眠る人
夕方、俺は上忍の控え室でイルカ先生を待っていた。
帰りは一緒に帰りましょう、と約束したからだ。
仕事が終わったらイルカ先生が俺を呼びに来てくれることになっていたのだが、肝心のイルカ先生が中々来ない。
外はもう薄暗く、夕闇が下りている。
約束の時間を、既に十分過ぎていた。
なのにイルカ先生は来ない、気配もしない。
どうしたんだろう、と心配になってきたのだが、イルカ先生、きっと何か急用が入ってしまったんだ。
そう思って、もう少し待つことにした。
更に、十分待って、合計二十分待った。
イルカ先生は、まだ来ない。
約束の時間に遅れることはない人なのに。
もしかして、俺との約束忘れちゃったのかな、と寂しくなってしまう。
いや、そんなことはないはずだ。
イルカ先生を俺から迎えに行こうかと思ったのだが、俺は先日、イルカ先生との約束の時間に一時間も遅刻してしまったことを思い出した。
ついつい寝坊したのだ。
あの時、イルカ先生は辛抱強く待っていてくれたっけ。
俺は、もう少しだけイルカ先生と待つことにした。
イルカ先生まだかな〜。
待っている時間が、とてつもなく長く感じる。
指が、とんとんと膝を叩き始め、つい貧乏揺すりもしてしまう。
まだかな〜まだかな〜。
待っているのって辛いんだね。
この前、イルカ先生が俺を待っていた時も、こんな気持ちを味わっていたんだろうな。
俺は大いに反省した。
人を待たせてはいけない。
ついでに七班の待ち合わせの時間にも、ちょっぴり早く行こうと思った。
更に、もう十分待った、つまり約束の時間から三十分が経過したことになる。
本当に何かあったのかも、と俺は急に不安になってきた。
我慢して辛抱強くイルカ先生を待っていたけど、遅れるとの連絡もなければ、一向に気配もない。
きっと何かあったの違いない。
俺は控え室のソファーから立ち上がるとイルカ先生と迎えに行くことにした。
何かあったのなら、俺が急いで助けに行かないと。
確かイルカ先生、今日は一日アカデミーって言っていたよな。
俺は廊下を、せかせかと歩きながら、まずはアカデミーに迎えに行くことにした。
意外にもイルカ先生は、すぐに見つかった。
アカデミーの職員室に行くと一箇所だけ電気がついている場所があり、そこがイルカ先生の机がある場所で、そこにイルカ先生はいた。
イルカ先生の無事な姿を見て俺は、ほっと一安心した。
よかった〜と胸を撫で下ろして、イルカ先生に近寄って声を掛けようとしたのだが・・・。
イルカ先生は机に突っ伏して、すやすやと眠っていた。
外した額宛が机の上に置いてあり、脱いだベストが椅子の背に掛けてある。
組んだ腕を枕にしてイルカ先生は、職員室で眠り込んでいたのだ。
横には丸付けをしたと思われるテストが山積みになっていた。
疲れて眠ってしまったのかな。
イルカ先生は、俺の気配にも気づかないで未だに、健やかな顔で眠っている。
その起こすのが可哀相になってきた。
このまま、眠ったまま連れて帰れないだろうか。
そんなことを真剣に考えてしまう。
それにだ。
ううむ、と声に出さずに俺は唸り腕を組んで、寝ているイルカ先生を見下ろした。
額宛もベストも身から外すと、こうも変わるものなのか。
なんていうか、これは、これは!
「いやはや、なんとも無防備ですなあ。」
ごくりと唾を飲み込んで、思わず本音が声に出てしまう。
その時、寝ているイルカ先生の額に解れた前髪が、一筋の髪が、はらりと落ちた。
ただ、それだけなのに。
どきり、とした。
イルカ先生は何もしていないのに、こんなに色っぽいのは何故なんだ。
眠っているだけのイルカ先生から妙に色気を感じて、俺は目を逸らそうとしたのだが逸らせない。
目が釘付けだ。
心臓はどきどきが収まらず、イルカ先生から目が離せず。
それに、ただ眠っているイルカ先生を見ているだけなのに、悪いことをしている気分になってくるのは何故なんだろう。
イルカ先生を起こすべきが起こさぬべきか。
写輪眼を、ぐるぐると回しながら眠っているイルカ先生を見ていた俺は、結局、イルカ先生が自ら目覚めるまで悩んでいたのだった。
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