初詣で
イルカが目を覚ました時は朝になっていた。
お参りは・・・?
二年参りに行こうってカカシさんと話していたんだけど。
そこから記憶がない。
目を覚ました場所はベッドの中で隣にはカカシが、すやすやと眠っている。
この状況ではおそらく、多分いや確実に二年参りには行っていない。
断言できる。
自分から言い出しておいて眠ってしまうなんて、ちょっと情けない。
新年早々、落ち込んだイルカだ。
カカシさんと一緒だと、ついつい気が緩むっていうか安心しちゃって。
隣で目を閉じているカカシの寝顔を見る。
この人といると、どうしようもなくなってしまうほど気持ちが安定して自分を全部、投げ出してしまうのだ。
大好きなんだなあ、俺・・・。
大好きとはもちろん、カカシのことを指す。
そんなことを一人思ってイルカは頬を染めてしまった。
「なーんか楽しそうですね」
ぼそっとした声がしてイルカは、びくりとなった。
「あ、カカシさん・・・」
「イルカ先生、一人で楽しそうでずるいなあ」
耳元で囁かれると、その甘い声がむず痒い。
イルカはカカシの甘い声から逃げるように体をベッドの上に起こした。
そしてカカシに頭を下げた。
「俺、昨日眠ってしまったんですよね?ほんと、ごめんなさい」
申し訳なくてイルカは何度も謝ってしまう。
この先、二人一緒に年末年始を過ごせるか分からないから。
しかしカカシは、にっこり笑って首を振った。
「いいんですよ、イルカ先生」
ちっともイルカを責めたりしない。
また来年行きましょう、とフォローしてくれたのだ。
「カカシさん」
優しいカカシの言葉に感動するイルカ。
だがカカシはさすが上忍というべきか、チャンスを逃さなかった。
イルカにキスをねだったのである。
カカシにキスをするという新年、ここ大一番を乗り切ったイルカは、やはりお参りに行きたくなってきた。
つまり初詣でだ。
夜は寝てしまっていけなかったが今は朝。
今日は一日、今なら初詣でに行ける、と確信する。
善は急げだ。
「カカシさん、初詣で行きましょう!」
「はつもうで?」
「今から神社にお参り行くんです、そしておみくじも引かないと!」
「へえ、おみくじねえ」
面白そうとカカシは興味津々だった。
「イルカ先生と二人で行くんですよね?」
「はい、そうです」
イルカは張り切って頷いた。
望みどおりイルカは初詣でに来ていた。
カカシと二人、木の葉の里で一番大きな神社に。
大きな神社は木の葉の里中の、たくさんの人が初詣でに訪れていて知人や友人に会うことが容易に予想できる。
その神社でイルカは妙に、そわそわしていた。
お参りして、おみくじを引きながら辺りを警戒しているのだ。
「イルカ先生、どうかしたの?」
イルカの様子を見てカカシは不思議そうな顔をする。
「落ち着きないけど」
「あ、ええ、その、まあ」
きょろきょろとイルカは神社の境内を見渡した。
「知っている人っていますか?」
「さあ。今はいないみたいだけど」
カカシの言葉を聞いてイルカは肩の力を抜いた。
「どうしたの、ほんとに」
心配そうにするカカシにイルカは小さな声で答える。
「だって、ほら。カカシさんと俺の上着がお揃いでしょう」
「え?」
「この上着、カカシさんがクリスマスにプレゼントしてくれて。自分のと色違いでお揃いにしましたって」
「なに?聞こえないよ」
「えっと、カカシさんがプレゼントしてくれたこの上着、ロングのダウンジャケットがカカシさんのと俺のと色違いでお揃いで」
「ん〜?聞こえなかったなあ、もう一回、言ってくれますかイルカ先生」
「だーかーら!この今、着ているダウンジャケットがカカシさんと俺のが色違いで、
お揃いだから人に見られたら恥かしいなあって思うんです」
この頃になるとイルカの声は当初の小声とは違い、普通よりも格段に大きな声になっていた。
「つまりペアルックってことじゃないですか!」
「ペアルックねえ」
にやりと笑ったカカシの顔を見て、ようやくイルカは事態に気がついた。
最初は小さな声だったはずなのに、この声の音量では神社の境内にいる人、全員に聞こえている。
これではカカシと自分がペアルックを着ていることを宣伝しているようなものだった。
なのにカカシは、のんびりと言う。
「色違いだから、ばれませんて」
さっきは明らかに、にやりとしていたのに。
確信犯だった。
「そんなこと言っても・・・」
誤魔化されませんよ、とイルカがカカシに詰め寄ろうとした時、声が掛けられた。
「あら、誰かと思ったらイルカ先生じゃないの」
「カカシもいるな。何、騒いでんだ?丸聞こえだぞ」
それはカカシと同じ上忍のアスマと紅であった。
二人とも正月らしく和服で綺麗に装っている。
「あ、アスマ先生、紅先生」
あけましておめでとうございます、とイルカは丁寧に新年の挨拶をする。
カカシは「おめでとう〜」とマイペースな挨拶だ。
「今年もよろしくね」
「よろしく頼むぜ」
二人からも新年の挨拶を返される。
そして訊かれた。
「二人で初詣でに来たの?」
「あ、はい」
「うん、そうだ〜よ」
「なら、ちょうどいいわ」
何がちょうどいいのか紅が、びしっと人差し指を立てる。
「ここで会ったのも何かの縁。これから飲みに行くわよ!」
「飲みに?」
