木枯らし
「今日の夜から雪みたいですよ。」
朝、窓から空を見上げたイルカ先生が言った。
「道理で冷え込むはずですね。」
家の中には、もうストーブが出してあって部屋を温めている。
「そう?雪が降ったら、もっと寒くなりますね。」
風邪を引かないように気をつけなきゃ。
イルカ先生、風邪引きやすいから。
そう思ってイルカ先生に注意しようとすると先に言われてしまった。
「寒くなりますから、カカシさん、体調に気をつけてくださいね。」
心配してくれるのが嬉しい。
「うん、ありがと。イルカ先生もね。」
俺が言うと「はい。」と頷いて、にこっとする。
今朝は任務の都合で俺の方が早く家を出る。
一緒に出勤できない時は、ちょっと寂しいな。
玄関でサンダルを履いているとイルカ先生が、ばたばたと急いで玄関に来た。
「寒いから、これしていってください。」
何かを首に、ぐるりと巻かれて前の方で、ぎゅっと結ばれる。
「はい。これでよし。」
去年の冬に買ったマフラーだった。
ふわふわでとても暖かい。
確かイルカ先生も、お揃いで買ったはずだ。
途端に、さっきの寂しい気分も吹っ飛んで楽しい気分になった。
マフラーに顔を埋めると笑いが洩れる。
「あったかいよ、イルカ先生。」
じゃあ、行って来ます、と声を掛けて玄関を出る。
「行ってらっしゃい。」とイルカ先生が見送ってくれた。
「あ、そうだ。」
忘れないように、とイルカ先生に言っておいた。
「寒いからイルカ先生もマフラーを忘れないでね。それから帰りは、いつものところで待っていますから。」
イルカ先生は矢張り笑って頷いた。
夕方。
靴箱が並ぶアカデミーの玄関口で俺はイルカ先生を待っていた。
もう直ぐ、約束の時刻なのでイルカ先生が此処に来るはず。
まあ、多少遅れても全然問題ないけどね。
「お待たせしました。」
イルカ先生が約束の時刻、ぴったりに現れた。
「待ちました?」
「ううん、今来たとこ。」
「そうですか。」
イルカ先生と肩を並べてアカデミーの玄関を出た。
外は暗くなっており冷たい風が吹いている。
気温も低くなり、かなり冷え込んできていた。
木枯らしが、ぴゅーっと吹いて来たので肩を竦めると隣のイルカ先生も肩を竦めていた。
外気に晒された耳が寒そうに赤くなっている。
耳が寒そう?
ん?
「イルカ先生、マフラーは?」
気がついて聞いてみるとイルカ先生は、はは、と笑って「忘れました。」と白状した。
「忘れないようにテーブルの上に置いて用意してたんですけど。」
朝は忙しくて忘れてしまいましたって。
もう、だから忘れないでね、って言ったのに。
俺は、ぐいとイルカ先生を自分の方に引き寄せた。
それで、まあ、あれだ。
マフラーを半分、分けてあげたのだ。
長いマフラーを選んでおいて良かった。
恋人と一つのマフラーを分け合うのは、密かな俺の夢だったので又と無い機会だ。
突然のことに、当然イルカ先生はびっくりして後込みしている。
「カカシさん、ちょっと、あの、いいですって。」
慌てて俺から離れようとするけど。
肩にがっちりと腕を回してあるので、そんなの無理だ。
「まあまあ。」
俺はイルカ先生に言った。
「もう暗いし誰も見てませんよ。」
「でも。」
イルカ先生は不安そう。
「大丈夫ですって。誰も居ませんから。」
何の根拠もないけど俺は言い張った。
それから、とイルカ先生の耳元に口を近づけ囁いた。
「もう、寒くないでしょ?」
瞬間、イルカ先生が暗くても分かるほど顔が真っ赤になった。
そんなイルカ先生が可愛くて。
肩に回した腕に益々、力を入れてイルカ先生を引き寄せた。
にこにこする俺と真っ赤になっているイルカ先生。
真っ赤になっているけどイルカ先生は嫌がってはいない。
ふふふふ、と俺が笑っているとイルカ先生の方から小さな声がした。
「俺も・・・すごく暖かいです。」
その言葉を聞いた俺は笑みが深くなる。
ああ、幸せ。
恋人がいるって本当にいいな。
寒い冬なのに、俺は心底、暖かくなった。
でも、その冬。
イルカ先生がマフラーを忘れることは二度となかったので、俺が偶に忘れてみたりしている。
そうするとイルカ先生が俺にマフラーを半分こしてくれるから。
二人で寒い冬を、この上なく暖かく過ごしたのだった。
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