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七猫変化



「綱手さま!」
シズネが勢い込んで駆け込んできた、火影が常駐する部屋へ。
もちろん、火影である綱手は嫌々ながらも執務中で、シズネは、そんな綱手の付き人のような秘書のような保護者のような存在であった。
「何事だ、シズネ」
既に仕事に飽きていた綱手は、これ幸いと書類と放り出す。
そんなこと綱手がすれば、普段は嗜めるシズネであったが今日は違った。
ひどく興奮している。
「見てください!完成したんですよ!」
今日のシズネは綱手の手伝いをしながら、合間に新薬の研究をしていたはずだ。
・・・ということは。
シズネが言っているのは新薬のことを指すのだろう。
綱手に差し出した手の平の上には、七つの色のフィルムに包まれた七つの小さな包みが乗っていた。
白、黒、鼈甲色、茶色に銀色、白黒のマーブル色に白と茶色と黒の三種のトリプル。
一見、飴玉に見えないこともない。
「なんだい、これ?」
「これはですねえ」
えっへんとシズネは胸を張る。
「遊び心を取り入れた、心と体を癒す新種の疲労回復剤です」
包み紙にも凝ってみました、と余程、精魂こめて開発したのだろう。
「これを口の中に入れて舐めれば、チャクラも回復できます」
「ふーん」
シズネの手の平の上にある包みを一つ取ると、綱手はまじまじと見つめた。
「これは飴玉なのかい?」
「そんなようなものです」
「へえー」
しかし、気になることがある。
遊び心とは何なのだろうか?
それが解らないことには服用できない。
「で、いったい・・・」
どんな効能があるんだい?と綱手が訊こうとしたときだった。
「あ、いけない!」
やば、と口元を押さえたシズネが手の平の上の包み、七種七個を綱手に握らせた。
「研究室で薬缶を火にかけっぱなしで来てしまいました!」
急いで戻らなきゃ、と部屋を飛び出していく。
去り際にシズネは言った。
「もしも、どなたが疲れている方がみえたら、是非とも差し上げてください」
副作用はありませんから、と言い残して。
遊び心については説明がなかった。
「そんなこと言われたってねえ」
渡された包みを見て、綱手は顔を顰める。
しかし。
「ちょっと面白そうだね」
にっと笑う。
「誰かに渡してみようかね」
早く誰か来ないか、と綱手は一応、仕事を再開しながら訪問者を待ち侘びた。



「ただいま、戻りました〜」
疲れた声がして、声の主が綱手の前に現れた。
全体的に、ぼろぼろな感じで。
忍服も汚れて、顔には疲労の色が濃い。
いつもは逆立っている銀色の髪も、よれっとしている。
木の葉の里が誇る忍、はたかカカシだった。
「任務、ご苦労」
「はい・・・」
「明日は休んでいいからな」
「明日だけですか・・・」
「じゃあ、特別に明日と明後日の午前中まで」
「半端ですね・・・」
はあ、と溜め息を吐いたカカシは、ぐったり気味だ。
「目茶苦茶、疲れましたよ。任務地、遠すぎ。それなのに依頼は日数ないし」
遠い任務地まで全速力で飛ばしたようだ。
「行ってみたら急遽、キャンセルになったって式が来て」
骨折り損の草臥れ儲けだったのだ。
「何のために行ったんだか」
カカシの愚痴りたくなる気持ちも解らないでもない。
「まあまあ、済まなかったな」
苦笑いをした綱手は先ほど、シズネにも貰った包みを差し出した。
「これでも食べて元気だせ」
「何ですか、これは?」
「チャクラも回復する疲労回復剤だ」
遊び心の件は黙っていた。
「へえ」
カカシは包みの一つを手に取る。
そして、その場で包みを開けて口の中に入れた。
「甘くもなく辛くもなく苦くもなく、でも甘くもあり辛くもあり苦くもあり。まろやかで濃厚な味がします」
・・・どんな味なのか、さっぱり解らない。
「何だか、元気になってきた気がします」
「そ、そうか、よかったな」
「ご馳走様でした」
丁寧に礼を述べたカカシは部屋から出て行った。



