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新境地



年末は仕事が忙しい。
連日、残業続きであったイルカは今日は、やっと定時を少し過ぎたところで帰れそうであった。
先ほど時計を見たが針は夕方六時を回ったところだった。
ああ、今日はもう帰れるんだなあ。
そう思うとイルカの顔は自然と緩む。
仕事が年末進行で忙しいのは仕方がないけど、家に帰って寝るだけが続くのは辛い。
今日は、ゆっくり出来るぞ、と思うとイルカの気分はうきうきとしてくる。
飯も食って風呂も入って、たっぷり寝ようと考えていた。



それが顔に出たのだろう。
「イルカ先生、楽しいことでもあったんですか」と話しかけられた。
「え、あ・・・。カカシさん」
話しかけてきたのは上忍のはたけカカシである。
イルカのアカデミーでの教え子が下忍としてカカシの指導を受けているという縁で付き合いがあった。
付き合いといっても偶に食事をしたり酒を飲んだり、その程度あったのだが。
最近、急速にカカシと親しくなったとイルカは感じていた。
なんというか二人の間が近くなった気がする。
カカシから頻繁に食事や飲みに誘われるのだ。
それは嫌ではないしカカシとは話が合うので一緒にいて楽しく、苦に思ったことはない。
しかし年末でイルカは仕事が忙しく、カカシの誘いを断ることしきりで心苦しく思っていた。



なのでイルカは好い機会だと思い今まで断ってきた負い目もあり自分の方からカカシを誘ってみることにした。
無論、カカシが忙しくなければの話だが。
カカシも上忍で交友関係も広そうだし年末となれば色んな人から忘年会だのに誘われていそうだ。
「ええ、あの」
イルカは躊躇いながらも言ってみる。
「今日は久しぶりに仕事が早く終われそうなので」
「そうなんですか!」
それを聞き何故かカカシの声が弾んでいた。
「イルカ先生、十二月に入ってから仕事が忙しくて大変そうでしたから良かったですね」
我がことのように喜んでくれている。
「はい、あのう、それで」
ちなみにカカシとイルカが話している場所は受付所前の廊下であった。



イルカは受付所の担当した書類を火影へと持って行くところでカカシは受付所へ報告書を出しに来たところで、 ばったりと出会ったのだ。
「じゃあ、イルカ先生!」
カカシが弾んだ声のままイルカに言ってきた。
「今日の夜は予定が空いていますか?」
「はい」
「だったら」
にこり、と笑うカカシ。
「今夜は俺と飲みに行きませんか」
誘うはずが逆に誘われてしまった。
「二人きりの忘年会ってことで」
忘年会、時期的にはぴったりの言葉だ。
カカシと二人で、ゆったりと酒を飲むものも悪くない。
二人で今年を振り返るのも楽しそうだ。
「いいですね」とイルカは微笑んで快く了承したのだった。



その後、カカシと落ち合ってイルカは店で飲んでいた。
「かんぱーい」
カカシとグラスを、かちんと鳴らして冷たい酒を飲む。
すっと透き通るような感覚で喉から胃に落ちていく酒は美味かった。
「あー、美味しい!」
率直に感想を言うとカカシが頷く。
「ほんと、美味しいですね」
「はい」
一口、飲んだだけなのにイルカの気分は高揚する。
ふわふわとした感じが体を覆い、楽しくなってきた。
久々に仕事が早く終わった開放感からか饒舌にもなってしまう。
今日の店もカカシと二人で何回か来たことがあり雰囲気も馴染んでいる。
非常にリラックスしていた。
正面に座っているカカシも楽しそうに酒を飲んでいるのも大きな要因だ。



「今年も、もう終わりですねえ」
しみじみと言うとカカシも同意する。
「ですね。一年なんて、あっという間です」
「あっという間、か」
そういえば、つい、この間、今年になったかと思っていたのに。
「年を取ると時間が経つのが早いですよね」
「イルカ先生、まだ若いのに何を言っているんですか」
茶化すようにカカシが言い、イルカのグラスに酒を注ぐ。
イルカもカカシに返杯し、もう一回、かちんとグラスを合わせて乾杯する。
「えー、だってですねえ」
グラスの酒を飲みながらイルカは話す。
少し酒も回ってきていた。



