ホワイトデート
「イルカ」
火影の部屋から退室しようとして呼び止められた。
振り返ると苦虫を噛み潰したような顔の五代目火影がいた。
「はい、どうかなさいましたか?」
用事は済んだはずなのに。
自分を呼び止めたのは、どうしてなのか。
火影は、ちょいちょいとイルカを手招く。
「なんですか」
イルカが近づくと火影が「これだ」と申し訳なさそうな顔をしてイルカに一枚に紙を差し出した。
「任務依頼書?」
イルカを指名する任務の依頼書だった。
しかも指定の日は明日。
絶対、と記載してある。
「あー、そのなんだ」
火影は、非常に言い難そうにしている。
「イルカ指名の任務が来ていてなあ、そのなんだ」
顔を顰める火影。
「どうしてもイルカがいいってきかないんだ」
「はい」
難易度か高くて難しい任務なのだろうか。
イルカは任務依頼書に書いてある内容に目を通した。
「そのなんだ、嫌だったら断ってくれていいんだぞ」
遠慮なく、と火影は言う。
「・・・おかしな依頼ですね」
内容を読んだイルカの感想だ。
「これなら、俺でなくてもいいような気がいたしますが」
「そうなんだ・・・」
「それに、依頼者の方のお名前がありませんが」
「当日まで秘密にしていたいそうだ」
「そうですか」
「あ、身元については私が保証する」
どうやら、火影は任務の依頼人を熟知しているらしい。
火影から直接、依頼書を渡されたことからも推測できる。
だとしたら、火影と依頼者は懇意の仲でイルカが依頼を断ったら困るのではないだろうか?
信頼関係が崩れたり・・・。
そこまで考えてイルカは決断した。
「任務、お受けします」
「そ、そうか!」
明らかに火影は、ほっとしたようだった。
表情が明るくなる。
「報酬は高いからな!」
「はい」
「それから」と火影は何やらイルカに差し出した。
高そうな店の紙袋に入った何か。
「任務のときは、この服を着てきてほしいそうだ」
「服?」
紙袋を開けると、これまた高そうな上下が揃った服が入っていた。
おまけに靴も入っている。
「サイズはイルカに、ぴったりだから安心していいと言っていた」
「・・・そうですか」
いつの間に、自分の服のサイズや靴のサイズを知ったのだろう。
依頼人が誰なのか、激しく気になってくるイルカであったが、ぐっと我慢する。
改めて依頼書を見返した。
「任務は明日、里内でですね」
「うむ」
「朝の十時に里の中心街の噴水の前で待ち合わせ、それからロマンチックな映画を観てランチ・・・」
まるでデートのような内容だ。
「それから、ショッピングをして、スイーツ・・・」
スイーツの指定までしてある。
「一つのジュースをハートを模ったストローで二人で飲んで、パフェを二人で食べて・・・」
イルカが依頼者にパフェの食べさすとか書いてあった。
まるでデートみたいだ、とイルカは首を捻る。
「その後は公園を歩いて、公園のベンチで休んで語らい・・・」
聞いている火影は「あいつも困ったやつだ」と呟いている。
「注意、任務中は終始、手を繋ぐ。繋ぎ方は指と指を絡めるように」
細かい説明書きがあった。
「暗くなったら二人きりで夜景の見える火影岩の上で・・・」
そこまで読んでイルカは顔を上げて火影を見た。
「こんなことお聞きするのは大変申し訳ないのですが」
「なんだ?」
「この依頼者の方、変な人じゃないですよね?」
「え、変な人・・・」
火影は答えに詰まった。
渋い顔をしている。
「そ、そだな」
明後日の方角を見て、額に汗を掻いている。
「変な人じゃないが・・・変わっているかもしれない」
矛盾した答えだ。
「やっぱりやめるか、この依頼?」
火影が心配そうな顔になる。
「断ったって全然、いいんだぞ」
「いえ」
イルカは首を振った。
「一旦、引き受けたからには翻したりしません」
「そ、そうか?」
「はい」
依頼書を折って畳む。
「それに」
イルカは苦笑する。
「この依頼者が誰なのか、何となく解ったような気がします」
「そうか!」
ぱっと火影の顔が明るくなった。