すたすたと歩くカカシは本当に疲労が回復したように見えた。
歩いているのはアカデミーへ続く廊下。
自分の家へではない。
帰る前に寄りたい場所があった。
というより、会いたい人がいたのである。
「イルカ先生、いるかな〜」
駄洒落も言って、絶好調だ。
「任務後はイルカ先生に、すっごく会いたくなるんだよねえ」
任務の期間に関わらず、里に帰ってきたらイルカに会いたくて堪らない。
イルカに会うことで、里に帰ってきたことを実感するのだ。
「イルカ先生〜」
職員室に行くか、そこら辺の教室を覗くか、とカカシが思案していると運のいいことに前方からイルカが歩いてきた。
腕に、いっぱいの資料と思われる冊子を抱えて。
「あ!」
目敏く、イルカがカカシを見つけた。
見つけた瞬間、イルカの顔は、ぱっと輝く。
イルカもカカシに会いたかったようだ。
「カカシさん!」
走り出そうとしたのだが、何しろ手にはいっぱい抱えている。
「イルカ先生!」
カカシの方からイルカに駆け寄る。
「いつ、帰ってきたんですか?」
「つい、さっきですよ」
見詰め合う二人の目は優しくて穏やかで。
自然と二人は微笑んだ。
会えて嬉しい、とっても嬉しいと。
言葉はなくとも意思疎通が出来ている。
そう、二人は恋人同士だったのである。



「これ、どこに持って行くんですか?」
カカシはイルカの持っていた冊子を半分、腕に抱えていた。
お手伝いだ。
イルカは任務帰りの疲れたカカシを労わって、家に帰るように勧めたのだがカカシに拒否された。
「里に帰ってきたら、イルカ先生に真っ先に会いたかったし、会ったなら一緒にいたいんです」
離れていた時間を取り戻したい気持ちに駆られる。
「それは、まあ、俺だって」
渋い顔をしながらもイルカは頷いてしまった。
「じゃあ、今だけですよ」
今はイルカのアカデミーでの授業はなく、資料整理の真っ最中だ。
「これを運び終わったら、家に帰って休んでくださいね」
カカシに約束をさせて、今に至る。
「三階の第二十一資料室までですよ」
「これまた、遠いですね」
アカデミーの三階には資料室が山とある。
ものすごい量の資料が詰まっていた。
その中でも二十番代の資料室は三階の奥まった場所にあり、人けもない。
静まり返った、その場所は生徒たちの間では何かが出ると、アカデミーの七不思議の一つとして語り継がれている。



「到着しました」
イルカが資料室の鍵をポケットから取り出して、開錠する。
資料室の中は少々、埃っぽい。
がらがら、とイルカは窓を開けた。
「換気が必要ですね」
資料室の中にある机の一つに持ってきた冊子を置く。
「整理は今日じゃなくていいので、これで終わりです」
「そうなんだ」
「手伝ってくださって、ありがとうございました」
「とんでもない」
「カカシさんは家に帰って寝てください」
「まあ、そうだねえ・・・」
「俺は少し部屋の中の空気を入れ替えてから戻ります」
「ねえ」
カカシの声色が僅かに変わった。
浮ついている。
「ここって、滅多に誰も来ないんでしょ?」
「え?はい、そうですけど」
何かを感じ取ったのか、第六感か本能か・・・。
ちょっとイルカが身構えた。
「それが何か?」
「うん」
にっこり。
カカシが笑った。
無邪気な笑顔ではなく、邪気な笑顔で。
「じゃあさ」
とんでもないことを言い出した。
「してもいーい?」
イルカの耳元に口を寄せると囁いた。



