行かないで
朝、目覚ましが時計の電子音が鳴ったのがイルカの耳に聞こえた。
「朝か・・・。」
仕事に行かないとな〜、と思いながらイルカは手を伸ばして、枕元にある目覚まし時計のスイッチを押して電子音を止める。
起きたくないけど起きなけりゃ、とイルカは布団から出ようとした。
しかし体は動かない。
何かに縛られたように、ぴくりともしないのだ。
な、なんで?
暫しパニックに陥ったが直ぐに原因は知れた。
うつ伏せに寝ていたイルカの体の上に、カカシが乗っかって眠っていたからだ。
うつ伏せにイルカの体の真上に上手い具合に乗っかって、すやすやと眠っている。
「ちょっと、カカシさん。どいてくださいよ。」
寝ているカカシに静かにイルカは呼びかけた。
今日はカカシは休みなので出来るだけ起こしたくなかった。
「ねえねえ、カカシさん。」
イルカは小さな声でカカシの名を呼んだ。
「すみませんが俺の上から、どいてくださいって。」
でないと仕事に遅れます、とイルカは懇願した。
しかしカカシは起きる気配はない。
昨日、一週間の里外任務から帰ってきたカカシは任務の疲れからか深い眠りに就いているようだった。
「困ったな〜。」
カカシはイルカの上に乗っかって眠っていながらも、背後からイルカの体に手を回して抱きしめる格好をしているので動きは封じられている。
眠っていても、さすが上忍といったところだ。
「どうしよう・・・。」
イルカは上に乗っかっているカカシから逃れようと、じたばたしているうちに時間は刻一刻と過ぎていく。
「あー、もう。」
仕事に行かなくちゃ、と思いながらも乗っかっているカカシの体温でイルカは再び、うとうととしてくる。
二度寝はやばい、と分かっているのだが久しぶりのカカシの体温が心地よくて堪らない。
「仕事に遅刻したら怒られる〜。」
再び、襲ってきた眠気と懸命に闘いながらイルカはカカシの下で懸命に、もがいていた。
「カカシさん、俺、仕事に行かないと〜。」
最終的に泣きを入れると、やっとカカシからの答えがあった。
「え〜、仕事に行っちゃうの〜。」
イルカの上に乗っかっているカカシは不満そうにしている。
「いやだなあ、俺、もっとイルカ先生と一緒にいたいな〜。」
上に乗っかったままイルカの体に、すりすりと身を寄せて「行かないで〜。」と甘えた声を出す。
「仕事、休んじゃえば?イルカ先生。」
お腹が痛いとか頭が痛いと言って、とカカシが誘惑してくる。
「だ、駄目です!」
イルカは叫んだ。
「嘘ついて、仕事を休むなんていけません。それに今日は忙しいから俺が休んだら他の人に迷惑が掛かります。」
「イルカ先生ってば真面目なんだから。」
「真面目でいいですから、とにかく俺の上から降りてください。」
「仕方ないなあ。」とカカシは、漸くイルカの上から降りた。
だが、イルカの手首を離さない。
「カカシさん、手・・・。」
イルカが、そう言うとカカシは、にこりと笑った。
「イルカ先生の上から降りた、ご褒美に。」
ここに、と自分の唇を指差す。
「好いもの、ください。」
「好いものって・・・。」
カカシの言わんとすることは分かるが、朝から面と向かって言われると恥ずかしさ倍増だ。
それでも、出勤までの時間が僅かしかなくイルカは目を瞑って、えいやっとカカシに唇にアタックした。
二人の唇が重なり少しの間、そのまま時が流れる。
するとカカシが、そうっと唇を離した。
イルカは、ゆっくりと目を開ける。
目の前にはカカシの満足そうな顔があってイルカを優しく見つめていた。
「イルカ先生。」
「カカシさん・・・。」
二人の間には緩やかで甘ったるい空気が流れようとしていたが、ふと時計を見たイルカは、はっとする。
「仕事、行かなきゃ!」
大慌てで身支度を整えるとイルカは家を飛び出した。
「行って来ます!」
カカシが、その声を聞いた時はイルカの姿は玄関に既にない。
「行ってらっしゃ〜い。」
姿の見えなくなったイルカにカカシは、ひらひらと手を振った。
「気をつけて、早く帰ってきてね〜。」
それから「続きは帰ってきてからね。」と一人呟き、にやりとする。
「さて、もう一眠りするかなっと。」
カカシはイルカの匂いの残る布団に潜り込み、幸せな気持ちに包まれながらイルカの帰りを待っていたのだった。
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