子供の頃の話
「俺って子供の頃は牛乳、駄目な子だったんですよねー」
風呂上り、冷蔵庫から牛乳を出しながらイルカ先生が何の気なしに言う。
「え、そうなの?」
今は朝夕となく牛乳飲んでいるよね。
「はい」
コップに牛乳を入れると、その白い液体をイルカ先生は飲み干した。
ごくごくと喉が動いて、白い液体が胃に落ちていくのが分かる。
・・・なんかアレだ、なんかアレ、アレだよなあ〜。
俺が牛乳を飲んでいるイルカ先生に見蕩れていると飲み終えたイルカ先生が口元を手の甲で、ぐいと拭う。
「はー、美味かったー」
風呂上りの牛乳は格別とご満悦。
「あ・・・」
俺を見て思い出したように目を瞬かせた。
「えっと、何の話をしてましたっけ」
ちょっと恥ずかしそうに首を傾げる様が可愛らしい。
ハートにずきゅ〜ん・・・・・・ってやつか。
サクラあたりに言ったら「カカシ先生古っ!」と笑われそうだけど。
まあ、別にいい。
「あ、子供の頃は牛乳駄目って」
「ああ、そうそう、牛乳の話でしたね」
再び、冷蔵庫を開けて牛乳を仕舞うイルカ先生。
「何でか子供の頃に牛乳を飲むとお腹を壊してました」
飲んだ後、お腹がゴロゴロして痛くなっていたんですよねえって。
「今はそんなことないですけど」
「へえー」
「カカシさん、そんなことありませんでした?」
「俺?」
「はい」
にっこり笑うイルカ先生。
「カカシさんの子供時代の話、聞きたいです」
おねだりされた、しかも可愛く・・・。
「あー、うん、そうですねえ」
えーとえーとを記憶を辿ってみる。
子供の頃に苦手な食べ物とか駄目なものってあったけ?
「うーん」
腕を組んで、あれこれ考えてみたが思いつかない。
「特には・・・」
なかった───と思う。
イルカ先生のご期待には添えなかった。
自分にがっかり。
イルカ先生と喜ばせることが出来なかった俺に。
だけどイルカ先生は微笑んだ。
「じゃ、カカシさんは好き嫌いのないお子さんだったんですね」
俺とは違って偉いですね!と褒めてくれた。
かなり嬉しい。
でもイルカ先生の牛乳でお腹がゴロゴロは好き嫌いと違うと思う。
単に体質的なもので大人になってから飲めるってことは体質改善ってか体質が変化したとかでしょ。
「子供の頃、何でも好き嫌いなく食べるなんて子供の鑑ですよ!」
なんか絶賛されている。
「いやいや、そんなことないですって」
褒められるのは嬉しいけれど少し謙遜してみる、謙虚さを押し出してみる。
・・・そしたら俺の株がイルカ先生の中で更に上昇する可能性もあるしと俺は打算的なことをつい考えてしまった。
自分をひけらかさない、いい男とか?
そんなことを考えていたら思い出した。
「あ、そうだ!」
「どうしました?」
「一つ思い出したことがありました」
子供の頃のことで。
「え、何ですか?」
イルカ先生は興味津々といった感じで俺の方に身を乗り出してくる。
「俺があるものに強烈に興味を持ち出したのが子供の頃なんです」
「あるもの?」
「そう・・・あるものです」
それは今でも愛用していて、常に持ち歩いている。
「実は子供の頃、ジライヤさまが持っていた本に興味を沸いて読ませてくれってお願いしたら『お前にはまだ早い!』と一蹴されまして」
そういや、何で興味を持ったんだっけかな・・・。
「大人になってからじっくり読めって言われたんです」
「へー、そーなんですかー」
あれ?気の所為か、イルカ先生の口調が棒読み?
「ああ、そうだ。あの年齢制限のマークがやけに気になって」
「あの十八禁の?」
「あの十八禁の」
あの赤丸の中の十八に斜線が引いてあるやつ。
あのマーク見てワクワクしたのを覚えている。
思えば、あれが運命の出会いってヤツなんだろうなあ。
今の俺とイルカ先生みたいな。
「懐かしいな〜」
やっと読める年齢になって、初めて読んだあの感動、忘れられない。
しみじみと思い出に浸っていたらイルカ先生が笑っていた、頬を引き攣らせて。
「・・・・・・・・・カカシさんって早熟だったんですね」
ぽつりと言われた感想。
そして、それきりこの話題が俺とイルカ先生の間で話されることはなかった。
ちょっぴり寂しかった俺だった。
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