「してもって何を・・・」
じりじりとカカシと距離を取りつつ、イルカは開いている窓の方へと動く。
いつでも逃げ出せるように。
「何って決まっているじゃない」
言うが早いがカカシはイルカの腕を掴むと、自分の胸へと引き寄せた。
抱きしめる。
「イルカ先生を抱きしめて」
抱きしめる腕に力が入った。
「そんでもって」
覆面を下ろしたカカシの顔が間近にある。
イルカの瞳にはカカシの顔しか映っていない。
「キスするの」
そっとカカシの唇がイルカの唇に重なろうとしたとき・・・。
「だ、駄目です!」
イルカの激しい抵抗にあった。
「こ、こんなところでキ、キスなんて。ここはアカデミーじゃありませんか」
生徒に示しがつきません、とイルカは大真面目だった。
「誰も来ないんならいいじゃない」
「そういう問題じゃないんです」
「誰も見てないよ」
「見てないからいいってもんじゃないでしょう」
イルカは根っからのアカデミーの教師で。
こういうことは一度、口にしたら譲らなかった。
絶対に。
そのことを充分にカカシも知っていたし、解っていた。
なので、割とあっさりと引き下がった。



「・・・じゃあ、諦めます」
「そうして下さい」
ほっとした声をイルカは出す。
「アカデミーでは駄目です」
「家ならいいの?」
キスは止めたものの、イルカはまだカカシの腕の中に捕らわれている。
「家ならキスしていい?」
「家なら・・・」
こくん、とイルカは頷いた。
「家でならイルカ先生にキスしてもいいんだね、軽めのから熱情的なものまで何度でもしてもいいんだよね」
「・・・そんな風に言わなくても」
「いわゆる、フレンチキスからディープなキ・・・」
そこでカカシはイルカに口を押さえられた。
「わーっ!もう言わなくていいです、解りましたから」
カカシの口に触れるイルカの手の平は熱い。
体温が上昇している。
こくこくとカカシが頷くとイルカが疲れたような声を出す。
「解ってくれればいいです」
そう言えば、イルカはカカシの口を押さえていた手を外した。
肩で息をしている。
「もう、帰って寝ますね。イルカ先生、早く帰ってきてね」
「あ、はい。お疲れ様でした」
カカシの帰る宣言を聞いて、イルカの気が緩む。
それを見逃すカカシではなかった。
ぺろっ。
キスはしなかったものの、イルカの唇を舐めてしまった。
「な、何を・・・」
ふるふると震えるイルカは真っ赤になっていて。
ひどく動揺している。
対してカカシは、しれっとしたものだ。
「これくらい、いいでしょ」
これから家に帰るんだし、イルカ先生が帰ってくるまで一人なんだし、と。
「もう!何するんですか!」
イルカは怒っているようだが、怒っているようには見えない。
「・・・あれ?」
ふとイルカが首を傾げた。
「カカシさん、何か食べてました?」
いい匂いがする、とカカシの口元の匂いを嗅いでいる。
「ああ、さっき、火影さまに疲労回復の薬を貰って」
そのときだった。
ぼんっ。
イルカの頭部で白煙が上がった。
その白煙が消えたとき・・・。
イルカの本来の耳が消えて、動物の耳が生えていた。
ぴくぴくと動く、それは。
灰色の猫の耳だった。



イルカの突然の変化に呆気に取られていたカカシであったが、正気に返るのは早かった。
「イルカ先生、すっごい可愛いです!」
「え?え?何がですか」
自分の変化がイルカには解らない。
何かが起こったのは解ったが。
「あれ?何だ、これ。柔らかくて、ふわふわの毛が」
頭に手をやったイルカは本来の耳がある部分に別の存在を確認した。
「動物の耳!なんで?なんで?」
イルカには思い当たる節が全くない。
術も薬も何も。
「あー、もしかして」
カカシは、ぴんときた。
「もしかすると、さっきの火影さまの薬かも・・・」
それしか思い浮かばなかった。