「なら、話は早い。私は散々、こんなことやめろって止めたんだがなあ」
腕を組んで火影は語る。
「男なら回りくどいことしないで、正々堂々申し込めって助言してやったんだが」
聞き分けなかったらしい。
「大丈夫ですよ、火影さま」
依頼書を懐にしまったイルカは微笑んだ。
「そんなところも含めて俺は好きなんですから」
「そうか・・・」
「はい」
微笑んだイルカは一礼して火影の部屋を後にした。
イルカを見送り、腕組みをしたまま火影は呟く。
「愛されているんだなあ、カカシ」
ちょっぴり羨ましそうであった。
任務を終えたイルカが家に帰るとカカシがご機嫌でイルカを出迎えてくれた。
カカシとイルカは恋愛関係にある。
同棲ではなく、同居中だ。
「イッルカせんせー、お帰りなっさーい」
「ただいま、カカシさん」
イルカの纏わりついて、にこにこしているカカシにイルカは質問した。
「何か良いことあったんですか?」
「好いことはありますけど、まだでーす」
「まだ?」
「はい」
カカシは教えてくれない。
「それよりイルカ先生は?何か好いことありました?」
「特に」
「そう・・・」
がくっとカカシは肩を落とす。
しかし、すぐに復活した。
「じゃあ、明日は何か予定はありますか?」
「はい、久しぶりに指名の任務が入りました」
「指名の任務?」
カカシの目が輝く。
「それで?それで?」
引き受けたの?と興味津々だ。
「引き受けましたよ」
「そうなんだ〜」
カカシは今にも、万歳しそうな勢いだった。
うきうきとしたチャクラが駄々漏れになっている。
「明日の任務には、これを着るようにと渡されましたし」
イルカが持っていた服の入った袋を見せるとカカシの視線が微妙にずれた。
「そうなんですか〜」
へーとか、ふーんとかワザとらしく言っている。
イルカから、くすっと笑いが漏れた。
「カカシさんは明日は?」
解っていたが聞いてみた。
「俺はお休みです」
即効で答えが返ってくる。
「そうなんですかー」
「はいっ!」
元気のいい返事だ。
「予定はないんですか?」
「えーっと、それは」
目が泳ぐ。
「内緒です」
「へええ」
イルカの相槌にカカシが慌てたように話題を逸らした。
「そうだ、晩飯の用意しておきましたよ、食べましょう!」
「あ、そうですね」
気がつくとイルカの腹が鳴っている。
ご飯が食べたいと鳴っている。
「今日はイルカ先生の好きなものばかり作りましたよ〜」
「嬉しいです、カカシさんの料理好きなんですよね」
美味しくて、とイルカの顔が自然と綻ぶ。
「あ、もちろん、カカシさんも好きですよ」
何気なく言うとカカシが、びっくりしたようにイルカを見た。
「イルカ先生、どうしたの?」
愛を囁くのは主にカカシなのに。
「そんなに驚かなくても・・・」
言ったイルカの頬が、ほんのり赤くなる。
「いつも言ってもらってばっかりだから」
「あー、そうなんだー」
嬉しそうにカカシがイルカに寄ってきて抱きしめた。
「俺もイルカ先生が好き」
カカシとイルカは見詰め合って惹かれるようにキスをする。
幸せそうに。
次の日。
イルカが依頼で指定された場所に行くと、そこにいたのはカカシであった。
「ほら、今日はホワイトデーでしょ、だから」
だから、多分、カカシはデートしたかったのだ。
イルカを指名で依頼するほどに。
「こんなことしなくて、普通に言えばいいのに」
肩を竦めたイルカを見てカカシが首を振った。
「だって、普通に言ったらイルカ先生、ダメって言うでしょ?」
「それは、まあ」
「俺は、この日のために任務を頑張って終わらせて休みをもぎ取ったんです!」
カカシの意気込みは相当なものだ。
「さ、イルカ先生」
カカシがイルカに手を差し出した。
「デートしましょ」
「・・・はい」
照れながらもイルカはカカシの手を取った。
指を絡めるようにしながら手を繋ぐ。
今日はホワイトデー。
恋人たちが楽しく過ごす日であった。
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