「一年経つごとに、これから自分の人生はどうなるんだろうとか思いません?一人で寂しいとか」
カカシ先生?と首を傾げてカカシに問いかけるとカカシは仄かに頬を赤くした。
いつも幾ら飲んでもカカシは顔に出ないのに、どうしたことだろう。
「ええっと、それは」
動揺したように口篭りカカシは酒を呷る。
「それはどういう意味でしょう、イルカ先生」
「何がです」
「一人で寂しいって言ったでしょう?」
「そうでしたっけ」
「言いました!」
強い口調でカカシは言い、向かい合わせに座っていたのだがテーブルに身を乗り出してきた。



「一人で寂しいってことは誰か・・・」
「誰か?」
酔ってきているイルカの目の前にカカシはいる。
手を伸ばせば、すぐそこに触れるほど近くに。
カカシさんってカッコいいなあ〜。
ぼんやりとイルカは、そんなことを思っていた。
あの、きらきら光る銀の髪に触ってみたい、とも。
「誰か好きな人でもいるんですか?意中の人にアタックしようとか・・・」
意を決したようにカカシはイルカに訊いてくる。
カカシの出ている片目が緊張しているのか、やけに輝いて見えた。
黒い瞳は光の加減で紺色にも群青色にも見えるから不思議だ。



「好きな人、ですか・・・」
「はい」
イルカの答えを待つカカシは、ごくりと唾を飲み込んだ。
なんだか、すごく何かを期待して期待してないような感じだ。
「今はいませんけど」
「そうですか」
はあ〜っとカカシは肩の力を抜いた。
イルカの答えに安心したようだった。
「カカシさんは好きな人はいるんですか?お付き合いしている人とかいそうですよね」
ふと興味がわいてイルカはカカシに質問してみた。
カカシは人当たりもいいし好感をもてる人柄なので綺麗な女性に告白されたりして、案外、付き合っている人とかいるかもしれない。
が、イルカの予想に反してカカシは首を振った。
「好きな人はいますが付き合っている人はいません」
「へえ〜」
意外であった。
カカシほど格好良かったら浮名が山ほどあると思っていたから。



「俺は身持ちが固い男ですよ」
イルカの顔色を読んだのかカカシが、きっぱりと言った。
「好きな人だけしか愛しません、一途で好きな人一筋なんです」
言い切るところが男らしい、とイルカは思う。
「カッコいい〜、ですね」
酔っているのでイルカの口調が砕けている。
「カカシさんに愛される人は幸せ者ですねえ」
いいなあ、なんて暢気に言っている。
そのイルカの言葉にカカシの目が微かに細まった。
何かを得たように。
狙いを定めたハンターのように。



「イルカ先生は、どんな人が理想なんですか」
身を乗り出していたカカシは落ち着いたのか元通り座りなおして、さり気なくイルカに訊いてきた。
理想とは話の流れから言って将来の伴侶とも言うべき人をさすのだろう。
そのことはイルカも分かっていた。
余り、こんなことは人に言わないが相手が気を許しているカカシ、それに酒の力も手伝って、 すらすらと口から出てしまう。
「俺の理想の人は精神的にも経済的にも自立している人ですかねえ」
それは常々思っていたことだ。
忍者という職業上、いつ世を去るか判らないので残る人間に苦労を掛けたくないとイルカは思っていた。
それ故、自分がいなくなっても生活するに困らない人がいい、という意味で精神的にも経済的にも自立した人がいいと言ったのである。
「なるほどね〜、イルカ先生らしいです」
うんうん、と頷くカカシも、もしかしたら酔っ払っていたのかもしれない。
忘年会の名に相応しく酒の瓶が数本、空になっていた。
結構な量を二人とも飲んでいる。



