Joker
「ねえ、サクラ」
任務の合い間にカカシ先生に聞かれた。
カカシ先生は私の班の上忍師。
「美味しいケーキ屋さんってどこ?」
とても抽象的に。
美味しいだけじゃ、よく分からない。
「ケーキって、どんなケーキですか?」
試しに聞いてみる。
「どんなケーキって、ケーキはケーキじゃないの?」
上司は、さっぱり分かっていなかった。
「ケーキも種類とか、様々ありますよ」
クリームだって白いのと黒いの生とかカスタードとか諸々。
形だって四角いのやら丸いのやら、三角のやら色々。
おまけに種類も豊富で、メジャーな苺のショートケーキからチョコレートのケーキ、栗やフルーツのケーキ、タルトとかババロアとか言ったらキリがない。
「うーんと、そうだなあ」
カカシ先生は困ったように腕を組んだ。
本当に困っている。
「ケーキになんて詳しくないし、甘いもの苦手だし」
なんか、ぶつぶつ言っている。
甘いもの嫌いなのか〜。
へえ〜って思ったけど、だったら・・・。
「カカシ先生、甘いもの嫌いなのに何で美味しいケーキ屋さんを探しているんですか?」
ごく自然に思ったので質問してみたら、何と!
カカシ先生は慌てた。
動揺していた。
普段からクールで冷静沈着な上忍のカカシ先生が!
手にしていた愛読書の、いかがわしい本を地面に落とすなんて!
「あ、いや、そのね」
地面に落ちた本を拾い上げたカカシ先生は動揺したのを隠すためにか、格好付けた。
格好付けると無駄にカッコよさ度が上がる。
「美味しいケーキ屋さんを知っておくのも任務の役に立つかなあと」
・・・どんな任務よ?と突っ込もうと思ったけど止めた。
だってカカシ先生、いつになく真面目に聞いてきたから。
「ケーキって、こうねえ」
両手の人差し指と親指で円い円を作る。
「こう円くて、大きくて」
ホールのケーキが欲しいのね。
蝋燭が立てられるくらいのやつと言われて乙女の感に、ぴんときた。
「カカシ先生、それって」
もしかして。
「それってバースデーケーキですか?」
なんか、それっぽい。
カカシ先生とバースデーケーキか。
珍しい組み合わせよね。
「うん、まあ、そう」
カカシ先生が頭を、がしがしと掻く。
「誕生日のケーキなんだよね」
やっぱり!
でもでもでも!
誰の?
俄然、興味が出てきてしまった。
カカシ先生は、いったい誰のバースデーのケーキを買おうとしているの?
きっと徒ならぬ関係よね?
わくわくしながら訊いてみた。
「誰の誕生日なんですか?」
誰の誕生日のお祝いのバースデーケーキなんだろ。
するとカカシ先生は覆面の上から唇に人差し指を立てる。
「内緒」
教えてくれなかった。
「けちー」
教えてくれたっていいじゃない。
減るもんじゃないし。
そう言うとカカシ先生は断固として首を振った。
「だーめ、減るから」
あの人は俺だけの人なの、なんて頑固に言う。
「独占したいんですか?」
悔し紛れに言うとカカシ先生は深く頷いた。
「そう、独占したいよ。ぜえええーんぶ、ね」
全部独占・・・。
相手の人、大変そうな気がする。
だけど。
少しだけカカシ先生と見直した。
相手の人のこと大事に思っているんだ。
いいなあ。
すごく大切にしてしているんだって。
羨ましい。
私も、そんな風になりたいなあ。
好きな人に愛されたい。
そして愛したい。
「カカシ先生」
「うん?」
「愛しちゃってるんですね」
「まあねえ」
にやっと笑ったカカシ先生は惚気る。
「もうねえ、愛して愛して愛しちゃっているのよ」
ふふふふ〜と笑ったカカシ先生は上忍でも上司でもなく忍者でもなく。
ただの恋する男だった。
やっぱり、相手の人のことは教えてくれなかったけど。
とりあえず、カカシ先生にお勧めのケーキ屋さんを教えておいた。
「山中花店の近くにあるケーキ屋さんと」
「ああ、アスマの班のね」
ふむふむ、とカカシ先生はメモを取っている。
「それと一楽と同じ通りにある水色の看板のお店とウィンドウにお花が飾ってあるお店が美味しいですよ」
どこのお店も美味しいが更に、そのお店の看板メニューも教えておく。
「あ、バースデーケーキなら、ちゃんと予約しておかないと駄目ですよ」
「なんで?」
「急に買いに行っても売り切れだったりするからです」
「なるほどねえ」
そんなこともカカシ先生はメモメモ。
「うん、ありがと」
終わるとメモ帳をベストの内ポケットに仕舞う。
「サクラのお陰で助かったよ」
「どういたしまして」
・・・まあ、私はカカシ先生の相手を絶対に突き止めるという目標ができたから、いいとする。
「ねえ、カカシ先生」
ちょっと気になったことを言ってみた。
「そんなに好きならケーキを手作りしてみたら?」
その方が喜ぶんじゃないかしら?
