AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する




kiss me



「あ」
視界の隅にあるものを見とめてイルカは足を止めた。
枝から枝へと飛び移っていたのだが、地上に気配を感じたのだ。
「あれは」
呟いたイルカは、すたっと木の枝から地上へと下りる。
慎重に近づいていく。
人影が見えた。
その人影は木の幹に体を凭れさせ、やや俯きがちで。
顔の大部分は覆面と額宛で覆われて唯一出ている右目は目は閉じている。
ぐったりとしていて顔色は決していいとは言えない。
「あの」
同じ忍服を着て同じ模様の額宛をしている、その人にイルカは呼びかけた。
その人にイルカは見覚えがある、というか知っている。
だから名前を呼んだ。
「カカシ先生、あの」
名を呼ぶと地面に下ろされていた手が、ぴくりと反応する。
生きている。
イルカは近づいて、ぐったりとしているカカシの横に膝を突いた。
「カカシ先生、どうされました?」
返事はなかった。
返事のないカカシをイルカは検分していく。
脈、体温、呼吸・・・。
どうやら平常時よりも低下しているように思える。
なお近づくと微かに、ほんの微かにカカシから匂いがした。
この匂いは・・・。
覚えがある、毒だ。
毒の匂いがする。
イルカは記憶を手繰り寄せ、何の毒か思い出した。
一時的に神経を麻痺させる毒、のはず・・・。
以前にイルカも一回だけ喰らって、酷い目にあっている。
それから用心深くなった。
この毒は珍しい毒で殆ど市場に出回っていないので毒の存在自体を知らない忍もいると思われる。
解毒薬も通常は持ち歩かないだろう。
カカシも毒には気がついたものの、解毒薬を持っていなかったのかもしれない。
だけどもイルカは持っていた。
それが幸いした。
「カカシ先生」
そっとカカシの体を揺する。
耳元で囁いた。
「解毒薬を持っています」
飲んでくださいと懐から解毒薬を取り出した。



しかしイルカの呼びかけにカカシは応えなかった。
「カカシ先生、起きてください」
解毒剤を飲まないと、と言うイルカの声は聞こえているのか。
先ほど手が反応していたが、今はそれすらない。
「困ったな」
この毒は早めに解毒剤を服用すればするほど効果があり、逆に言えば遅ければ遅いほど解毒剤の効果は薄くなる。
カカシが、いつ毒を喰らったのか解らないが、この様子では毒が身体にかなり回っている可能性が高い。
「しょうがない」
イルカは腹を括った。
「カカシ先生、あとで恨まないでくださいね」
怒るのもなしですよ。
腰のポーチから水の入った携帯用の瓶を取り出すと、薬と水を口に含んでカカシの頭を抱えると、そっと覆面を下ろした。
覆面の下から端正な顔が現れる。
カカシの素顔を見るのは初めてで妙にどきどきしてしまったが今は緊急事態だ。
思い切ってイルカはカカシの口付けた。
もちろん、薬を口移しで飲ませるために。
「う・・・」
重い体から痺れが取れていくにつれてカカシの意識は浮上し覚醒していく。
頭が痛い。
目を開いていくと森の緑が飛び込んできた。
どうやら自分は仰向けで寝かされているようだった。
最後の記憶は木の幹に寄り掛かったところで終わっている。
目だけ動かして周囲を探ると、すぐそばに人影があった。
カカシの顔を覗き込んでくる。
「気がつきましたか」
聞き覚えのある声だ。
「よかった、解毒剤が効いたんですね」
ほっとしたように微笑んだのが解った。
「カカシ先生、毒を受けて気を失っていたんですよ」
それは大変みっともないことだとカカシは、ぼんやりと思った。
仮にも上忍なのに毒の対処も出来ないなんて。
カカシの表情を読んだのか「あの毒は珍しい毒なんですよ」とイルカが慰めるように言うのが聞こえる。
「任務に出るときは俺は必ず解毒剤を持つようにしていますので、あの毒は厄介なので」
「そうですか・・・」
だいぶ感覚が戻ってきた。
試しに手を握ってみると思い通りに動く。
腹筋に力を入れてカカシは上半身を起こすと目の前にイルカがいて「もう動けるんですか」と驚いている。
「ええ、まあ」
「さすが上忍ですね」
イルカの黒い目が大きくなった。
「俺も前にこの毒を受けたんですけど解毒しても半日は動けませんでしたよ」
「はあ」
「立てますか?手をお貸ししますか」
立ち上がりかけたイルカがカカシに手を出す。
「あ、いや」と断りかけたがカカシはイルカの手を取った。
「すみません」
「いえいえ」と笑ったイルカは「里に帰りましょう」とカカシを促した。



それが縁だったのかカカシとイルカは里で会うようになった。
偶にが時々になり、やがて頻繁になり日常となった。
会うといっても、会って立ち話をしたり、都合がつけば食事や酒を共にするような仲だ。
「ねえ、イルカ先生」
イルカと酒を飲みに来ていたカカシは横に座っているイルカを、ちろりと見る。
「そういえば、あのときのことなんですけどね」
「あのときのことって?」
何ですか、カカシさん。
親しくなったのか呼び方も変化していた。
「ほら俺が毒で倒れていたときのことですよ」
「ああ」
思い出したのかイルカは頷いた。
「任務帰りの俺が同じく任務帰りで毒を受けていたカカシさんを見つけたときのことですね」
「そうです」
「それが何か?」
酒の肴を口に入れイルカは箸を持ったままカカシを見ている。
「今思えば、あのとき俺は動けなかったはずですよねえ」
「ええ、カカシさん、毒で意識朦朧していたみたいで反応ありませんでしたし」
「でしょー?」
そこでカカシは同意を求めるようにイルカの顔を覗き込んだ。
「そんな俺にイルカ先生は、どうやって解毒剤を飲ませてくれたんですか?」
「・・・・・・・・え」
「俺って動けなかったんでしょ」
カカシは無邪気な顔で訊いてくる。
なんの下心も何もありません、ただの純粋な好奇心ですと顔には書いてあった。
「それは」
ぐびと酒を煽ったイルカの顔が赤くなったのは酒の所為だけはあるまい。
イルカは仕事とプライベートを区別するタイプで、仕事と思えば出来ることがプライベートでは出来なかったりする、のをカカシはここ最近のイルカとの付き合いから学んでいた。
「き、緊急だったので、く、口移しで」
語尾が小さくなる。
「え?なんて?」
もっと大きな声で言ってください、聞こえませんとわざとらしくカカシが耳に手を当てる。
「・・・く、口移しで」
「え、キス?」
「キスじゃありません!」
つい大声を出したイルカにカカシは人差し指を口に立てて「しーっ」と言う。
「・・・すみません」
イルカが小さくなった。
「イルカ先生って」
カカシが「割と純情ですよね」と微笑んだ。
微笑みは何かを含んでいる。
酒を飲んでいるからでもあるが今のカカシの口元は覆面で覆われていない。
「ね、イルカ先生」
小首を傾げたカカシは可愛らしく言った。
「もう一度、俺に口付けてみたいと思わない?」
イルカは何を言われたのか解っていない。
黒い目をさかんに瞬かせている。
「俺はイルカ先生に口付けてみたいなあ。つまりキスしてみたいってことです」
イルカ先生のキスを味わいたいです。
言っていることは可愛くはない。
カカシはイルカに恋をしているのは確実で。
口付けから始まった恋だった。





text top
top