何か一つ
里にいるとカカシは任務の空いた時間にイルカを探してしまう。
それは、カカシの習慣になっていた。
少しの時間でもいいから、傍にいたい、顔を見ていたい。
物陰から見るのも楽しいしね。
そんな訳で、カカシはイルカを探していた。
アカデミーにも受付けにも、イルカはいなかった。
図書館にも資料室にもいない。
イルカが居そうな所は粗方、探したが姿は見えなかった。
任務にでも行ったのかな?
でも、任務前には必ず、知らせてくれるはず。
心配になり、もう少し探してみることにした。
普段は行かないような場所でイルカの気配を感じた。
アカデミーの体育館の裏。
体育館の裏手は森で、人けがない場所だ。
そんな所で何をしているのだろうか?
近づくにつれ、イルカの他に数人の強い気配があるのが分かる。
この強い気配は上忍ものだ。
嫌な予感がして、カカシは足を早めた。
行き着いたアカデミーの体育館の裏で、予想通りイルカは数人の上忍に囲まれている。
上忍の中には、先日まで任務が一緒だった者もいた。
あんなにイルカ先生と自分は付き合っていると、大切にしているんだから、ちょっかい出すな、と念押ししておいたのに。
裏切られた気分になるのが自分でも分かった。
イルカは上忍達に囲まれて顔を引き攣らせている。
かと思うと、困ったような笑い顔になり、ついで血の気の引いた顔になってペコペコと盛んに頭を下げていた。
そんなイルカを見ているカカシは胸が痛くなった。
難癖付けられているに違いない。
自分と付き合っている所為で、余計な火の粉が降りかかることが多いし。
自然、カカシから殺気が発せられた。
「ちょっと何してんの?」
凄みを帯びた低い声が出ても仕方がないだろう。
イルカを囲んでいた上忍達は、ハッとしてカカシの方を振り向いた。
「何だ、カカシじゃないか。」
「殺気がするから、誰かと思ったぜ。」
カカシの様子を見ても特に動じることなく雰囲気的には、やれやれとばかりに肩を竦めている。
イルカに「後はよろしく。」とか「じゃ、そういうことで。」とか言い、カカシには横を通り過ぎる時に肩を叩いて「良かったな。」とか「安心しろよ。」などと言って去っていた。
カカシが想像していた殺伐をした雰囲気ではなく、どちらかというとホッとしたような感じを上忍達からは感じた。
どういうことだろう?
考えるよりイルカに聞くほうが早いだろうと思い、イルカに近づくと顔が真っ赤になっていた。
何かを言われた怒りの所為なのか、恥ずかしさの為か。
どう言って慰めたのもか、とカカシは思案しながら近づく。
「あの、イルカ先生・・・。」
「カカシさんっ、な、なんてことしてんですかーっ!」
「え?」
日頃、イルカは滅多に怒ることはない。
それが、こんなにも怒りを露わにするとは。
「ど、どうしたの。何かされたの?」
慌ててカカシが聞くと、イルカは握った拳を震わせながら一気に捲くし立ててきた。
「何って、何って。何かしてるのはあなたでしょう?任務に言って何を話してるんですかっ。」
「ええ?話し?」
「任務に行って、休憩時や夜寝る前に、おおおおお、俺の話をしてるって。さっきの上忍の方たちが言ってきたんです。」
あいつら余計な真似をしやがって、と腹の中でカカシは思ったが顔には出さずイルカを宥め始めた。
「イルカ先生の話なら少しはしましたが。でも、当たり障りの無い話ですよ。」
ニッコリ笑って誤魔化そうとすると、イルカがキッと睨んできた。
「当たり障りの無い話でも百回も聞けば飽きるでしょ。」
「そ、それは、まあ。」
確かに何回も何回も同じ話しばかりしていたような気がする。
事細かには色々話せないから同じ話しばかりになってしまうのだが。
カカシは同じ話しでもイルカに関することなら十二分に楽しいし。
「だ、だから、上忍の方たちが俺に・・・。」
イルカは、そこで言い淀んだ。
視線がウロウロとしていたが、覚悟を決めたようにカカシを見て言った。
「何か、俺の普段使いの物でも持たしてやってくれって。そうすれば、カカシも少し落ち着くだろうからって。」
「それって、イルカ先生の愛用品を任務に持っていっていい、と言う事ですか?」
何というか、晴天の霹靂?
あいつら、偶には良いことするな〜。
突然の出来事にカカシは喜びが隠し切れない。
「で?で?何を持たせてくれるんですか?」
目がギラギラしてくるのを抑えるのが大変だ。
「えーと、それは。家に帰ってから考えます。」
愛用の万年筆でもいいですか?とイルカはその場で聞いたのだが、もうちょっと何か色気のある物とカカシは思い、やはり家に帰ってから考えてもらうことにした。
あ、アレとかアレとかいいよね。
アレもアレも欲しいなあ〜。
イルカはあげるとは一言も言ってないし、何個も持って行かせようとは思っていない。
二人の考えにだいぶ違いはあるのだが。
円く収まれば問題ないか、と嬉しそうなカカシを見てイルカは自分を納得させた。
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