もこもこ
忙しい受付け所も午後一時を過ぎると、ふっと人が途切れる時間帯がある。
ぽっかりと空く時間が存在するのだ。
「暇だな・・・。」
イルカの隣に座っていた五代目火影の綱手が、ぽつりと呟いた。
イルカは、それを聞いて苦笑いをする。
忙しければ忙しい、と愚痴るのに暇だと暇で、嫌らしい。
「そうですね。でも、すぐに忙しい時間帯に入りますから。」
午後三時を過ぎると任務を終えた忍で受付け所は、ごった返し始める。
今は暇な時間帯なので受付け所にいるにはイルカと綱手の二人きりだ。
「まあ、そうだねえ。」と相槌を打った綱手は受付け所の隅に置いてあるダンボールの箱に目を止めた。
「あれは何だい?」
「ああ、あれは・・・。」
イルカは説明した。
「アカデミーのクリスマスの劇で使う動物の着グルミが入っているんです。」
クリスマスの劇で使うので備品室から持ってきたので、受付けが終わってからアカデミーへ運びます、と言う。
「ふーん。」
何気なく聞いていた綱手は、ふと疑問に思い訊いてみた。
「着グルミなんて必要ないだろう?変化の術でも使えばいいじゃないか。」
「まあ、そうですね。」と再び、イルカは苦笑いをする。
「劇をするのは低学年の子供たちなので変化の術が、まだ上手く使えないんです。」
なので着グルミで代用するらしい。
「へええ。」
聞いた綱手は興味が沸いたらしい。
イルカに言った。
「その着グルミとやらを、ちょっと着てみておくれよ。」
暇に飽かせてイルカに、そんなことを命じる。
「えっ。いや、着グルミと言っても子供用なので私には小さくて・・・。」
「なら子供になればいいじゃないか。」
綱手は、そう言うとイルカに変化の術を掛けた。
ぽんと煙と共に、五、六歳くらいの子供に変化したイルカが現れた。
「ほうら、これなら着れるだろう。」
満足そうに言う綱手に逆らえるはずはなくイルカは、渋々、着グルミを切る羽目になる。
「どうですか?」
イルカはパンダの着グルミを着てみせた。
着グルミは顔を出すタイプのもので、顔の他は全身、もこもこの着グルミで覆われている。
「うむ。」と綱手は頷いて「パンダは森にいるのかい?」と全く、別なことを言っていた。
「さあ・・・。」
首を傾げるイルカは困ってしまう。
「まあ、いいか。」
綱手は自分で言っておきながら、捨て置いてイルカに近寄り、よしよしと頭を撫でた。
「可愛いじゃないか、イルカ。」
にこにことしている。
「では、綱手さまも着られたらどうですか?」
イルカは他の着グルミをダンボールの箱から引っ張り出す。
「ほら、このピンクのウサギの着グルミなんて可愛いですよ。」
「ほおお。」
着グルミを見た綱手は何となく面白くなって、ぽんと自分も子供に変化した。
イルカを同じくらいの年齢の子供だ。
「わあ!綱手さま、可愛らしいですね!」
子供の綱手を見てイルカは声を上げる。
「子供はみんな、可愛いもんさ。」
綱手は言いながら、いそいそとウサギの着グルミを着た。
「ほう、なかなか、あったかいもんだねえ。」
着グルミを着た綱手はご満悦な表情でイルカの横に立った。
子供のイルカを二人して並ぶと、まるで子供時代に還ったような気分になって、うきうきとしてしまう。
偶には子供になるのもいいかもねえ。
綱手が、そう思った時だ。
着グルミを着ていたイルカが、カチンと固まってしまった。
目を見開いている。
「ん?どうしたんだ?」
イルカの視線の先を見ると、そこには受付け所の入り口に報告書を出しに来たと思われる忍が多数いて、着グルミを着たイルカと綱手を、じっと見ていた。
忍たちは微笑ましい気分で好意的な視線で見ていただが、子供に変化して着グルミを着ていた二人は、途端に恥ずかしくなる。
「あっ、これは・・・。」
綱手は火影の威信で、一瞬にて着グルミを脱ぎ変化を解いて大人の姿に戻った。
「あははは〜・・・。あー、これは、その・・・。ちょっと気分転換に着てみただけだよ。そうそう、イルカに誘われてさ、まあ、付き合いみたいなもんで・・・。」
「ええっ!最初は綱手さまが・・・。」
着グルミを着た子供のイルカが抗議したが、子供だけあって迫力も説得力もなく、可愛さだけが残ってしまうような声だった。
おまけに綱手に変化の術を掛けられたのでイルカは変化の術を自分で解くこともできずに、おろおろとしている。
そうこうしているうちに、そこへカカシも現れた。
「イルカ先生!」
受付け所に飛び込んできたカカシはイルカの姿を見て、目を異様にキラキラさせている。
「どうしたんですか?こんな可愛い格好して。」
目を細めて嬉しそうに顔を緩めていた。
カカシの出現により、より注目を集めて窮地に立たされたイルカは混乱したのかパニックに陥ったのか、その両方なのか、わーっと叫ぶと着グルミを着た可愛い格好のまま、大人の忍の足の間を巧みに擦り抜けて受付け所から走り去ってしまった。
一連の流れを見ていた忍たちから「あーあ。」と問い詰められるような目で一様に見られた綱手は眉を顰める。
「私が悪かったって。だから、そんな目で見るな。」と手を振るとカカシに言った。
「イルカを連れ戻しておいで。私が変化の術を掛けたから解けるのは私しかいないし。」
上手く宥めて連れて来るんだよ、と綱手に言われてカカシは嬉々としてイルカの跡を追って行ってしまう。
それから、暫く後、着グルミを着たままカカシに抱っこされたイルカが受付け所に戻ってきて、やっと綱手に変化の術を解いてもらったのだが、その時にも、やはり皆に注目されて子供姿に、ちょっとトラウマを持ってしまったらしい。
カカシは言わずもがな、イルカの子供姿を見れて、いつまでも喜んでいたのだった。
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