目撃者
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目撃者



「先輩、どこに行ったのかな」
夜の帳が下りた頃、ヤマトはカカシを探していた。
カカシとヤマトは暗部時代から知っている仲で先輩、後輩の間柄だ。
ヤマトは、きょろっと辺りを見回した。
「今夜、飲みに行くって約束したはずなのに」
再び、辺りを見回す。
「この辺に先輩が居そうな感じがするんだけどなあ」
ヤマトがいるのはアカデミーに面している裏庭で木々が生い茂っている場所であった。
日が伸びたといっても当然、辺りは薄暗い。
「最近、アカデミーに顔を出しているって聞いていたし」
カカシがアカデミーに頻繁に顔を出している理由をヤマトは知らない。
ただ、カカシが見つからないのでアカデミーの付近を捜しているだけである。
「うーん、困ったなあ」
溜め息が出そうになった時、ヤマトに耳に微かに話し声が聞こえてきた。
聞こえてきた声は一人ではなく二人。
その一人には確かに聞き覚えがあった。
カカシだ。
ヤマトは気配を消して声のする方に、そっと近づいた。



近づくにつれてカカシの気配は濃厚になっていく。
それと共に話し声も鮮明に聞こえた。
「そんなに落ち込まないでください。考えすぎです」
「でも・・・」
「大丈夫です、俺が言うんですから」
カカシの口調は優しく、話の内容から察するに誰かを慰めているらしい。
・・・先輩の、こんな声を初めて聞いた。
怖くて厳しい人だとばかり思っていたが、当たり前だがカカシにも優しい一面はあったのだ。
ヤマトは殆ど見たことも聞いたことがなかったけれど。
こんな声を出すカカシの顔をヤマトは見てみたくなった。
「そうですね」
相手の声が、やや明るくなった。 「すみません。毎回毎回、つまらないことで慰めてもらったりして。カカシさん、お忙しいのに」
申し訳ないです、と相手は謝っている。
誰だか分からないが礼儀正しい人だ、とヤマトは好感を抱いた。



「つまらなくなんてないですよ。俺で役に立つのなら幾らでも頼ってください」
カカシは殊勝に言っている。
「そうですか・・・。ありがとうございます・・・」
相手の声が細く弱くなった。
「お気持ちは嬉しいんですが、このままじゃいけませんよね。もっと強くならないと・・・」
「充分、強いじゃないですか!頑張りすぎは体にも心にもいいことないですよ」
カカシは相手のことを本当に心配しているようだった。
「倒れたら元も子もありませんし」
「カカシさん」
相手の感謝が滲んだ声がする。
「俺を頼ってくれてください。あなたの傍にいたいんです」
まるで愛の告白だった。
聞いているヤアトはむず痒くなってくる。
同時に好奇心も沸いた。
ここまで先輩に言わせる人って誰だろう?
すごい美人な人なのか、はたまた可愛い系の人なのか。
好奇心に負けたヤマトは木の陰からカカシの声がする方を覗き込んだ。



「あなたのためなら何でもします」
カカシの言っているこれは、もはや愛の告白と言ってもいいだろう。
告白以外の何ものでもない。
相手は感動したようだった。
「カカシさん・・・」
カカシの名を呼ぶ声も信頼しきっているのが聞いているヤマトでさえ分かる。
木の陰からカカシの顔が、ちらっと見えた。
細めた目が優しく相手を見つめている。
暗くなっていたが忍者の視力では問題ない。
・・・相手の人は。
後ろ姿しか見えない。
カカシと同じように背が高く、頭の天辺で黒髪を結っている。
女性にしては背が高いなあ。
顔は見えなかった。
そして驚くことに二人は抱き合っているようだった。
なぜならカカシの腕が相手の背中に回っていたから。
指無しの手袋はカカシのトレードマークでもある。
見間違えることはない。
先輩もやるなあ〜。
ヤマトは、すっかり二人が恋仲だと思い込んでしまった。
相手の人のこと好きなんだなあ。
ほんわかと和んでしまう。
そこで気が緩んだのか、音を立ててしまった。
落ちている枯れ枝を踏んでしまったのだ。



「だれだ!」
カカシの鋭い声が飛んできた。
ヤバイ、ばれた・・・。
咄嗟に逃げることも考えたが、後々のことを考えると得策ではない。
ヤマトは怒られるのを覚悟してカカシの前に出た。
「あははは〜。先輩、僕ですよ」
なるべく軽い感じで。
いかにもな風を装った。
「なんだ、テンゾーか」
カカシは、すぐに興味を失ったようだった。
腕の中には告白相手を抱きしめたままで。
逆に相手の方が焦っていた。
「えっ!誰ですか、テンゾー?」
現在、ヤマトはテンゾーと名乗っていない。
それは暗部時代の呼び名だ。
「ちょっとカカシさん、離してください」
ヤマトが出てきたことで相手は、すっかり慌てている。
カカシの腕の中から出ようと、もがいていた。
「まあまあ、落ち着いて。イルカ先生」
「えっ!イルカ先生?」
今度はヤマトが焦る番だった。
イルカ先生なら知っている。
今、自分が担当している班の子供たちが度々、口にしている名だ。
イルカ先生はアカデミーの先生で受付もしていて、そして男・・・。
「えっ!」
今度は一段と大きな声が出た。
「イルカ先生って男のひ・・・」
男の人ですよね、と言い切る前にカカシに、ぎろりと睨まれてヤマトは口を閉じた。
自分は失言をしたと悟った。
恋人といえば男女しか思い浮かばなかったのもあるが。
カカシの眉が、きりきりと上がって表情が険しくなる。
・・・先輩、完全に怒っているよ。
すーっとヤマトの背に冷や汗が流れた。
蛇の前に出たカエルの如く、動けずに固まってしまう。
どうしようか。
兎にも角にもヤマトは、この場からの脱出の手段を急いで考え始めた。
だが、先に脱出したのはイルカだった。
「すみませんっ!ごめんなさいっ!」
どんっとカカシの体を両の腕で、力いっぱり押しのけると振り返らずに走って行ってしまった。
その姿が、あっという間に小さくなって見えなくなった。



