犬のざれ言
本で顔を隠したはずなのに付き合いの長い忍犬たちは俺のにやけた顔を、ばっちりと見ていた。
「なにやら不気味に笑っているぞ。」
「にやけた顔がだらしないのう。」
「これを見てもイルカ殿は格好良いというのだろうか。」
「無理じゃねえか。」
「格好良いとは程遠いぜ。」
「だよなあ。」
「緩みっぱなしの顔がしまりがない。」
主人の俺に散々言っていた。
「お前らなあ〜。いい加減にしろよ〜。」
にやけながら怒ると忍犬たちは肩を竦めた。
「表情と言っていることが。」
「ちぐはぐで気持ち悪いぞ。」
「イルカに格好良いと言われたのが。」
「そんなに嬉しいのか?」
「もしかして・・・。」
「カカシは・・・。」
忍犬の一匹が眉を潜める。
「イルカ殿が好きなのか?」
ずばり、訊いてきた。
「え、いやあ、そのねえ。」
訊かれた俺は照れてしまう。
本を仕舞うと頭を照れ隠しに、がしがしと掻いた。
「実はさ〜、そうなんだ。」
げっ!という失敗したという表情と、しまったいう後悔の表情が入り混じった顔を犬たちはしていた。
なんで?
「俺、イルカ先生のことが好きなんだよねえ。」
一度、言ってしまうと後は、ぺらぺらと喋ってしまう。
「最初に会った時に、こうハートにズキューンてきてさ。ああ、これが恋なんだ〜って。」
嬉し恥ずかし、俺の恋の思い出だ。
「イルカ先生、ほんっと可愛くて一目で虜になっちゃった。」
いつの間にか忍犬たちは俺から一歩下がった場所にいた。
「これが一目惚れってやつだよねえ。」
ふふふふ〜とイルカ先生を思い出して笑っていると忍犬たちが更に一歩退いた。
ひそひそ話をしている。
「カカシは頭がおかしくなったのか?」
「悪い物でも食ったとか?」
「いかがわしい本の読みすぎじゃないか?」
「任務のし過ぎで疲れて自分でも何を言っているのか解ってないんじゃ。」
「カカシとイルカ殿は男同士だよな?」
「多分、そうじゃ。」
「普通は雄と雌が番い、人間の世界では男女が結ばれるものだよな。」
「カカシは何か勘違いしているのではないか。」
忍犬たちの失礼な会話は丸聞こえだ。
「あのねえ!」
俺は力説した。
「好きなら男とか女とか些細なことは関係ないの!」
そう、要は気持ちだ。
「気持ちが大切なの!相手を好きだって思う気持ちが!」
ふーん、と解ったような解らないような顔を忍犬たちは一様にしている。
「ならば。」
パックンが言う。
「イルカに告白してみたらどうじゃ?」
「え、告白?」
告白って、あの告白?」
「好きだと言ってみたらいいではないか。」
俺がイルカ先生に好きだと告白。
なんだか急に胸がドキドキしてくる。
告白したら・・・。
その先を想像して俺は舞い上がって頭が、ぽーっとしてしまい忍犬たちが言っていることが耳に入ってこなかった。
「そうだな、告白して。」
「きっぱり、イルカ殿に振られれば。」
「目も覚めるんじゃないか。」
「だって男同士だもんな〜。」
「まあ、男同士でもお互いが納得すれば別に構わんが。」
「うーむ、でも男同士だからなあ。」
「同じ雄・・・じゃなくて男がいいとは人間とは奥が深い生き物じゃ。」
「変わっているな〜。」
うんうん、と忍犬は頷き合っていた。
それから数日後。
忍犬に勧められてというか促された俺はイルカ先生に、どう告白しようか、と考えていた。
考えながら買物に来ていた。
ドッグフードを買いにペットショップへ。
犬たちの食べ物は犬塚家から貰っているのと市販のドッグフードが半々くらい。
いつも同じ物じゃ飽きてしまうから、時々、銘柄を変えている。
まあ忍犬たちは食事に文句を言ったりはしないけど。
どれにしようかな、と俺がドッグフードを選び終わり、ふと周りを見ると、いつもは見ない犬の菓子のコーナーが目に止まった。
好奇心で試しに、ちょっと見ていた。
「うわ、高っ!」
犬のお菓子は結構な値段していた。
一楽のラーメンと同じくらいの値段がするのもあるよ。
種類も豊富で、旬の食材を使ったとか食品添加物が入ってないとか人間並みだ。
綺麗にデコレーションされた犬用のケーキなんてのも売られていた。
「すごいなあ。」
知らない世界に足を踏み入れた気分だ。
余りのすごさに見入っていると後ろから声が掛かった。
「こんにちは。」
え、と思って振り向くと、そこにいたのはイルカ先生だった。
にこ、と笑ったイルカ先生は俺に頭を下げた。
「こんにちは、カカシさん。」
「あ、イルカ先生。」
まさか会うとは思っていなかったイルカ先生の出現に俺は狼狽してしまう。
なんとか、こんにちは、と返した。
「カカシさん、犬のご飯、買いに来たんですか?」
俺が手に持っているドッグフードを見てイルカ先生が訊いてきた。
「え?ええ、そうです。」
ぶんぶんと首を縦に振る。
「そうなんです、あいつら、よく食うから。」
「そうなんですか。」
イルカ先生の目が細められた。
忍犬たちを思い出しているのかもしれない。
「カカシさんの忍犬たち、ほんと可愛いですよね。」
見るとイルカ先生の手には犬用のお菓子が何袋かある。
もしかして俺の忍犬たちにかな。
値段を見た後だと何だか悪い気がしてきた。
そのことを言うとイルカ先生は何でもないことのように笑った。
素敵な笑顔だ。
「気にしないでください。」
イルカ先生は手を振る。
「俺が好きでやっていることですし。」
犬と触れ合うと、とても心が和みます、と言ってくれた。
「それならいいんですが。」
ほっと一安心。
そしてイルカ先生の言葉で思い出した。
告白のことを、好きだって言わないと。
でも。
イルカ先生が、おずおずと、でも思い切ったように俺に言ってきた。
「あの、もし良かったら。」
「はい。」
「この後、食事でもどうですか?」
「・・・・・・え。」
「あ、駄目ならいいんです。」
返事の遅い俺を、どう思ったのかイルカ先生が慌てたように付け足した。
「言ってみただけなので。」
それじゃあ、と急いで立ち去ろうとする。
そのイルカ先生を俺は大慌ててで引き止めた。
「行きます!食事でもどこでもどこにでも!」
こんなチャンスを逃してたまるものか。
だってイルカ先生と二人で食事!
すごく嬉しい!
「よかった。」
イルカ先生が、ほっとしたように微笑んだ。
「俺、カカシさんと、もっと話したいなと思っていたんです。」
はにかんで照れているようだ。
「食事とかもご一緒したいと思っていて。」
夢のようなことを言ってくれる。
「だから嬉しいです。」
小さい声で喜びを伝えてくれた。
「それは、俺だって。」
俺だって、そう思っていた。
ずっと。
イルカ先生の笑顔と言葉で。
俺の心は満たされて。
告白は、いつかしようと心に決めて。
その日は仲良くイルカ先生と食事をした。
とてもとても幸せだった。
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