行きたくないと駄々をこねるイルカの手を引いてカカシは、ついさっき訪れた火影の部屋をまた訪れた。
火影の部屋に行くまでにイルカの姿は何人かに見られている。
驚いた顔をされてしまっていた。
明日からどうしよう、とイルカの悩みは尽きない。
火影の部屋には綱手とシズネがいた。
「あっ!」
イルカの姿を見て、シズネが声を上げた。
「イルカさん、私の作った疲労回復剤、使ってくれたんですね!」
猫耳成功!と嬉しそうにイルカを見ている。
「遊び心って、猫の耳になることだったのかい?」
少々、呆れた顔の綱手だ。
「そうですよ〜」
シズネは説明した。
「可愛い猫の耳があったら、癒されるじゃないですか!」
「自分では見えないんじゃないか・・・」
綱手が突っ込む。
「見ている周りも和みますし」
「それは同感」
これはカカシだ。
「頑張って七種類の猫の耳になる疲労回復剤を作ったんです!」
イルカさんのはトラ猫のサバトラの耳です、なんて解説している。
「他にも白猫、黒猫、サビ猫、ぶち、三毛、それにトラ猫のキジトラ!」
猫の耳っていいですよね〜、と言うシズネは連日の仕事では疲れているのかもしれない。
癒されたいのはシズネなのかもしれない。
「まあ、いいけどねえ」
薬の効き目は確かのようなので、猫の耳くらいいいだろうと綱手は考えたようだった。
「しかし、イルカは猫の耳が似合うねえ」
しみじみと言う。
「そうですね!猫耳ナンバーワンです!」
猫だけどワンとか言っているカカシは以前、絶好調が続いているらしい。
「ん?だけどさ」
綱手は、あることに気がついた。
「私が回復剤をやったのはカカシだったはずだ」
余分にはあげてないし、カカシはその場ですぐ口に入れた。
「あー、俺、その手の薬物には耐性があるんで」
カカシが頭を掻く。
「俺は効かないんじゃないですかね」
綱手とシズネの目がイルカに集中した。
主に猫の耳に。
次にカカシに。
視線が交互に行き来する、カカシとイルカに。
ついに視線に耐えられなくなったのか、イルカは下を向いてしまった。



「ふうむ」
唸った綱手はシズネに尋ねた。
「成分を少しでも口に含むと耳が生えてしまうのかい?」
「そうですね、唇に付着して口内に含んだ場合、個人差はありますが考えられます」
・・・口。
・・・・・・唇。
口から口へ。
唇から唇へ。
それらから導き出される言葉は一つしかない。
「違います!」
突然、叫ぶようにイルカは言った。
「誤解です、カカシさんとキスなんてしてません!ただ、唇を舐められただけで!」
泣きそうになっているイルカの猫の耳は忙しなく、ぱたぱたと動き、イルカの心の動きを表している。
しん、と部屋の中は静まり返り、誰も何も言わなかった。
暫くして。
「イルカ先生」
ぽん、とカカシがイルカの肩を叩いた。
「帰りましょ、家に」
いいですよね、と綱手に了解を求める。
「ああ、いいだろう」
「で?いつまで、この猫耳はあるの?」
これはシズネに向けた言葉だ。
「多分、半日から一日くらいじゃないかと」
「解った」
そうしてカカシはイルカを連れて帰ってしまった。
最後、部屋を出るときにカカシは嬉しくて堪らない、笑いを抑えるのが必死の様子であった。
シズネの開発した薬はカカシを喜ばせてしまったらしい。
イルカが家に帰ったら、どんな目に合うのかは考えたくはない。
「シズネ」
「はい」
残っている六個の包み紙。
まだ、薬は残っている。
「カカシに取られないようにな」
厳重に保管されることになったのだった。





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