「朝から?」
「そうよ、新年だもの」
紅は、しれっとした顔で宣言する。
「正月はね、朝から飲んでもいいのよ!正月の朝から、やっているお店知っているから」
行きましょう、と言う紅には断れない雰囲気が漂っている。
断ると後が怖い、というのもあった。
隣のアスマは、しょうがねえなあ、という顔つきで半ば諦めているようである。
そして店に行く途中、会った知り合いという知り合いが飲みに誘われて店に着いた時は大所帯になっていた。
店に着いてもイルカには受難が待ち受けていた。
それは着ていた上着、ダウンジャケットにも言えたことだが、その下に着ている服にも問題があったのだ。
上着の下に着ている長袖のTシャツって・・・。
隣に座っているカカシを、ちらりと見る。
カカシは既に上着を脱いでしまっていた。
そして長袖のTシャツになっている。
イルカは脱ごうとした上着の襟元を固く握り締めた。
長袖のTシャツ、カカシさんと丸っきりお揃いで同じだ・・・。
柄も色もデザインも何かも、そっくりな服を二人は着ている。
この服もカカシがクリスマスにプレゼントしてくれたものだ。
まさか上着を脱ぐ羽目になるとは思わなかったので、カカシに言われるまま着て来てしまった。
どうしよう、脱げない。
イルカは迷いに迷う。
ここで脱いだらカカシと同じ服である理由を訊かれてしまうに違いない。
訊かれたら答えなければならない。
カカシとの仲を隠す訳ではなかったが、わざわざ、自分から公言するような器用さはイルカにはない。
イルカの性格上、誤魔化しや嘘をつく事は出来なかった。
出来たとしても、すぐにばれてしまうこと請け合いだ。
そんな自分を誰よりもよく知っていたイルカは一番、良い選択をする。
すなわち・・・。
上着を脱がない、という方法だ。
脱がなければ分からない、単純なことだった。
「イルカ先生、上着は脱がないの?」
カカシが暖房のよくきいた暖かい室内で上着を羽織ったままのイルカに訊いてきた。
「え、ええ。俺、寒がりなので。これでいいです」
「ふーん」
訝しそうにカカシはしたものの、それ以上、追求はしてこなかった。
大所帯で飲んでいる広い座敷はわいわいがやがやと賑わい、次第に酔っ払いが多くなってきた。
お酒大好きな紅が先頭に立って、じゃんじゃん飲んで盛り上げているので他の面々も釣られて飲んでいるようだった。
紅は一番、飲んでいるのにも関わらず晴れ着が少しも乱れていない。
飲んでも着崩れしない様は見事であった。
他の者たちも負けないくらい飲んでいる。
忍者も正月くらいは酔っ払いたいらしい。
その上、お酒が強い者が多いので酒瓶も、じゃかじゃかと空いていく。
当然、カカシもイルカも飲みに巻き込まれていた。
カカシはいくら飲んでも顔色は変わらず酔うことはなく、他に誘われてもイルカの傍を離れることはなかった。
そのことにイルカは安心したものの、注がれる酒を飲むうちに体が熱くなってくる。
暖かい室内で厚手のダウンジャケットを着ているイルカの額には汗が浮かんできていた。
暖かさと熱さで暑くなり頭が、ぼうっとしてくる。
いつもより早いペースで飲み、おまけに暑いせいか酒の回りも早い。
そこへタイミングよくカカシがイルカに言った。
「イルカ先生、そろそろ上着脱いだら?暑いでしょ」
「え、はあ。そうですね」
酔いも回ってきているイルカは容易くカカシの言葉に乗ってしまう。
カカシに甲斐甲斐しく上着を脱がされてしまった。
上着脱ぎ涼しくなったイルカは、ほっと息を吐く。
「あー、涼しい〜」
「でしょう?あ、もっと飲みますか」
「どうも」
更にカカシに酒を注がれてイルカは飲んでしまう。
イルカにしては今日は随分と飲んだ方だった。
強い酒もたくさん飲んだ。
おまけに、まだ午前中で飲み会と称する新年会は未だ続行中だ。
夜中まで続きそうな勢いだ。
「イルカ先生、疲れたら俺の肩、どうぞ〜」
「すみません」
ことりとカカシの肩に頭を乗せるとイルカは寝てしまった。
安心して。
カカシがいるから。
「カカシさん、あのですねえ」
カカシとイルカの真ん前に座って、一部始終を見ていたゲンマは呆れたようにカカシに言った。
「ん、なーに」
「カカシさんって、ほんっとイルカのことが好きなんですねえ」
それはイルカが知らないだけで周知の事実だった。
「まあねー」
カカシは、ほくそ笑む。
「新年から周囲に自分とイルカとの仲を、そんなに見せ付けるなんて、まあ」
見せ付けるとはカカシとイルカの揃いの服のことだろう。
座敷で飲んでいるのは皆が皆、忍者だ。
見ない振りして、ちゃっかりカカシとイルカのことをチェックしているはずである。
「一目で分かるように服でアピールするなんて」
ちょっと気の毒そうにゲンマは眠ってしまったイルカを見た。
何も知らないイルカが少しだけ可哀相になるのだが、それ以上に、きっとカカシに愛されているのだろう。
そうに違いない。
ゲンマは溜め息を吐いた。
「カカシさん、今年も絶好調なんですね」
「もちろん!」
カカシは断言した、元気よく。
「俺のイルカ先生への愛は今年も永遠に不滅だ〜よ」と嬉しそうに。
新しい年の初めは賑やかで楽しく。
木の葉の里は新年から平和であった。
text top
top