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真夏のあなた



七月になって毎日、茹だるような暑い日が続いていた。
真夏の暑さ、猛暑日だ。
「毎日毎日、暑いですよねえ」
イルカが額から流れ出る汗をハンカチで拭う。
いつも額にしている木の葉のマークが入った額宛は今は首まで下げている。
「そうですねえ、暑いですねえ」
言ったカカシは暑さなんて、どこ吹く風といった風情で、全く暑そうには見えなかった。
普段している覆面も顔に斜めがけしている額宛も位置が変わらない。
「暑いといいつつも」
イルカは苦笑する。
「カカシさん、ちっとも暑そうに見せませんよ」
むしろ涼しそう、と。
「そう見えるだけですよ」
カカシは肩を竦めた。
「俺だって、暑さも寒さも感じますよ〜。ただ、隠しているだけで」
「へー」
「暑いから冷たいビールも飲みたくなるわけで」
くいっとカカシがグラスを傾ける仕草をする。
「というわけで、イルカ先生。今晩、お暇なら飲みに行きませんか?」
「それはいいですね」
イルカは笑顔になる。
「ちょうど、俺も誘おうと思っていたところです」
昼間、偶然に会ったカカシとイルカは、そんな会話を交わし。
晩に飲みに行くになった。



「ふーっ」
冷えたグラスに注がれたビールは、キンキンに冷えている。
そのビールを一口飲んだイルカは満足そうに息を吐き出した。
「美味いですね、この季節のビールは格別です」
「ですよねえ、生き返ります」
カカシも美味そうにビールを飲んでいる。
カカシとイルカ。
二人は階級は違えど相性がいいのか、仲が良く、よく行動を共にしていた。
食事や酒を飲みにも数え切れないほど二人で来ている。
二人の休みも重なったときも、互いの家を行き来したりして、自宅で食事をしたり飲んだりもしている仲だ。
だけど。
暑くなってからというもの、互いの家を行き来することが、ぱったりとなくなってしまっていた。
主にイルカが家を行き来するのを避けている。
それとなく誘うのだが、総てさり気なく断られていた。
・・・なんでだろ?
イルカとの付き合いに心地良いものを感じていたカカシは気になってしまう。
・・・イルカ先生、俺のこと嫌いになった?
の割には今日は一緒に飲みに来ている。
楽しそうに話して飲んで、カカシを嫌っている風には、全く見えない。
むしろ、イルカの言葉の端々や態度からカカシへの好意みたいなものが伝わってくる。
・・・どうしてかなあ。
どちらの家でもいいのだが、自宅であれば時間を気にせず飲むことが出来るし、時間が遅くなれば泊まっていっても問題はない。
二人だけで邪魔も入らず、ゆっくり出来るのでカカシは気に入っていた。



「イルカ先生」
明日は休みだ。
「よかったら、この後、俺の家で飲みなおしませんか」
思い切って誘ってみた。
「いい酒が手に入ったんですよ。ぜひ、イルカ先生に飲んでもらいたいなあ」
ちょっと強引な誘い方だったかもしれない。
「え?この後、カカシさんちにですか」
うーん、と眉間に皺を寄せて考えたイルカは首を振った。
「今回は遠慮しておきます」
せっかく、誘ってくださったのにすみません、と申し訳なさそうに頭を下げる。
ここで、いつもならカカシも「そうですか」と引き下がるのだが、今夜は珍しく食い下がってみた。
「イルカ先生、今夜は用事でもあるんですか?明日は休みですけど予定とか」
「え・・・。いや、別に予定とかないですけどね」
ビールに口を付けたイルカが、ごにょごにょと言い訳をする。
「だって夏ですし、暑いし」
言い訳になっていない。
「じゃあ、俺がイルカ先生の家に行ってもいい?」
切り口を変えてみた。
「え・・・。俺の家・・・」
「そう、イルカ先生の家にお邪魔してもいいですか?」
「だ、だめです」
今度は、すごい勢いで頭を横に振る。
「絶対だめ!」
余りにも激しく拒否するのでイルカの様子にカカシは不満を感じる。
ここまで拒否されるとは思ってもみなかったのだ。
「そう・・・。なら、いいです」
あっさり、引き下がる振りをする。
「そうですか、すみません」
イルカは謝りつつも明らかに、ほっとしたようで。
そんなイルカに何故か、苛付いてしまったカカシであった。



