一文字違い
受付け所という大勢の人間がいる場で形振り構わず、イルカに謝っているカカシを見て誰もが思っていた。
−ああ喧嘩したんだ。
−喧嘩か、犬も喰わないって言うアレね。
−謝っているところを見ると原因は上忍の方に有りそうだな。
−しかも中忍はかなり怒っている模様。
−あれだ、障らぬ神に祟りなし、だな。
皆は特に口も出さず遠巻きに眺めていた。
自分に危害が来るのを恐れて。
余計な火花は浴びたくない。
「イルカ先生、ごめんね、ごめんね。怒らないで。口利いてくださいよ。」
受付けをするイルカの横でカカシが懸命に頭を下げている。
しかしイルカはカカシの方を見もしない。
黙々と自分の仕事をこなしている。
因みに五代目火影の綱手も受付けにいた。
しかもイルカの隣にである。
綱手は呆れたように二人を見ていたが、皆と同じように特に口は出さなかった。
単に面白かったのである。
普段は見れない二人の姿を興味深そうにしていた。
「では、受付けの交代の時間ですので失礼します。」
イルカは隣の綱手に頭を下げて、自分が受け付けた書類を持って立ち上がる。
「ん、お疲れ。」
綱手は軽く頷き手を振った。
ついでに心の中で、面白いけど早く仲直りしろよ〜、と呟く。
受付け所の出入り口に向かうイルカの前にカカシは立ち塞がった。
「ねえ、イルカ先生。いい加減、機嫌を直してくださいよ。こんなに謝っているでしょう?」
カカシのお願いにもイルカはだんまりだ。
じっとカカシを睨んでいる。
ちょっと、その顔もいいな、と思いながらカカシは言葉を続ける。
「あんまり、怒っているなら喧嘩の原因、ばらしちゃおうかな〜。」
カカシがニヤリとすると漸くイルカから低い声が聞こえた。
「卑怯だ。」
「えー、なになに?」
わざとらしく、耳を寄せてくるカカシにさすがにキレたのか、イルカが大声で怒鳴った。
「俺は怒っているんです!ちょっと、もう抱いてください!」
イルカの大声は受付け所内に響き渡り、そして受付け所は静まり返った。
皆、イルカに注目している。
−だ・・・・・・いてください?
−それって『抱いてください』?
イルカの言った言葉に。
バサバサバサッッ。
イルカの手から持っていた書類が全て落ち、床に散らばった。
ヒラヒラと空中に舞っている書類もある。
イルカの顔は、と見ると夕焼けみたいに赤くなっていた。
自分が言った言葉の意味を理解したのだろう。
可哀相に、と受付け所の全員が思う中、我に返ったイルカは目にも止まらぬ早業で書類を掻き集めると。
あっという間に出て行った。
「あー、あれだ。」
場を取り繕うように綱手が言った。
「多分、イルカは『どいてください』って言いたかったんだろ?」
怒っていたから、つい言い間違えたんだろうよ、と一応フォローする。
それから笑いをこらえているカカシに忠言した。
「追いかけなくていいのかい?いや、寧ろ追いかけな。」
「仰せのままに。」
一礼して、カカシはドロンと消える。
ふう、やれやれ、と綱手は椅子に座りなおした。
受付け所も、いつもの空気に戻っている。
あいつら、きっと明日には仲直りしてんだろうね、何しろ本当はラブラブだから。
ラブラブ・・・・・・。
自分には程遠いなあー、とちょっと悲しくなる綱手であった。
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