ほのか
里内を歩いているときだ。
それを見かけたのは偶然だった。
「あれ・・・」
最初に見つけたのはイルカ。
「あれって、カカシさんですよね?」
隣にいる人物に確かめると「ああ、そうだな」との返事。
次いで眉を顰めた人物は上忍のアスマだ。
アスマはイルカとは知己の間柄で兄のような存在で、カカシとは上忍仲間になる。
「隣にいる人って」
カカシの隣には人がいて、肩を並べて歩いている。
身長はカカシと同じくらいあるが、身体的な特徴から女性だと判断された。
それも、かなり綺麗な。
カカシも覆面をし、片目を額宛で隠しているものの美丈夫だ。
つまり、美男美女のカップルといっても過言ではない。
その二人が楽しそうに、カカシに至っては身振り手振りをしながら何やら興奮気味に話している。
とても仲良さそうに。
「ああ、あれは」
カカシに視線を向けたアスマが興味なさげに呟いた。
「カカシの新しい彼女じゃねえのか」
「そうなんですか」
「多分だけどな」
それだけ言うとアスマは本当に興味がなかったのか、別のことを話し出した。
イルカを、それに相槌を打つ。
視界の隅にカカシの姿を残しながら、カカシから遠ざかっていった。
そんなカカシに話しかけられたのが最近だ。
「イルカ先生〜」
人のいい笑顔を浮かべながらカカシは仕事帰りのイルカを誘う。
「今日は、もう終わりでしょ。飯でも行きませんか?」
「はあ・・・」
何となく気乗りがしない。
しかし、断る口実もない。
口実はないが先日、見かけたカカシと女性との姿が頭を掠める。
誘われたのは嬉しいが躊躇ってしまう。
・・・なんか嫌だな。
何が嫌のなのか、原因が自分でも解らないがそう思う。
「予定がないなら行きませんか」
カカシは誘ってくる。
「そうですね・・・」
煮え切らない。
イルカの乗りが悪いのが伝わったのか、カカシが必殺技を出してきた。
「子供たちの近況も話したいですしね」
子供たち、とはイルカのアカデミーでの教え子で、現在はカカシが上忍師として指導している下忍の子供たちのことだ。
アカデミーを卒業してから会う機会も話す機会も少なくなった。
今、子供たちはどうしているんだろう。
とても気になる。
「ね、行きましょう」
優しい顔で微笑まれると、もはやイルカに断る術はなかった。
結局、カカシと夕飯を食べに手近な店に来ていて、ついでに酒も飲んでいる。
カカシは饒舌で、よく喋った。
酒の所為のなのかもしれないが。
「それで子供たちが・・・。イルカ先生?」
名を呼ばれて、はっとカカシに視線を戻す。
「どうかしましたか」
「あ、えっと」
カカシの話から気が逸れたのは、店の中で件の女性を見かけたからだ。
先日、カカシと仲良さそうに話しながら歩いていた人。
つい、目でその姿を追ってしまった。
「何か、気になることでも?」
カカシもイルカの視線の先を追う。
追って、件の女性が目に入ったはずなのだが意にも介さなかった。
まるで、知っている人なんていないかのように。
「いえ、別に」
カカシが何も言わないのでイルカも何も言わない。
それから話の続きをしながら食事をして店を出た。
店から出ると満点の星空だった。
冬の空は空気が澄んでいて、星がよく見える。
「綺麗ですね」
自然とそんな言葉が出た。
きらきら光る星は見ていると心が洗われるようだ。
浄化されていくような。
カカシも、そんな気分だったのかイルカに同意してくる。
「本当に。星空っていいですね」
目が合って、二人して微笑む。
何となく。
何となくだが、いい雰囲気が漂う。
ふんわりと甘い空気が。
しかし、すぐにそれはぶち壊された。
「こんなところで奇遇だなあ」
カカシに声をかけたきた者がいる。
「何しているんだ?」
さきほど店で見かけた件の女性だった。
カカシと仲良さそうに歩いていた、例の。
「何か用?」
カカシは冷たい。
「今は忙しいんだけど。邪魔しないでくれる?」
素っ気無い。
とてもアスマが言っていたような付き合っている感じではないし、ましてや彼女という単語からは程遠い。
女性はカカシの態度を気にも止めないようで、にやりとした。
カカシの横にいるイルカを見る。
「ふーん、そうなんだ〜」
へーとか、なるほどとか、どう見てもカカシをからかっていた。
「あっち行けって」
カカシが手で追い払う仕草をする。
「お呼びじゃないから」
「はいはい」
女性は両手を広げて、降参、参ったのポーズだ。
「お邪魔虫は退散しまーす」
「余計なこと言うな」
あはははは〜、と女性は豪快に笑う。
「ま、頑張れよ〜」
「言われなくても」
仲が良いのは伝わってくるが色恋とは結びつかない言葉の応酬だ。
・・・この二人って、もしかして友人?
