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Married Me



イルカがそれを聞いたのは幼い頃からの知り合いの上忍のアスマからだった。
「とにかく、一度会ってくれねえか」
「会うのは構いませんが」
眉根を寄せたイルカの口調は重い。
「俺が会って、どうにかなるものなのでしょうか」
「さあなあ」
煙草の煙を燻らせて、アスマも眉根を寄せる。
「どうにもなんねぇかもなあ」
どこか余所事だ。
「あいつも、よく分からねえヤツだらかなあ」
ふうと溜め息ともつかぬ風で煙草の煙を吐き出す。
「イルカに頼むのは筋違いかもしれんがな」
「いいえ、俺でお役に立てるのなら」
公園のベンチで座っていた二人は立ち上がった。
「それでカカシさんは今、どこに?」
「まだ、病院だ」
二人は肩を並べて歩き始める。
「ったくよー」
面倒くさそうにアスマは言った。
「記憶を失くすなんて厄介なヤツだぜ」
「しょうがないですよ。運悪く、そういう術に掛かってしまったんですから」
苦笑したイルカが取り成した。
「任務中の事故なんですから」
「イルカは優しいなあ」
目を細めたアスマは子供にするようにイルカの頭をがしがしと撫でた。



アスマの説明に寄ると任務中の事故でカカシを記憶を一時的に失くしているらしい。
何か切っ掛けがあれば思い出すらしいのだが、その切っ掛けの手掛かりが不明なのだ。
物か人か食べ物か、はたまた呪文か合言葉か、景色なのか環境なのか・・・。
一応、一通りは試してみたのだがカカシの記憶は戻らない。
頼みの綱のカカシの愛読書を見せても朗読しても駄目だった。
ちなみに朗読はアスマが嫌々したのは内緒の話だ。
そしてカカシを面識のあるイルカに白羽の矢が立った。
「俺に会ったくらいでカカシさんの記憶が元に戻るとは思いませんが」
カカシとイルカは教え子を通じて知り合い、会えば挨拶をして、少し時間があれば世間話をするくらいで親しくはない。
「もっと親しい方との面会した方がいいんじゃないかと」
最もなイルカの言葉にアスマは顰め面になった。
「親しいヤツなあ」
視線が空を向く。
「あいつの親しい奴らは」
───もういないからな。
呟いた言葉は青い空に吸い込まれていった。



案内された病室に入ると、そこにはベッドで上半身を起こしたカカシがいつものように本を読んでいた。
いつも携えている愛読書をカカシは普段と変わりないように見える。
違うのは入院しているので寝巻きを着ていることと、トレードマークと化しいている顔半分を覆う覆面がないことだけだ。
「あ、髭!」
アスマの名前を知らないのか、カカシが入ってきたアスマを見て叫ぶ。
「それは止めろって言っただろーが。俺はアスマだ、猿飛アスマ」
「分かった分かった」
ちっとも分かってない風なカカシは「で?」と言葉を続ける。
「髭、何か用?」
やっぱり分かっていなかった。
「今日はてめぇの知り合いを連れてきた。会えば、もしかして記憶が戻るかもしれねえからな」
「ふーん」
「おい、入ってこいよ」
廊下で待たせていたイルカを呼ぶ。
「あ、はい」
おずおずと入ってきたイルカにカカシは目を瞠った。
眠そうな目が大きく見開いて、目が釘付けになっている。
「あの、お加減は如何ですか」
イルカは無難に尋ねる。
「俺はイルカと言うんですが覚えていますか」
そこまで言ったイルカにカカシがベッドの上から手招きした。
ちょいちょいちょいと。
「お!今までと反応が違うぞ」 どうやら今までと反応が違って、イルカは特別らしい。
戸惑っているイルカの背をアスマは押した。
「イルカ、ちょっと傍まで行ってやってくれ」
「あ、はい」
恐る恐るといった感じでイルカはカカシに近づいていく。
近くまで行き、ベッドの傍に立つイルカをカカシは見上げる。
イルカが部屋に入ってきてから視線を外していない、じっと見つめていた。
「イルカさん」
何故かイルカの両手を自分の両手で包み込むように掴んだカカシはイルカを、そう呼んだ。
「はい・・・」
そんな呼ばれ方は初めてでイルカは内心、どきりとしてしまう。
いつもは『イルカ先生』なのに。
なのに、なんで突然──。
イルカの両手を逃さぬように握りながら、カカシはにこにことしている。
その笑顔は無邪気だ。
かわいい。
それなのに無邪気で、かわいいカカシの口から爆弾発言が飛び出した。



「俺と結婚してますよね」



たっぷり一分間ほど部屋に沈黙が落ちた、ブリザードを伴って。
ひゅううと季節外れの目に見えない吹雪が部屋の中で荒れ狂う。
先に正気づいたのはアスマだった。
さすが上忍と言うべきか。
「カカシ、てめえ・・・。何言ってやがんだ」
頭、大丈夫か?なんて失礼なことまで言い出している。
「記憶と一緒に常識も失っちまったのか?結婚できるのは男と女が世の常だぜ?」
「バッカだなあ、髭は」
カカシは、やはりイルカから片時も目を離さずに肩を竦めた。
「愛に境界線はないんだーよ。性別も年齢も空間も次元も輪廻も総てを凌駕し超越するの」
髭はなーんにも解ってないのね、と。
イルカを見つめる眼は蕩けていて、正に愛しい者を見ている眼だ。
「あのなあ」
アスマが吐いた深い深い息は間違いなく、溜め息だった。
「せめて『結婚してください』だろ、いきなり結婚していたなんて男相手に断定するカカシの頭の中はどうなってんだ、いったい」
「あのう」
今だ、カカシから手を離してもらえず、勝手にカカシと結婚したことになっているイルカは心底、困った顔になっていた。
「俺はどうしたらいいんでしょう?」
カカシの記憶を取り戻すために来たはずなのに、何だか話が変な方向に進んでいる。
全く予想だにしない方向に。
「どうしたらって、まあ、その、なんだ・・・」
アスマも困り果てている。
ただ一人、カカシは───。
「結婚しているんだから何も悩むことなんてないでしょう」
幸せそうな顔をしていた。
「俺たち愛し合っているんだから」
カカシのイルカの手を握る手に力が入り、言葉に熱が篭もる。
逃さない。
口に出さずともカカシは、そう言っている。
・・・・・・カカシは上忍でイルカは中忍で。
ひくと米神が引き攣ったイルカは逃げ道がないのを密かに悟った。
俺、これからどうなるんだろう?
イルカは一抹どころか、二抹も三抹も不安を覚える。
カカシと結婚していることになったイルカはどうなるのか。
イルカの明日はどっちだ!
それは誰にも判らない、神のみぞ知るであった。





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