イルカ態度に腑に落ちないものを感じカカシは一つの疑問を抱く。
あの後、別の店で飲み直しなどはせずに、一軒目の店で分かれ帰宅の途に着いた。
イルカはカカシとの会話を特に気にしている様子はなく、いつも通りで話も弾んだ。
それはいいのだが。
家に帰る途中でカカシは、ふと気がついた。
自分の他にイルカの家を訪ねる者がいるのかもしれない。
そんなことに思い至った。
だから、自分を自宅に招きたくないし、カカシの家に来るのも渋るのだ。
もしかしたら、イルカの家に住んでいるのかもしれない。
そう考えると居てもたってもいられなくなる。
焦燥感に駆られてしまう。
何を焦っているのか、自分でも不明だがイルカが自分以外の誰かを自宅に招き、二人きりでいるのかと思うと不快感しかない。
「・・・行ってみよう」
イルカの家へ。
やっぱり来ましたとか、酒が飲みたくなってとか理由は何でもいい。
まだ宵の口だ。
とりあえず、とカカシは大急ぎで家へ戻ると、先ほどイルカに話した例のいい酒と持ってイルカの家へと直行した。



イルカを分かれてから、さほど時間は経っていない。
せいぜい、三十分といったところか。
イルカの家の前まで来ると微かに水の匂いがした。
風呂にも入っていたのかもしれない。
玄関の前に立つと、すうと息を吸い込んだカカシは大きく玄関扉を叩いた。
コンコンコンではなく、ドンドンドンといった風に。
部屋の中にイルカに聞こえるように。
扉を叩く音と同時に部屋の中のイルカの気配が、びくっと動揺したように動いた。
その気配は玄関の方に向かってくる。
扉の向こうから声がした。
「・・・どちらさまでしょうか?」
恐る恐るという風に尋ねてくる。
「突然、すみません。俺です、カカシです」
名乗るとイルカが、びっくりしたような声がした。
「えっ!カカシさん?」
先ほど家に帰ったはずのカカシが何の前触れもなく、訪ねてきたら驚くだろう。
「ど、どうしたんですか?」
声に戸惑いが出ている。
「何か俺に御用でも?」
いつもなら、この時点でイルカは玄関扉を開け、顔を見せて対応してくれるのだが。
「ええ、イルカ先生に用事です」
わざとカカシは用事の内容を告げなかった。
「えっと、今日じゃないと駄目なんでしょうか」
困ったようなイルカの声。
「ええ、今日じゃないと駄目です」
扉を開けてくれないイルカにカカシも意固地になる。
「イルカ先生、玄関、開けてくれませんか」
かなり強引に申し出ると、イルカは「う・・・、それは・・・」と黙り込んでしまった。
気配は感じないが部屋の中に誰かいるのだろうか。
「イルカ先生」
呼びかけても返事がない。
数秒間、待ってみたものの何も返事がなかったのでカカシは玄関のノブに手を掛けた。
ガチャ。
鍵は掛かっていなかった。



迷わず、玄関の扉を開けるとイルカの姿はなく、カカシは「お邪魔します」と言いながら、ずかずかとイルカ宅に上がりこんだ。
何回も来ているので、部屋の構造は把握している。
「イルカ先生、どこですか」
台所にも居間にもイルカの姿は見えず、奥の寝室にいるようであった。
「イルカ先生」
寝室の扉は閉まっている。
中からイルカの気配はするので、いるのは間違いないのだが。
一瞬の迷いの後、カカシは寝室の戸を、がっと開けてしまった。
そこには・・・。
「え?あっ!ちょっと待ってくださいって、カカシさん。あーっ、もうっ!ないない、どこだ、服・・・」
タンスの中を引っ掻き回しているイルカがいた。
明らかに風呂上りだ。
体から、ほかほかと湯気が出ている。
服が、そこら中に放り投げられて、寝室はぐしゃぐしゃだ。
イルカの格好は上半身裸で首にタオルを引っ掛けていて。
下はパンツ一丁だった・・・。
「カカシさん、閉めてください!恥ずかしいじゃないですか!」
裸に近い姿のイルカの肌が赤くなっている。
風呂から上がったばかりだからなのか、恥ずかしさからなのか。
両方かもしれない。
「あ、すみません」
イルカの意外な姿にカカシは素直に寝室の戸を閉めた。
風呂上りに着る服を探していたらしい。
居間に戻ると誰もいない部屋で扇風機が一人寂しく回っていた。



