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許容範囲



夕方、アスマ、紅と受付け棟に向かって歩いていたら遠くからイルカ先生が走ってきた。
言うまでもなく、俺に向かって、だ。
そんなに急いで来なくていいのに。
俺なら、何時何時迄も待っているのに。
「カカシさん。」
息せき切って走ってきたイルカ先生は息を整える。
「どうしたの?イルカ先生。」
彼の顔を見ただけで、綻んでくる顔を抑えられず、にこにこしてしまう。
だが、しかし。
イルカ先生はアスマと紅に挨拶してから、俺を奈落の底に突き落とすようなことを言った。
「今日の夜なんですが、急に予定が入ってしまいまして。」
俺のにこにこしていた顔が僅かに引き攣った。
「親睦会があることを、さっき知ったんです。どうも連絡ミスがあったみたいで。もう、店に予約もしてあってキャンセルもできないそうなんです。」
親睦会なんて厄介な。
俺以外と親睦を深めなくてもいいのに。
更に言うなら、俺だけと親睦を深めて欲しい。
誰だ、連絡ミスした奴は。
内心、憤っていたら「すみません。」とイルカ先生は申し訳なさそうに項垂れた。
別に約束はしていなかったけど、夜は二人で過ごすのが習慣になっていたから。
「いいんですよ。」
俺は心の広いフリをして、にこやかな顔を持続させる。
「どこの店でやるんです?遅くなるなら迎えに行きましょうか?」
「いえ、そんな。」
イルカ先生は慌てて、手を振った。
「迎えなんて、いいですよ。」
「そう?」
ちょっと残念。
ならば。
イルカ先生から店の名を聞いた俺は、自然な感じを意識しつつ言った。
「ああ。その店なら、実は今夜、アスマたちと行く予定だったんですよ。」
大嘘だ。
横にいるアスマと紅がぎょっとしたように俺を見たが。
「そうなんですか?」
イルカ先生がほっとしたように笑う。
「じゃあ、お店で会えるかもしれませんね。」
無論、イルカ先生に会うために行くので会うしかないだろう。
どうにか和やかな雰囲気を維持しつつ話し終わる。
まだ仕事があるイルカ先生は「失礼します。」と頭を下げて行ってしまった。




「いつ、飲みに行くことになったんだよ。」
アスマがうんざりしたように煙草に火を点けた。
「勝手に決めないでよ。私にだって予定があるのよ。」
紅は迷惑そうに髪を掻き上げる。
「いいでしょ、会計は俺が持つし。」
イルカ先生が去った今、不機嫌さを露わにしてしまう俺。
「予定って何さ?」
一応、紅に聞いてみると「アスマと飲みに行く予定だったの。」との軽い返事。
横でアスマが「聞いてねえ。」と呟いている。
「じゃ、ま。そういうことでね。」
「何がそういうことだ。」
「しょうがないわねえ。」
二人は渋渋と了承した。
そして俺は、紅に鋭い指摘をされる。
「嫉妬深いんじゃないの?」
念願叶ってイルカ先生といい関係になったんだから少しくらい許容しなさいよ、と言われたが。
許容できそうにないんだよねえ。
手に入れたと思っても、もっと欲しくなる。
もっとイルカ先生を俺の手の内に取り込みたくなるのだ。
心の中で思っていたのに、全部、口に出ていたらしく、それを聞いたアスマは。
「こりゃ、駄目だ。」と空に向かって煙草の煙を吐き出した。



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