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春ニオウ



その一報がカカシの元へ舞い込んできたのは正に晴天の霹靂だった。
思いも寄らぬ報せで。
任務に出たイルカが行方不明。
連絡も取れず、所在が判らない。
危険性が低い遠方への任務でカカシも多少は心配していたが、無事にイルカが帰ってくることを疑わなかったし信じていた。
なのに───。
イルカがいなくなるなんて。
カカシの前から。
そんなことは想像もしていなかった。
だって世界が終わるまで一緒にいられると思っていたから。



その報せを聞いたとき、思いの他、カカシは冷静だったと紅は記憶している。 「心配じゃないの」
「心配だよ」
カカシとイルカの間には単なる教え子を共通とする以外の何かがあったと紅は思っている。
「心配って言う割には慌てても嘆いてもいないのね」
つい、そんなことを言ってしまう。
「そんなことして」
カカシは開いていた本を閉じた。
常日頃、カカシが持ち歩いている本だ。
「イルカ先生が帰ってくるの?」
「え」
「そんなことして帰ってくるのなら」
カカシは立ち上がって腰のポーチに本を仕舞った。
「いくらでもするけど」
静かに去って行く。
その後ろ姿を見送りながら紅は今更ながらにカカシは本を開いてはいたが、読んではいないことに気がついたのだった。



紅と別れて、控え室のある棟から出るとカカシは空を見上げた。
灰色の空には、どんよりとした雲が広がっている。
はあっと吐く息が白い。
吸い込んだ空気が冷えていた。
「雪が降るな」
空を見上げていたカカシが呟く。
「そして吹雪になる」
出ている左眼が閉じられた。
何かを思い出すように眉根が顰められる。
いったい、何を思い出しているのか。
暫くしてカカシは再び呟いた。
「どこにいるの」
イルカ先生。
「寒いから早く、早く」
帰っておいで、と。



しかし、カカシの祈りは天には通じず。
イルカの消息は杳として知れなかった。
捜索隊も作られたが手掛かりさえも見つからない。
敵の手に落ちたのか、道に迷ったのか。
それすらも判らない。
雪が降り始める頃に行方が判らなくなったイルカは雪が融けることになっても見つからず。
時が経つにつれて捜索隊は縮小されて、いつしか自然とイルカのことは話題に上らなくなってきた。



「やんなっちゃうわね」
控え室にいたカカシの隣に紅は、どすんと腰を下ろした。
「どうなっているのかしら、いったい」
珍しく怒りを露にしている。
「そりゃあ、いつまでも行方不明になった一人の忍に関わっている暇はないのかもしれないけれど」
冷たすぎるわ。
柳眉を吊り上げている。
紅もイルカの捜索隊に加わった一人だ。
「火影さまだってイルカのことを知らない訳じゃないのに」
憤りを赤裸さまにしていた。
紅の言葉に反応を示さずに隣のカカシは黙々と本を読んでいる。
「何よ、カカシも冷たいのね」
そこで初めてカカシは紅の言葉に反応した。
「冷たいって?」
「イルカのこと心配じゃないのってことよ」
「心配だよ」
いつの日かの会話が思い出される。
「冷静ね」
紅は敢えて嫌味を言った。
「ああ、うん」
カカシは頷く。
「慌てても焦ってもイルカ先生は帰ってこないからね」
「それで」
「うん、だから俺が探すよ」
「え・・・」
「火影さまが捜索隊を打ち切ったのは俺が代わりにイルカ先生を探すから。イルカ先生を探す全権を俺が握ったからね」
「そう」
「そう」
二人の沈黙が下りた。



その沈黙を破ったのは紅だ。
「見つかるといいわね」
「見つけるさ」
「私も手伝うわ」
「その時は頼む」
「必ず、イルカ先生を見つけてね」
「ああ、必ず」
カカシは立ち上がる。
「じゃ俺、行くから」
振り返らずに、ひらひらと紅に手を振る。
「あ、ねえ」
部屋を出て行こうとするカカシに紅は呼びかけた。
「カカシって、イルカ先生のこと好き、なの?」
当たりをつけて言ってみたのだ。
振り返ったカカシは笑みを浮かべていた。
出ている片目が優しく細められた。
「さあね」
その一言というよりも表情で紅は確信する。
あんなカカシの顔は見たことがない。
「頑張ってよね、カカシ」
絶対にイルカ先生を探し出して。
紅にとってもカカシとは意味合いが違うがイルカは好ましい人物なのだ。



雪が融け春になった。
新芽が出てきて春に匂いがあちこちでする。
朗報が紅に届いた。
イルカが見つかったという。
遠い土地で生きていた。
それをカカシが迎えに行ったらしい。
イルカを追い、遠い土地に赴いたのだ。
よかった、と紅は人知れず安堵の息を吐いた。
イルカに会えるのはもうすぐだと。



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