「先ほどは失礼しました」
服を着込んだイルカが寝室から出てきた。
きっちりと浴衣を着込んでいる。
浴衣の袖は肩まで捲くられて、涼を取るためか襟元は広げられており、団扇でぱたぱたと自分を扇いでいる。
「お見苦しいものを見せてしまって」
「いえ、俺の方こそ勝手に上がりこんでしまってすみません」
二人して頭を下げて謝った。
「それで、あの。俺に用事とは?」
落ち着きを取り戻したイルカがカカシに改めて訊く。
「ああ、えっと、酒を持ってきました」
「え、わざわざ?」
「そうです、いい酒が手に入ったって言ったでしょ。イルカ先生と飲みたくて押しかけてきました」
「そうですか!」
イルカが笑顔を見せた。
「俺のために持ってきてくれたんですか?」
「ええ、そうなんです」
もしかしてイルカがカカシ以外の誰かと家で会っているのかもしれない、と思って来たとは言えない。
でも、と今度はカカシはイルカに訊いた。
「どうして、家で飲むのは駄目だと言ったんですか?」
現に今、こうしてカカシは勝手にだがイルカに家に上がりこんでいるが追い出される気配はない。
「それはですねえ」
照れ隠しのためか、ぐいと浴衣の襟元を広げてイルカは団扇で扇ぐ。
「夏って暑いですよね」
「はい」
それは最近のメジャーな話題だ。
「で、俺、夏は家に帰ってくると服を脱ぎ捨てて、必要最低限のものしか身に着けないで、扇風機の風を強にして扇風機の前で寛ぐのが至福なんです」
風呂上りとか、裸に近い格好で扇風機の風を浴びながら冷えた牛乳飲んだり、ビール飲んだり。
「そんな姿、恥ずかしくて誰にも見せたくないんです」
言われてみれば、最もで。
暑い夏は家で寛ぎたくなるのは当然だろう。
「だから、俺の家に来るのもイルカ先生に家に来るのも、だめだったんですね」
「はい」
実はそうです、と頷くイルカはカカシの目には別の人に見えた。
イルカはイルカなのだが、いつもとは違う服装。
首元まで覆い隠す忍服ではなく、肌蹴た浴衣。
見たことがない肌の部分が惜しみなく露出されている。
しどけない姿のイルカは新鮮だった。
「あー、あのですね、イルカ先生」
イルカの姿に知らず、視線が釘付けになっていたカカシは、ごほんと咳払いをして姿勢を正した。
無理やり、視線をイルカから外す。
「俺は、どんなイルカ先生でも構いませんから相手してほしいです。どんな姿でも気にしませんから」
はて、という様にイルカは首を傾げた。
カカシの言わんとしていることが、いまいち解らないようだ。
「要は!」
カカシは強調した。
「イルカ先生が、どんな格好でも俺は気にしませんし、言い触らしたりもしません。だから、そんな理由で俺を避けないでほしいなと思って」
イルカに避けられると寂しい。
「もう、お互い知った仲じゃないですか、男同士だし。ちょっとくらいのこと、気にならないですよ」
「そういうものでしょうか・・・」
「そういうものですよ!」
言いくるめるようにイルカを説得した。
「夏でも冬でも俺はイルカ先生と一緒にいたいんです」
春も秋もですが、と何だか恋の告白のようだった。
「じゃあ、どんな格好でも笑ったりしませんか?」
「しませんしません」
こくこくとカカシは首を縦に振る。
「俺だって、夏は家では薄着ですから」
やっとイルカは納得したようで。
快く了承してくれた。
その後、カカシの持ってきた酒を一緒に飲み、久しぶりにイルカの家で二人で、ゆっくりすることが出来た。



そして、その夏。
いっそう、仲が良くなったカカシとイルカ。
一方、しどけない姿のイルカを大いに堪能したカカシは・・・。
恋に落ちていた。
もちろん、イルカに。
以前から、その兆候は自分でもあったとカカシは自覚していたので、特に混乱するようなことはなかった。
それゆえに、イルカが自分以外の誰かと家にいるという想像に、あんなにも不快になったのだろう。
不快、つまり嫉妬だ。
目下、今のカカシの悩みは一つだ。
秋になってからしっとりと告白するか、夏の浴衣姿のイルカを前にして熱く告白するか、迷っているらしい。




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