迎えに来る人
天気が良い麗らかな日、河原を歩いていると土手の方から煙草の匂いが漂ってきた。
誰だろう、アスマか?
アスマなら、こんなところで煙草を吸っていても頷ける。
煙草吸いながら、いつもの口癖でも言っているかもしれない。
アスマだと思って土手に下りると、そこには嘗ての恩師が寝っ転がっていた。
その恩師の名は、海野イルカ。 イルカ先生だ。
寝っ転がって足を組み、片手は頭の下に敷き、片手で煙草を吸っている。
かなり不貞腐れている様子だ。
こんな様子のイルカ先生は初めて見る。
「ん?誰だ?」
イルカ先生は俺の方を見たが、その瞳は、期待していたような誰かを待ち侘びていたような目の色をしていた。
だけども、ほんの一瞬で、それは消え俺を見とめて微かに笑った。
「シカマルか・・・。」
発した言葉は俺の名だ。
イルカ先生は、俺じゃない誰か、を待っているみたいだった。
隣に座ってみる。
「煙草、吸うんすね。」
在り来たりことを言ってみた。
不貞腐れていた理由を聞きたいが、それは本人が言い出すまで聞くべきではないだろう。
「まあね。」
イルカ先生はサラリと言う。
「時々、吸いたくなるかなぁ。」
吸い終わった煙草をコーヒーの空き缶に入れて、次の煙草に火を点ける。
妙に手馴れているから、時々ではなく頻繁に吸っているのかもしれないなぁ。
でも、まあ大人だからな、イルカ先生。
俺が知らないだけで、生徒のいないところでは吸っていて当たり前かもしれない。
イルカ先生は煙草に火を点けると、再び仰向けに転がった。
空を見ながら、ぼんやりと煙草を吸っている。
何を考えているのだろうか。
黒い瞳には白い雲が映つされ、柔らかな日差しが体を包んでいる。
「実はさ。」
イルカ先生が、俺を見ないで話し始めた。
「喧嘩しちゃってさ。」
「喧嘩?」
「そ。落ち込んでたんだよね。だから、煙草を吸って自分を慰めていたってわけ。」
そんな酷い喧嘩をしたのか・・・。
イルカ先生は怒ることはあっても、それは感情をコントロールしながらやっている、と思っていた。
でも、そんなに落ち込むなんて。
落ち込むほどの喧嘩をしたなんて、どんな理由があったのだろう?
さっき、俺を見たとき期待して見えたのは喧嘩相手が迎えに来た、と思ったからなのだろうか。
喧嘩したのにも関わらず、相手を待っているのか。
だったら俺は邪魔かなぁ。
喧嘩した相手には、多少の心当たりがある。
そして、イルカ先生が待ち侘びている人物が来ないわけがない。
というか、その辺で気配がするのは気のせいか。
俺は腰を上げた。
俺がイルカ先生の傍にいることで、新たな喧嘩の火種が生まれないように。
いや、俺もさ、二人の喧嘩に巻き込まれたくないし。
アスマも言ってたしな、痴話喧嘩ほど巻き込まれて、つまらないものはないって。
「じゃな、イルカ先生。」
「シカマル?」
一人になりたくない、っていう目で俺を見るけど。
その目は俺に向けるもんじゃないだろ。
「ちゃんと仲直りすんだぜ。」
寝っ転がってる先生の肩を軽く叩き、俺は再び河原を歩き始めた。
歩いていると後ろのイルカ先生の気配に、もう一つの気配が重なる。
ああ、迎えにきたんだな。
あの有名上忍が。
良かったな、イルカ先生。
俺の方に短く鋭い気が飛んできたけど。
ああ、俺がイルカ先生に触れたのが気に入らないってか。
なんてーか、こう・・・。
触られたくないのなら、最初から喧嘩なんてしなきゃいいだろ。
さっさと仲直りすればいいだろうが。
歯痒いというか、ムズムズしてしまう。
こういう時はアスマに洗い浚い話してしまうに限るな。
そうしよう。
俺はアスマを探して足早に歩き始めた。
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