「で、カカシさんの理想の人はどんな人・・・」と話の流れから当然、カカシにも訊こうとしてイルカは思い止まった。
さっき、カカシさんは好きな人はいるって言っていたよ、な?
じゃ、理想の人って訊くのは変か。
質問を変えた。
「カカシさんの好きな人って、どんな人なんですか?」
カカシのハートを射止めた人物に興味津々である。
女性でなくとも色恋話は酒の席では花が咲くのかもしれない。
「えー、それはですねえ」
ちら、と思わせぶりにイルカに視線を送るとカカシは嬉しそうに話し出した。
「俺の好きな人はですね」
ぐい、とグラスの酒を飲み干すと再び、イルカの方へと身を乗り出してくる。
余程イルカに訊いてほしいらしい。
カカシにつられてイルカもテーブルに身を乗り出す。
二人の顔はテーブルの上で今にも触れ合いそうであった、特に唇が。



「優しくて前向きで笑顔が素敵で可愛い人です!」
可愛い人かあ、どんな人だろう?
ちょっとわくわくする。
もしかしたらカカシの好きな人が判るかもしれない。
「誰にでも親切なのが長所でもあるのですが俺にとっては嫉妬の種でもあります」
誰にでも親切すぎるからカカシさんは妬いているのか、可愛いところあるなあ。
イルカは、ほのぼのする。
「そして責任感が強くて仕事熱心で忙しくても弱音を吐かずに頑張りすぎてしまうところが心配です」
好きな人を心配するなんてカカシさん、優しいなあ。
あったかい気持ちになりながらイルカはカカシの話を聞いていた。
「俺は好きだと必死にアピールしているんですが俺の気持ちに中々、気がついてくれないのが心憎くもありつつも、そこがまた可愛くて」
カカシは惚気ている。
「こんなに好きなのに」
その言葉でカカシは締めくくった。



カカシさん、本気なんだ。
カカシの本気を知ってイルカは酒の勢いで言ってしまった。
「告白すればいいのに」
にやっとカカシの口角が上がったのは気のせいか。
多分、気のせいだとイルカは思った。
続けて言う。
「そんなに分かってくれない相手なら実力行使に出るとか」
愛情を行為で示せばいいという言う意味合いでイルカはカカシにアドバイスしてみた。
恋愛経験が自分にないのは置いといて。
「分かりました」
カカシは、とても素敵な笑顔を見せた。
「そうします」とイルカに宣言する。



カカシは、がたっと椅子の音を立てて立ち上がった。
「ちょうど、酒も飲み干しましたし」
立ち上がったカカシはイルカの手を取り、エスコートしてイルカを立たせる。
「イルカ先生の理想の人に俺は当てはまるようなので」
遠慮なく実力行使とやらに移らせていただきます、とカカシは宣う。
「はあ」
イルカはカカシに誘導されるように店の外に出る。
会計もカカシが、さっさと済ませてしまった。
割り勘しなければと思いつつも酒の所為で霞がかった頭では体も上手く動くことができない。
結局、カカシが払ってしまっていた。



店の外に出ると寒かった。
「寒い」と口に出せばカカシが体を引き寄せてくれる。
くっ付くと暖かい。
そのままカカシはイルカを連れて、どこかへと歩き始めていた。
「どこへ行くんですか」
ちょっとだけ不安になって尋ねるとカカシは自信満々に応えてくれた。
「俺の家ですよ」
「カカシさんの家?」
「そうです」
「なんで・・・」
そのイルカの問いにカカシは応えず立ち止まって、じっとイルカの顔を見る。
「実力行使するって言ったでしょう」
そう言うとカカシの顔がイルカに近づいてきて、今度こそ触れ合った。
カカシの唇とイルカの唇が。



カカシに口づけされた。
しかも外で。
酒の酔いも瞬時で醒める。
もしかしてカカシさんの好きな人って俺・・・。
イルカが呆然と目を見開いていると、またもやカカシに口づけされた。
二度目の口づけは、もっと強烈で鮮烈で。
カカシはイルカのことが好きなのだと実感させられる。
真っ赤になっているイルカにカカシは甘く囁いた。
「やっと分かったの、イルカ先生」
じゃあ続きは俺の家でね、とカカシは幸せそうにイルカを我が家へと導いたのであった。



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