後悔なんてするもんか
「イルカ先生、また、俺とは付き合わないって言ったんだって?」
カカシが噛み付くようにイルカに言ってきた。
「だって、本当のことなんだから言ってもいいでしょう?事実なんだから。」
対してイルカは淡々としている。
バンッ、とカカシは机に両手を付いた。
イルカを見る目が鋭くなっている。
「こんなに好きだ好きだって何千回も言っているのに、なんで、何が理由でそんな酷いことを言うんですか?」
「今まで付き合った方々にも同じことを言っていたんでしょう。」
イルカの反論にカカシは、ぐっと言葉が詰まる。
「同じことを言われているなんて耐えられません。」
イルカはカカシを静かに見つめた。
「だから付き合いません。聞かれたから、そう答えているだけです。」
「だーっ、もう。そりゃ、過去のことでしょうが。今、こんなに想っているのなんてイルカ先生だけです。」
カカシの声が大きくなる。
「口ではどうとでも言えますから。」
イルカは冷たく言い放った。
「そんなの信用できません。」
目を眇めてカカシを見る。
「ああ、そう。」
カカシは腕組みをして、イルカを見下ろした。
「俺のことを兎や角言いますけどね、イルカ先生。あんただって、過去に付き合っていた人はいるはずだ。」
もう調べてあるんです、とカカシが勝ち誇ったように言う。
「過去は過去で割り切りましょうよ。でないと、前に進まないでしょう?」
今度は懇願するようにカカシはイルカに訴える。
「もし、最初にイルカ先生に会っていたら、多分、イルカ先生だけを好きになっていたはずなんだから。」
真摯なカカシの言い様に、イルカは答えられず俯き顔を隠した。
「だって、その証拠にイルカ先生、俺のこと一度たりとも嫌いって言ってないじゃない。」
ねえ、そうでしょう?と優しく諭すように言い含めれば。
イルカは、きっと顔を上げた。
「だからですよ。」
幾分、強い口調だった。
「何で、カカシさんに最初に会わなかったのかと幾千回も思いました。だって、お互いの過去に他の人の存在があるなんて耐えられない。好きだと思う気持ちを他の人にも持ってしまっていた。」
イルカはカカシの目を真っ直ぐに見る。
「この気持ちが・・・。」
黒い瞳が揺れた。
「唯一人のものだけだったら、どんなにいいかと。」
「なあんだ。」
カカシが心底、安心したように微笑んだ。
「イルカ先生、情熱的だったんだねえ。」
「何を・・・。」
「だって、今の言い分だと俺だけを好きになりたかったって聞こえるよ。」
「違う・・・。」
「違わないよ。俺が好きなんでしょう?」
一歩、イルカが引き下がった。
悔しそうに唇を噛みカカシを、きつい目で見ている。
「後悔なんてさせないから、俺の胸に飛び込んでおいでよ。」
さあ、とカカシは両腕を大きく広げてイルカに差し出した。
そんな二人が繰り広げる展開は多くの人間に目撃されていた。
何故なら、そこは受付け所で多くの人がいたからだ。
その中のカカシとイルカをよく知る二人は、ひそひそと小声で話していた。
「ねえ、アスマ。そろそろ止めたら?みんなの仕事の邪魔よ。」
「俺がか?カカシの邪魔する方が、後が怖いぜ。」
「いいから止めさせなさいよ。ある意味、目の毒だから。」
「あー、うーん。紅、お前が止めろよ。」
「嫌よ。分かっていてやってるカカシの恨みは買いたくないわ。」
「って、ずるいじゃないか。・・・あ、俺、急に腹痛が。医務室に行かないと。」
なんて会話をしていたのだけど。
程なくして事態は収束に向かい、受付け所は平常どおりに機能し始めた。
受付け所の一部では薔薇色のオーラを出すカカシが、にこにこした顔でイルカを両腕の中に抱えていた。
両腕を広げて壁際まで獲物を追い詰めたカカシが勝利して、その時にイルカは「後悔なんてしないからな。」と宣言してカカシの腕に飛び込んだとかで。
カカシは無事にイルカを手中に収めたのだった。
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