確定事項
告白されて付き合ってから数年。
意見の衝突はあるものの、本気で喧嘩したことなど一度もない。
いつも優しくてイルカを好きでいてくれる。
そんな恋人がイルカにはいる。
同性の恋人でイルカの目から見ても格好良い人だ。
一緒にいると、とても幸せを感じる。
なのに近頃不安を感じてしまう。
こんなに幸せなのにどうしてだろう。
心臓の辺りが、きゅっと痛くなり居ても立ってもいられなくなる。
不安で早くなる鼓動。
考えるのは恋人のことだ。
大好きで大切で、この世で誰よりも幸せになってほしい人。
恋人の名は、はたけカカシ。
カカシは自分と一緒にいて幸せなのだろうか?
何でカカシは自分といるのだろう。
カカシだったら、もっと良い人がいると思うのに。
恋人の幸せを願うたびに思ってしまう。
自分でいいのか?
そんな疑問が耐えない今日この頃。
「イルカ先生」
食後にイルカの変化を敏感に察したカカシが話しかけてきた。
恋人だけあってカカシとイルカは同じ家に住んでいる。
「どうかしました?心配事でもありますか」
「えっ」
どきり。
悩むあまり、それが顔に出てしまっていたようだ。
「いえ、別に」
慌ててイルカは誤魔化した。
「そうですか・・・。俺でよかったら何でも話してくださいね」
カカシはイルカの顔を、じっと見ている。
聡いカカシのことだからイルカの表情から何かを読み取っているのかもしれない。
「特に何でもないんですよ」
無理に笑ったイルカは話題を変えた。
「あ、そういえば今日アカデミーでこんなことがあったんですよ」
イルカが話し始めるとカカシはいつも楽しそうに聞いてくれる。
カカシの優しい瞳が自分を見つめていてイルカは妙に安心した。
「はあ」
アカデミーでの昼休み。
昼食を早めに終わらせたイルカは午後の授業のため早めに準備しようと資料室を来ていた。
授業で使う資料を棚から選んでいると、ふと窓の外に人の気配を感じた。
見ようとしたわけではないのだが自然と視線が引き付けられる。
そこには恋人であるカカシと知らない女性。
女性は小柄でふわふわとしていて柔らかそうで、イルカにはないものを持っていた。
多分、かわいいという形容詞が当て嵌まる。
その女性は俯きがちのまま頬を染めていてカカシに何かを差し出した。
封筒のようなもの。
おそらく恋文、ラブレターだ。
淡いピンクの封筒はカカシの手に渡る。
女性はそれを確認するとくるりと向きを変えて走り去ってしまった。
残るカカシは女性からの封筒を懐に仕舞うと消えてしまう。
「・・・あれって」
喉が渇いてイルカの声は掠れている。
「あれって」
いわゆる恋の告白の一場面。
ごくりと唾を飲み込んだイルカは大きく息を吸う。
吸って吐いて吸って吐いて。
足元から、すっと血の気が引いていく感覚。
頭が真っ白になるとはこのことだろうか。
「落ち着け、俺」
ぱんとイルカは自分の頬を叩く。
「考えるのは後にしろ」
どうせ考えても迷路みたいに思考はぐるぐるするだけ。
答えの出ない問題と解くようなものだ。
「今は仕事に集中しなきゃ、午後の授業をあるんだし」
今見たことは今は忘れよう、忘れなきゃ。
無理やり今の記憶を閉じ込めて蓋をして。
今だけは記憶の奥底に沈めてみた。
「はあ〜、帰りたくない」
家に・・・。
イルカは帰り道をとぼとぼと歩いていた。
仕事をしているうちはよかったが家に帰る時間が近づくにつれてイルカは憂鬱になってきていた。
家に帰りたくなくて残業をしていたのだが、やはり家には帰らなくてはならない。
カカシがラブレターを貰う現場を目撃して、どんな顔してカカシに会えばいいのやら。
帰ればカカシが家にいるに違いない。
今日は帰りが早いと朝、言っていた。
きっと夕飯を作ってイルカを待っていてくれている。
だけど。
「そもそも俺がカカシさんのそういう場面を見ていたなんてカカシさんは知らないよな」
偶然、目撃してしまっただけだから。
「ということは俺が変に不機嫌だったりしたりしたらカカシさん理由が解らなくて困るよな」
いや、それよりも。
「あのラブレター・・・」
どうしたんだろ?