「うーん、それはねえ」
てっきり嫌だと言うかと思ったら、そうではなかった。
「手作りするなら練習を重ねて、プロ並みに上手くなってからがいいかな」
さすが、上忍。
一筋縄ではいかなかった。
それから何日かして。
両手に白い箱を持っているカカシ先生を見かけた。
あの大きさからしてケーキに違いない。
落とさないように、そろそろとおっかなびっくり持っている。
あのカカシ先生が、と思うと妙におかしかったけど。
「今日が相手の人の誕生日なんだ〜」
今日は五月二十六日。
・・・・・・誰の誕生日なんだろ。
考えても、さっぱり思いつかなかった。
カカシ先生の周辺の女の人で、今日が誕生日の人って誰かなあ。
うーん、と悩んでいたらカカシ先生を見失ってしまった。
まあ、いっか。
きっと今晩はカカシ先生、誕生日に託けて相手の人とラブラブの夜を過ごすのよねえ。
大人っていいなあ。
ああ、私も早く大人になりたい。
次の日、カカシ先生と道で見かけた。
昨日のケーキのことを訊こうと思ったんだけど・・・。
カカシ先生はある人と一緒だった。
肩を並べて仲良さそうに話しているのは、私のアカデミー時代の恩師。
うみのイルカ先生。
男の先生で怒ると怖いけど、とっても優しくて大好き。
アカデミーを卒業した今も時々、声を掛けてくれるし心配してくれる。
本当にいい先生なの。
前を歩く先生たちの話し声が聞こえてきた。
「昨日のチョコレートのケーキ、美味しかったですね。ありがとうございました」
・・・・・・ケーキ?
イルカ先生は、にこにこしている。
「イルカ先生に喜んでもらえて嬉しいです」
カカシ先生も微笑んで。
イルカ先生を見る目が、とっても優しい。
「俺、この年で誕生日のケーキなんてと思っていたんですが」
成人男性とケーキって変ですもんね。
イルカ先生は照れたように言っている。
顔が、ちょっぴり赤い。
こんなイルカ先生、初めて見た・・・。
かなり可愛くて衝撃的。
「いえいえ」
カカシ先生は機嫌よく、首を振る。
「俺はね、ケーキとか、甘いものが好きなイルカ先生って可愛いと思うんです」
「や、やだなあ」
「本当ですって、イルカ先生とケーキの組み合わせは可愛いです。ちっとも変じゃないですよ」
イルカ先生は何と返していいのか分からないようで。
照れまくって赤くなっていた。
「昨日も言いましたけど」
カカシ先生が歩きながら、そっとイルカ先生の耳元に口を寄せる。
「誕生日、おめでとうございます」
囁き声なのに私の耳にも届く。
これは・・・。
わざとね、間違いなく。
私に見せ付けるために?
目をぱちくりさせていると、イルカ先生に気づかれないようにカカシ先生が振り向いてウインクしてきた。
・・・ああ、そう。
そうなの。
そうだったの。
誰のためにケーキで誰の誕生日だったのか、はっきりと理解した。
押して知るべし。
乙女の私は総てを察したのだった。
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