イ
「そういえば今年の干支って午でしたっけ?」
食後、寛いでいるときに急にイルカが言い出した。
「あー、そうですね」
年賀状に馬の絵が多かったのは、その所為かと今更ながらにカカシは気がついた。
あまり、その手の事は興味がないカカシであったので今年の干支は特に気にしていなかった。
「馬のグッズとか多いですよね」
「へー」
「アカデミーでも馬をモチーフにした持ち物が何となく多いです」
「ふーん」
思い出してみれば、新年の挨拶でサクラを始め女の子たちに会ったとき可愛い馬のキャラクターの持ち物を持っていた気がする。
「流行なんですね」
「でも来年になったら別の干支でしょ」
となると一年一年、その年の流行るキャラクターは違うはず。
「それがいいんじゃないでしょうか」なんてイルカは言っていたけれど、いまいちカカシはぴんとこない。
というか、どうでもいい。
イルカ以外どうでもいい。
話の流れからイルカがカカシに訊いてきた。
「ところでカカシさんの干支って何ですか?」
「え・・・」
「カカシさんって何年ですか」
「え、えーっと・・・」
カカシは言葉に詰まる。
俺って何年だったっけ・・・。
そんなのすっかり忘れていた。
何年だったか思い出すのも面倒くさかったのでカカシはイルカに質問を切り返す。
質問されて答えたくないときの常套手段だ。
「イルカ先生こそ何年ですか」
「え、俺?」
イルカは、どきりとしたようで心臓の辺りを手で押さえている。
「俺は、えー・・・。その、あの、うーんとですね」
困っている。
困っているイルカも可愛いなと思いながら、若干頬を緩めるカカシ。
だけどイルカを困らすのは本意ではないので、すぐに助け舟を出した。
自分で困らせておいて助け舟とは傍から見たら、これ如何に?の状況ではあったが。
「俺、イルカ先生の干支分かりますよ」
「えっ!」
イルカは何故か大仰に驚いている。
何をそんなに驚くのか。
構わず、カカシは言った。
「イルカ先生の干支って『イルカ』でしょ」
イルカが大きく目を見開き固まった。
あり得ないという表情で。
「え、違うの?イルカ年に生まれたからイルカって名づけられたんじゃないんですか」
とんでもないことを言い出したカカシにイルカは沈黙した。
結構、長いこと。
長い沈黙の末にイルカは切り出した。
「カカシさん、それ本気ですか?」
「え、何が」
「俺がイルカ年だたらナルトはキツネ年とか言い出すんじゃないでしょうね?」
「まさか〜、そんなのないでしょ」
「そうですよね」
イルカは、ほっとしたようだった。
しかし続くカカシの言葉に、ぎょっとする。
「ナルトがキツネ年だったらサクラはサクラ年ですよね〜。あ、サスケは何年だろ?」
首を傾げている。
「だったらアスマんとこはシカ年に花年に食欲年?紅んとこは虫年に犬好き年にお日さま年?」
本気で言っているのか、イルカは不安になる。
はっきりと否定しておいた。
「カカシさん、ぜんっぶありませんから」
そんな干支ありませんから、と。
「だいたい花とか食欲とか虫とかお日さまってなんです?それにキバは犬好きですけど、そこは素直に犬でしょう」
変なところに律儀に訂正を入れている。
「あははは〜。冗談ですよ冗談」
笑ったカカシはイルカに言った。
「俺だって干支くらい知ってますよ〜。興味はありませんが」
「本当ですか?」
イルカにやや疑いの目を向けられてカカシは十二支総てを言ってみた。
「ね、知っているでしょ」
「何の動物かも知っているんですよね」
更に追究されてカカシは順々に動物を言っていく。
最後の動物になった。
「で、最後はイだからイルカです」
「カカシさん、最後のイはイルカのイじゃありません」
「・・・でしたっけ?」
「そうです、最後のイは」
「まあまあ、いいじゃないですか」
イルカの言葉を遮って、がばっとカカシはイルカに抱きついた。
そして押し倒す。
家なのでカカシとイルカの他には誰も見ていない。
誰もいない。
「最後の干支が本当は何か知ってますけど俺の中ではイといえばイルカ先生なんです」
ぎゅうぎゅうとイルカを抱き締めてくる。
「その方が楽しみが増すってもんですよ」
「楽しみ?」
「そうそう、一年経つごとにイルカ先生の年が近づいてくるなあって」
勝手に俺だけが思っているんですけどね。
「まあ、それならいいですけど」
イルカは少しだけ頬を染めながら頷いた。
「でも外で言わないでくださいよ」
誰かに知られたら目茶苦茶恥ずかしい。
こんなはカカシとイルカだけの秘密でいい。
恋人同士だけの秘密の話だ。
「はいはい、解ってますよ」
大丈夫ですから、と押し倒したイルカにカカシは、そっと口付ける。
「俺がイルカ先生を愛して愛して愛しちゃってるなんてことは二人だけの秘密ってことで」
「どうして干支の話からそうなるんです」
「イルカ先生が好きだからかな〜」
カカシが小首を傾げて可愛らしく訊く。
「イルカ先生は俺のこと好き?」
瞬間、かっとイルカは赤くなった。
それはもう赤としか言いようにない色に。
「ね?イルカ先生、俺のこと好き?」
尚も訊くカカシは、きっとイルカの答えが何か解っている。
解っていて訊いているのだ。
「好き?」
にこにこ笑ってイルカを見つめるカカシはイルカが好きで堪らないという顔をしていて。
イルカも、またカカシが好きで堪らないという顔をしていたのだが。
それをイルカが言葉に出すのは聊か時間が掛かったようで。
やっとイルカの答えを聞いたカカシは満足そうに微笑んだのであった。
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