読んだのか返事を書いたのか。
考えれば考えるほど胸がもやもやする。
「はああ」
大きく深い溜め息を吐いたイルカは肩を落とした。
「やっぱりさあ」
誰もいないのに一人で喋ってしまう。
「やっぱりカカシさんって俺といるよりも女の人のがいいんじゃないのかな」
ラブレターを渡してきた、あのかわいい女の人みたいな。
再び溜め息を吐いたイルカが顔を上げるといつの間にか家の前まで来てしまっていた。
がちゃりと家のドアを開けて中に入るとカカシがいた。
「あ、イルカ先生、お帰りなさい〜」
にっこりと笑って出迎えてくれる。
「・・・た、だいま」
「先に帰ってましたからご飯作ってましたよ〜」
「あ、どうも」
「ご飯食べます?お腹空いてますか」
「あ、はい」
「イルカ先生?」
急にカカシが顔を覗き込んできた。
「元気がないですね。どうしたの?」
「えっ!」
「嫌なことでもあった?」
嫌なこと・・・。
恋人が誰かにラブレターを貰うことは嫌なことだろうか・・・。
「俺はねー、ありましたよー嫌なこと」
イルカが話す前にカカシが眉を顰めて話し出した。
「今日ですね、上忍のくの一に昼過ぎにアカデミーの近くに呼び出されて何の用だと行ってみたら」
昼過ぎにアカデミーの近く?
もしかしてイルカが見てしまった、あれのことか?
「ラブレターを渡されたんですよー」
「ラ、ブレター」
封筒はイルカの推測どおりラブレターだった。
「それで何て言われたと思います?知り合いの上忍に渡してくれって」
「・・・・・・・・・・知り合い?」
「そうですよ」
カカシは憤慨している。
「俺は他人宛てのラブレターを配達させられたんです。全く、自分で渡せばいいのに。・・・でも断ると後が面等で厄介だし怒ると超怖いし豹変するし」
後半は小声で文句を言っていた。
かわいいと思った女性は見かけによらないタイプらしい。
「ま、俺宛のラブレターだったら」
カカシは肩を竦めた。
「その場で火遁で燃やして『この世界で誰よりも愛していて目に入れても痛くないほどめちゃくちゃ可愛がっている愛らしい愛しい恋人』がいるからもう近づくなって言いますけどね。思いっ切り恋人自慢してから」
恋人自慢、それ即ち惚気ともいう。
イルカ先生のことなら、いっくらでも話せますからね〜と。
「そう、だったんですか」
すーっとイルカの胸からもやもやとしてものが消えていき融けてなくなってしまった。
ほっとすると同時に思い悩んでいた事柄が口から出てしまう。
「俺・・・。カカシさんは俺といて幸せなのかなって。他にカカシさんにとって良い人いるんじゃないかと思って。その人との方がカカシさん・・・」
イルカの声がだんだんと弱弱しくなってくる。
「カカシさんが幸せになれるんじゃないかって」
恋人を好きになればなるほど恋人の幸せを願ってしまう。
言い終ったときにはカカシに抱き締められていた。
「イルカ先生」
抱き締めてくるカカシの腕は力強い。
しっかり胸に抱き締めてくれてイルカはひどく安堵した。
「最近、様子がおかしいと思ったらそんなことを考えていたんですね」
声には少しばかり呆れた感じが含まれている。
「そんなこと天と地が引っくり返ったってあるはずないじゃないですか」
イルカが口を開く前にカカシは続けた。
「揺るぎない事実ですよ。俺はイルカ先生が好きです」
その言葉にイルカは思わずカカシの顔を見る。
やはり、その瞳は優しい。
「イルカ先生も俺を好きですよね」
訊かれてイルカは頷いた。
「ほらね」
カカシは嬉しそうに笑った。
「俺はイルカ先生が好きでイルカ先生も俺が好き」
だから。
「俺はイルカ先生と幸せになれるんです」
確定したように言い切った。
「もちろん」
カカシは自信満々だ。
「俺が幸せならイルカ先生も幸せなんですよ」
その逆もまた然り。
「つまり俺たちラブラブですね」
最後はそこに落ち着いた。
イルカの額宛をするりと外したカカシは隠れていた額にキスをする。
「もう一人で悩まないでくださいね。俺を頼ってください、めいっぱい」
「はい、そうします」
素直にイルカは返事をする。
「カカシさんに何でも話しますね」
「そうしてください」
微笑んだカカシは「一件落着」と言うとイルカにウインクした。
「まあ、一人で悩んでいるイルカ先生は、それはそれで良かったですよ」
カカシは何を言っているのだろう。
「悩ましいイルカ先生は色っぽくて見ているだけでドキドキしてたってことです」
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