いるといないじゃ大違い
もうすぐ恋人たちのクリスマス。
一年で一番盛り上がるイベントといっても過言ではない。
・・・とカカシは思っている。
大事な恋人と付き合って一年が過ぎようとしている今。
ここで改めて想いを伝えておきたいと画策している次第だ。
クリスマス・・・。
盛り上がるにはどうしたら?
悩んで迷って考えたのだが生憎とカカシの恋人は、そういうものには非協力的で困っていた。
非協力というよりも、どちらかというと疎いとか鈍いとか言う方が正しいかもしれない。
恋人はクリスマスをそれなりに楽しみにしてるが、その認識はカカシとは全く違っていた。
真面目な性格の彼らしく「クリスマスはケーキを食べましょうね」とそんなことで喜んでいる。
彼の名は海野イルカ。
アカデミーの先生だ。
偶々、廊下で会ったイルカに何気なく訊いてみた、クリスマスのことを。
「俺はクリスマスは仕事ですけど」
「えっ」
「カカシさんも仕事ですよね?」
「え?そういえば」
イルカに指摘されて気がついたがクリスマスが休みだとは限らない。
現在、カカシは上忍師の仕事をしているがクリスマスも一応下忍の指導がある。
盲点だった。
「普通は仕事納めは十二月二十八日ですから」
任務があれば仕事納めなんて関係ないですけど。
それから、とイルカはカカシに尋ねてきた。
「カカシさん、クリスマスに任務は入ってないんですか?」
「入ってないと思いますけど」
どうだったかな?と考えてみる。
入っていたら任務に行かなければならない。
相当な理由がなければ任務を断るなんて出来ないから。
恋人とクリスマスを過ごしたいから行きたくないとは通用しないだろう。
駄々を捏ねても無駄に違いない。
悪くすれば五代目火影の鉄拳を喰らうこと必須だ。
しかも五代目火影はクリスマスも仕事だろうし恋人云々の噂も聞いたことがない。
多大な嫉妬と私情を交えてクリスマスに任務を遂行するように命令してくるだろう。
確かめるのが怖い。
「うーん、どうだったかな」
腕を組んで考えてみるが思い出せない。
思い出せないということは任務がないということだと思うのだが。
「火影さまに確認されたらいかがです?」
イルカに勧められたが、どうにも気が進まない。
確認すれば任務がなくとも任務に行けと言わそうな気がする、とても。
「あ、なんなら俺と一緒に行きましょうか?」
イルカも火影に用事があったらしい。
手に書類を持っている。
「そうですね」
二人で行けば大丈夫かもしれない。
根拠はないが。
少しでもイルカと一緒にいたい気持ちもあったのでカカシはイルカにくっ付いて火影の元へ行くことにした。
ノックしてイルカに続いて火影のいる部屋に入る。
火影の部屋は思ったとおりというか、いつも通りで書類の山が積まれていた。
総て火影が目を通さねばならず、決済待ちの書類ばかりだ。
その書類の山の中に火影はいた。
「火影さま、イルカです。頼まれておりました書類をお持ちしました」
「ああ、イルカ」
書類から顔を上げた火影の顔は疲れていたが、機嫌は良さそうであった。
「助かるよ、ありがとう」
書類を受け取った火影はすぐさま目を通す。
「ふむふむ、よしよし」
うきうきとした雰囲気が伝わってくる。
カカシはどう切り出したものかと考えているとイルカが慣れた手つきで火影の周りの書類を片付けながら自然に訊いていた。
「火影さま、クリスマスに任務のある方はいらっしゃるんですか」
「ああ、クリスマスね」
きらっと火影の目が光る。
「今年は特例としてクリスマスにもイブにも任務は誰もなしにした」
「そうなんですか!」
同じく目を、きらっとさせたカカシが会話に加わる。
「誰もクリスマスに任務に行くことはないんですね」
「ああ、そうだ」
火影は力強く頷いた。
「今年のクリスマスは私の主催で盛大にクリスマス会を開くからな!」
「え・・・」
「全員参加だ!騒ぐぞ!飲むぞ!朝までだ!」
「え・・・・・・」
「シズネがこの部屋の書類をクリスマスまでに全部終わらせたらクリスマス会をしていいって言ってくれたんだ」
「そうですか」
シズネは火影の付き人で秘書役をしている。
火影の仕事の捗り具合を心配したシズネがクリスマスで火影を釣ったのだろう。
それは明白だ。
「シズネさんは?」
「シズネは今、別件で席を外している。すぐに戻ってくるよ」
「そうですか・・・」
「なのでな」
びしっと火影がカカシとイルカを指差した。
「二人もクリスマス会は必ず参加するように。仕事はきっちり終わらしておくんだぞ!」
厳命された。
火影の部屋を出たカカシとイルカは顔を見合わせた。
「任務じゃなくて良かったですね」
「良かったといえば良かったですけど」
カカシは腑に落ちない。
「イルカ先生と二人でクリスマスを過ごしたかったのに」
「まあまあ、皆で過ごすクリスマスも楽しいですよ」
「それはそうですけどねえ」
話しながら歩き始める。
「でも、やっぱり」
イルカと過ごせないのが心残りだ。
残念で仕方がない。
「俺もカカシさんとだけのクリスマスってのが出来なくて少し残念ですけど」
照れたように言ったイルカが顔の傷を触る。
「そう?イルカ先生もそう思ってくれているの?」
「はい、まあ・・・」
カカシとイルカの気持ちが同じだと解って、かなり嬉しい。
「プレゼントはちゃんと用意してますから楽しみにしていてくださいね」
にこり、とイルカの微笑まれてカカシは、ほんわかとした気分になる。
ほんわかと幸せに包まれてしまう。
「俺のプレゼントも楽しみにしていてください」
「嬉しいです」
無邪気に喜んで頬を染めるイルカは目の中に入れて誰にも見せたくないほど可愛い。
「じゃあ」
周りを見回したカカシは覆面を下ろすとイルカの頬に口付けた。
「これはクリスマスプレゼントの一部先渡しです」
「ど、どうも」
更に赤くなるイルカ。
「さ、行きましょ」
イルカの手を握ると素直に握り返してきた。
そのことにとても嬉しくなる。
クリスマスは皆と過ごすことになりそうだけど、心はイルカと常に一緒。
寄り添っているんだ、と思うとカカシの胸はあったかくなった。
いいクリスマスが過ごせそうな気がする。
幸せな雰囲気をばら撒きながらカカシとイルカが去った後、膝から崩れ落ちている一人の人物がいた。
別件で席を外していたシズネだ。
戻ってきたら、ちょうどカカシとイルカに出くわして慌てて気配を消して、じっとしていたら総て聞こえてしまった。
何から何まで恋人たちの幸せ一杯の会話が。
シズネは激しくダメージを受けて息切れまでしている。
「いいなあ、恋人・・・」
心の底からの呟きだった。
「来年のクリスマスには私もきっと・・・」
きっと恋人ができていて幸せなクリスマスを過ごせるはずと希望的観測的な薄く淡い願望を抱いたのだった。
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