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嬉しいけれど、それが現実 前編



カカシは困っていた。
悩みがある。
誰にも相談できない悩みだ。
できたら一人で解決したい、というか自分で何とかしなけりゃあならないだろう。
だって、それは。
好きな人のことだから。
カカシには好きな人がいる。
それはもう、好きで好きで好きで堪らない。
しかし、だ。
どう自分をアプローチしたものかと悩んでいた。
愛読書が十八禁といえど一応は恋愛小説なのに情けないなことである。
「うーん、どうしもんかなあ」
今日も本を読みながら考えるのは好きな人のこと。
いつもどんなときでも必ず、その人のことが頭の隅にある。
好きになってから忘れたことなど、ただの一日もない。
その人の名は海野イルカ。
アカデミーの先生で受付所の仕事もしていて火影の信頼も厚く、笑顔の可愛い人だ。
ただ、カカシと同じ男性という点を除けば。
そんな些細な問題、カカシは全く気にしていなかったが多分、イルカは違うだろう。
いきなり告白したら逃げちゃいそう。
一旦、逃げたらどこまでも逃げていきそうな感じだ。
だとしてもカカシもどこまでも追いかけるつもりであるが。
「よし!」
読んでいた本を閉じてカカシは決意した。
「このままじゃ永遠に俺の想いに気がついてもらえない」
それは確信できる。
受身じゃ駄目だ。
「今日から少しずつアプローチ作戦だ!しかもカッコよく印象づけて、なおかつ二人の間の距離を近いものにする!」
今のままじゃ遠すぎるから。

もしかしてだけど、カカシの存在さえも気がついてないかもしれない。
「だってイルカ先生誰にも対しても平等だからねえ」
そんなところもいいのだけど、時に歯痒い。
「俺だけを見てほしいしねえ」
どんな作戦でいこうかな〜とカカシは作戦を練り始めた。



まずは接点の多い受付所で接触を試みるが上手くいかない。
食事に行こうと誘っても断られる。
どれもこれもイルカの仕事が忙しすぎたからである。
俺よりも仕事・・・。
その事実に愕然としながらもカカシはめげなかった。
任務の前に会いに行ったりして、気のある言葉を言ってみたりする。
だけどもイルカは気がつかない。
気がつかない振りをしているじゃないかと思うほどで。
これじゃあ駄目だとイルカの情報を仕入れることにした。
いつも同僚ってだけでイルカの傍にいる中忍の男。
アカデミーでも隣の席で、受付所でも一緒にいたりする。
カカシから見れば何とも羨ましい状況であった。
訊けば色々と話してくれるので、根掘り葉掘りと聞いてしまった。
その結果、イルカについて知らなかった情報も手に入り、また同僚の男はイルカのことを特別な感情を抱いていないことも解った。
それについては、ほっとする。
そんなときチャンスは巡ってきた。
単独任務を終えて夜、受付所に行くとイルカが一人でいた。
難しい顔をしながら、書類仕事している。
カカシは、そっと覗き見る。
イルカ先生、真面目だな・・・。
誰もいないときくらい、休めばいいのに。
どれくらい見ていただろうか。
仕事をしているイルカは苛立っているのか、手に持って使っているペンの頭を噛み始めた。
ガジガジと噛んでいる。
自分では気がついていないのか。
見ていられなくなったカカシは受付所へと顔を出した。
ペンを噛んでいるイルカに「ペンは食べ物じゃありませんよ」と言うと共にペンをさり気なく取り上げた。 さり気なく懐に仕舞う。
突然のカカシの出現にイルカは、かなり驚いていたが程なくして辛そうな表情を浮かべた。
イルカを励ましたくて温泉やらなんやら言ったことが逆効果だったのか。
そんなに仕事が忙しいのかと思い、状況を聞いてみるとカカシの想像以上で。
つい不機嫌になってしまった。
イルカは働きすぎだ。
少し休まなくてはいけないと切実に思ったのだが、カカシは自分の欲求を優先してしまった。
予ねてからのイルカと約束を取り付けたのである。
今まで何回も約束しては駄目になっていた。
今回こそは、と願っていたら、案の定。
欲求を優先させた罰が下ったのか、イルカとの約束は公の飲み会と重なって駄目になり。
公の懇親会という名の飲み会にイルカは欠席、そして期せずして恋敵の存在を知ってしまった。


恋敵はイルカの後輩の先生と称する気が強い生意気な小娘だった。
イルカをリスペクトしているらしく、イルカと同じ髪型をしている。
黒い髪と黒い目はイルカと同じなのに、人間が違うだけで、こんなに魅力がなくなるなんて。
おまけに小娘はカカシにライバル宣言をしてきた。
すなわち、イルカは渡さないと。
カカシに身を引くように迫ってきたのである。
飲み会で注目を浴びているにも関わらず、カカシは小娘と睨みあって火花を飛ばしてしまう。
恋愛に男とか女とか関係ない。
人生で引くに引けないときがある。
それがカカシにとって今だった。
負けずに睨み返して、やれるもんならやってみろと凄んでみた。
だが恋する女は強いもので上忍のカカシの眼光など物ともせずに、受けて立つと言われてしまった。
こうしてイルカの知らないところで争いごとが勃発していたのである。
イルカを巡る争いが。
争いはカカシが十歩リードしたかと思えば、すぐに追い越されて、追い返してと決着はつかなかった。
せっかくイルカがカカシのために手作り弁当を作ってきてくれたというのに邪魔された。
よりによって、小娘がイルカのために持ってきた弁当を食べる羽目になり、何とも微妙な気持ちになったのは言うまでもない。
イルカ先生のお弁当食べたかった・・・。
心残りでしょうがない。
すごく美味しそうだった。
一口欲しかった。
もしかして、自分が一口あげたらイルカのも一口くれるかも、と淡い下心を出したのが、見事にばれたのか拒絶されてしまったのは苦い思い出だ。
そしてカカシに一ヶ月の任務命令が下った。
任務の話が来たときは本気で落ち込んでしまった。
「一ヶ月もイルカ先生に会えない・・・」
一ヶ月もイルカに会えなかったら、忘れられてしまうかもしれない。
危惧してしまう。
頑張って任務を終わらせて里に帰ると今度はイルカが任務でいない。
心底、がっくりときた。
「会いたかったのに会いたかったのに会いたかったのに」
想いが通じない。
焦れる心、募る想い。
イルカが任務から帰ってくる日をあの手この手で突き止めて、里の大門まで迎えに行くことにした。
すると憎き恋敵も同じことを考えていたようで、途中まで一緒に行く羽目に陥った。
しかし恋敵はイルカの姿を見ると、好きな人を前に急に照れたのか真っ赤になって逃げ出してカカシは内心、勝った!と喜んだ。
これでイルカは、とりあえず今はカカシが独占できる。
高鳴る胸を抑えながら任務から帰ってきたイルカを出迎えるとイルカは怪我をしていた。
それどころか毒も受けていて。
ふらりとカカシの腕の中に倒れこんできた。
急いでイルカを抱きかかえ病院へ急行する。
こんなときじゃなかったら美味しい状況なのに、と聊か不謹慎なことを考えながらもイルカの身を案じるカカシであった。


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