男性と女性の間で友情が成り立たないこともない。
「んじゃなあ」
女性らしからぬ言葉使いで去って行く。
去って行こうとしたところへ、イルカは思わず声を出した。
出したというか、出てしまったというか。
「あの!」
「イルカ先生?」
「ん?」
二人はイルカに注目する。
「どうしたんですか」
「何だ何だ」
「あ、その」
注目されてイルカは言わざるを得ない状況に追い込まれた。
カカシと女性がどんな関係なのか。
アスマが言っていたことは果たして本当なのか。
「お二人の関係って・・・」
「俺とこいつ?」
「私とカカシか?」
お互いを指差して不可解な顔をする。
「はい、そうです」
うんうんと頷くイルカ。
「お二人は付き合っているんですか?」
イルカの発言に二人は思い切り顔を顰めた。
「はああああ?誰と誰が?」
「付き合う〜?」
とても嫌そうだ。
「だって、アスマさんが」
「アスマ?」
アスマの名前にカカシの眉が釣りあがる。
「アスマがどうしたの?」
カカシはすごい剣幕だ。
「アスマが何か言ったの?」
「アスマさんが、その」
件の女性を指差す。
「その人がカカシさんの新しい彼女だって」
しん、と沈黙が下りた。
「ないないないないない」
女性が顔の前で激しく手を振った。
「それはない!天と地が引っくり返ってもない!」
きっぱりと言う。
「だいたい、カカシって男だったっけ?」
首を傾げている。
「そういう、そっちだって女だったのか?」
どうも話が噛みあわない。
「・・・どういうことですか?」
「どうもこうも」
カカシは肩を竦めた。
「こいつとは単なる読書仲間なんですよ」
「読書仲間?」
「そうです、俺の愛読書を読んでいる数少ない仲間・・・」
歯切れの悪くなったカカシは、そっぽを向く。
どうも罰が悪いらしい。
それはそのはずでカカシの愛読書は年齢制限があるものだ。
それを、この女性が読んでいる・・・。
じっと女性を見ていると、こちらも肩を竦める。
「女性だって読むさ。話の内容が面白いなら!」
読書をするにしても男性と女性では目的が違うようだ。
「そうなんですか」
イルカは拍子抜けしてしまった。
事情が判ると女性は改めて「んじゃなあ」と去って行った。
「アスマによろしくしといてくれ」とカカシに言い残して。
どうやら、これから任務に行くらしい。
偶々、里に帰ってきてカカシに会って、共通の本を読んでいるという仲間ということで話が弾んだらしかった。
「はあ」と溜め息を吐いたカカシが肩を落とす。
「イルカ先生に変な誤解をされるなんて」と落ち込んでいる。
「すみません」
「いえ、イルカ先生が謝ることじゃありませんし」
悪いのは誤解するような発言をしたアスマだ、とカカシは決め付けている。
「イルカ先生のことが心配なんでしょうけど」
ちら、とイルカを見てくる。
「イルカ先生と弟のように思っているから、あいつ」
そんなこと言われると嬉しくなってしまう。
「だから、俺をイルカ先生に近づけたくなかったんでしょう」
それを聞いたイルカは首を傾げた。
なんで?
「だって、俺」
はあと大きく息を吸い込んだカカシが息を吐き出す。
そして言った。
「俺、イルカ先生が好きなんです」
好き・・・。
そっか。
カカシの言葉が、すとんとイルカの胸に落ちてくる。
カカシに誘われて、嫌だなと思った原因が。
イルカは理解した。
カカシのことが気になっていた。
気になっていたから心に引っ掛かっていた。
カカシの心が自分以外に向けられることを。
今はまだ芽生え始めたばかりの、ほのかな感情だけれども。
「カカシさん」
微笑んだイルカは、そっとカカシの耳元で囁く。
何を言ったのかはカカシにしか解らない。
しかし、それを聞いたカカシが幸せそうに笑ったのは言うまでもなかった。
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