「あーあ、行っちゃった」
がっくりとカカシは肩を落とした。
「す、すみません。邪魔するつもりはなくて」
ヤマトは必死でいい訳をした。
「あの発言にも他意はないんです」
男の人、という発言のことだ。
単に驚いただけでカカシとイルカが恋仲でも否定するつもりは全くない。
ふっと溜め息を吐いたカカシは肩を竦めた。
「追いかけたいけど今日のところは止めとくか」
イルカの行ってしまった方向を名残惜しそうに見ている。
「これ以上、追いかけると本当に逃げちゃうかもしれないからねえ」
「え?」
「ま、しょうがない。気長にいくか〜、簡単に落とせる人じゃないしねえ」
「え、それって」
カカシの言葉からすると二人は恋仲、恋人同士ではないのか?
先ほどの二人の様子では恋人同士にしか見えなかったが。
ヤマトが混乱しているとカカシは片手をポケットに突っ込んで片手をヤマトに向って、ひらりと振った。
「じゃ、俺は帰るから」
すたすたと暗闇に消えていく。
「え、あの、飲みに行くっていうのは・・・」
ヤマトはぽつんと一人、取り残されてしまった。



翌日か翌々日か。
カカシに尋ねるのは怖かったのでヤマトはイルカに訊いてみた。
「あの、こんなことお尋ねしていいのか分からないんですが」
初対面のヤマトにイルカは、とても礼儀正しかった。
「はい、何でしょうか?」
「先輩とイルカさんって恋人同士なんですか?」
「先輩?」
不思議そうな顔をするイルカにヤマトは説明した。
「あ、先輩ってカカシ先輩のことです」
「もしかして・・・」
イルカが青くなる。
「き、昨日の『先輩』って呼んでいたテンゾーって人はヤマトさん?」
「そうなんです、すみません」
青くなったイルカが一瞬で、かーっと赤くなって俯いた。
耳まで真っ赤になっている。
その様子に何だかヤマトは、ざわざわと胸が騒ぐ。
可愛い人だなあ〜。
男性のあるのかは不明だが母性本能らしきものを刺激されたのだ。
子供みたいだ。
くすっと笑いが漏れる。
「ち、違うんです」
俯いたままでイルカは、ぼそぼそと喋った。
「カカシさんとは恋人なんかじゃなくて、相談に乗ってもらってたら流れで慰めてもらって、その・・・」
イルカの拳が、ぎゅっと握り締められたのが分かった。
きっと顔を上げたイルカがヤマトの目を真っ直ぐに見つめてきた。
逸らすことはない。
「カカシさんと俺は何でもないんです。時々、落ち込んでいるとカカシさんが傍にいてくれて・・・。俺が甘えすぎていました」
少し微笑んだ。
「俺がカカシさんの恋人なんてあり得ませんよ、カカシさんにはもっと相応しい人がいるはずです」
それでは失礼します、とイルカは一礼すると颯爽と去って行った。
その足取りに微塵の迷いもない。
礼儀正しくて、子供みたいに可愛くて、そして本当は強い人なんだなあ。
それがヤマトがイルカに持った印象だった。



その後。
何がどうなったのか、ヤマトはカカシに吊るし上げられていた。
言葉通りの意味で。
「テンゾ〜、イルカ先生に何、話した?」
「え、特に何も話してませんけど」
「嘘つくな」
カカシの低い声には怒りばかりではない殺気も含んでいた。
「ヤマトさんっていい人ですね、って褒めてたぞ」
「あ、それは・・・」
「初対面の相手にも親身になってご忠告してくれて、とか嬉しそうにしていたし。何をご忠告したんだよ?」
「そんなご忠告ってほどのもんじゃなくて」
カカシの怒りようは凄まじい。
本当のことを言ったら、どんな目に遭うか知れない。
「あれからイルカ先生、俺に近づいて来ないし話しかけても逃げられるし」
カカシに締め上げられて、ついにヤマトは本当のことをいう羽目になった。
真実を知ったカカシは一言、ヤマトに告げた。
「人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られてしまえ!」
やっぱり怒られた。
あー、先輩、やっぱりイルカさんのこと好きなんだ。
ヤマトは確信した。
それから尊敬する先輩の恋が成就するように密かに願っておいたのだった。





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