、明るい人が落ち込むなんて、どうしたのだろう。
俺は心配になった。
「何かあったんですか。」
できるだけ優しく尋ねてみるとイルカ先生は、ふっと息を吐く。
「何かってあったほどでもないんですけど。」
憂い顔だ。
「夏のボーナスが減っちゃって。」
イルカ先生は残念そうにしている。
「夏のボーナス・・・。」
俺は呟いた。
・・・なんてあったのか!
俺は、その事実を今、知った。
いつも給料関係は銀行に振込みだったし、特に金額とか気にしたことなかった。
でも、それを言うと角が立ちそうなのでイルカ先生と同じ憂い顔になってイルカ先生を慰めた。
「そうですよね、減っちゃいましたね。」
残念そうな声を出す。
・・・後ほど、ボーナスとやらが俺にも出ているのか確認してみよう。
「それで買う予定の物が買えなくなっちゃって。」
ぽつり、とイルカ先生が呟く。
「買う予定の物?」
「はい。」
イルカ先生は大きく頷いた。
「ダブルベッドが欲しかったんです。」
その一言に俺は、ときめいた。
ダブルベッド!
なんていうか、めくるめく愛の予感がする言葉だった。
もしかしてイルカ先生が俺に泊まるように勧めてこなかったのはダブルベッドを買ってから、と思っていたから?
現在、イルカ先生が使っているベッドはシングルで成人男性二人が寝ると狭いから?
・・・ダブルベッドで俺と一緒に寝たかったから?
なんか一気に色々、考えて、どきどきとしてきた。
俺の薔薇色、いや桃色、いやゴールデンな生活の兆しが見えてきたのだ。
嬉しい!と思った瞬間だった。
イルカ先生の次の一言で俺の、ささやかな夢が打ち砕かれた。
「ナルトが里に帰ってきたら成長して体が大きくなっていると思うから、今のベッドで一緒に寝るのはきついかなあって。」
「・・・・・・は?」
「今まではナルトが俺より小さかったから、このベッドで二人一緒に寝ても問題なかったんですけど。」
なんですと・・・。
イルカ先生、何を言っているのっての?
俺たち、付き合っているよねえ。
もしかしてもしかしてもしかして・・・。
俺の勘違いとかじゃないよねえ。
確かに今、ナルトは三忍の一人、偉大な忍者と里を出て修行の旅に行っている。
帰ってくるのは当分、先だろう。
成長期のナルトは、きっと大きくなって帰ってくるに違いない。
でも、そのナルトのためにダブルベッドを買うって、一体全体、どういうことなんだ。
ものすごく、いや〜な予感がしてきた。
俺とイルカ先生の話は、どこか噛み合ってないような気がしてくる。
念のため、俺はイルカ先生に確認してみた。
「イルカ先生。」
「はい。」
「俺たち、付き合っていますよね?」
「え?」
え・・・。
も、もう一回。
「お付き合いしていますよね、俺たち。」
「お付き合い?」
イルカ先生が不思議そうな顔をする。
ええ〜、ま、さ、か・・・。
「だって、俺、言いましたよね。イルカ先生に、付き合ってくださいって。」
あの日、イルカ先生は、ちっとも嫌な顔をせず、俺と付き合うことを了承してくれたじゃないか。
俺が説明すると更に驚くべきことが判明した。
「付き合ってくださいって、食事のことじゃなかったんですか?」
「ええっ。」
確かに、告白した日に記念にと思って食事をした。
でも、まさか、食事に付き合ってと思われていたとは・・・。
「じゃ、なんで俺に晩御飯やらご馳走してくれるんです?」
「えと、まあ、そんな時もあるかなあって。」
「そんな時・・・。」
「ナルトやサスケも一時期、寂しかったのか、よく俺の家に飯を食べに来てましたから。」
上忍の俺が子供と同じ扱いって。
じゃ、イルカ先生は俺が一人で寂しいんだと思って飯を一緒に食べていたって訳か。
子供並みの上忍の俺って、いったい・・・。
くらり、と目眩がしてくる。
俺の想いが全然っ、伝わっていなかったのだから。
も〜、どうしてくれよう、この人。
この目の前の愛しい人。
大好きなイルカ先生を。
「あのカカシさん。」
おずおず、とイルカ先生が話しかけてきた。
「なんか目が据わっていますよ。」
ちょっと怖いです、と言うイルカ先生に俺は最高の笑顔で笑いかけた。
「食事が終わってから、お話があります。」
そう言って食事を再開した。
食事が終わってからイルカ先生には、じっくり、たっぷりと俺の話を聞いてもらうつもりだ。
誤解も勘違いも全部、取っ払って俺の想いを解らせてやる!
覚悟していてね、イルカ先生。
そんなことを考えて楽しくなった俺は、ふふふ〜と心の中で笑っていたのだった
後日。
俺の想いを解ってくれたイルカ先生に言われた。
「付き合ってください、だけじゃ解りません。」
だって、あの時、とイルカ先生は拗ねた口調になった。
「俺のこと好きだなんて、一言も言ってなかったじゃないですか。」
そうだっけ・・・。
肝心なことを言ってないなんて、俺も相当、緊張していたんだなあ。
「ごめんね。」
俺は、そう言って愛しい恋人に口付けたのだった。
text top
top