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春一番



ひゅううと吹いた風にイルカは身を竦ませた。
「さむっ」
冬の風とは違う春の風。
春の到来を告げる風であったが吹いた風は冷たかった。
「春が間近ですねえ」
隣を歩くカカシは風に吹かれても寒くないのか、ポケットに手を入れて飄々としている。
白く光る髪は揺れて風に吹かれているのに寒がっている様子はない。
「カカシ先生、寒くないんですか」
不思議に思って尋ねるとカカシは片手をポケットから出して胸に当てた。
「俺の中にはいつでも熱い想いが滾っていて体をあったかくさせるんです」
いつも読んでいる本の受け売りだろうか。
くさい台詞を吐いている。
「それで結局、寒いんですか寒くないんですか」
イルカは結論を急いだ。
「もうイルカ先生ってば」
不満とばかりに眉を潜めたカカシをイルカを横目で見る。
「イルカ先生、ロマンがなーい」
思春期の女の子のようなことを言っている。
それに違和感がないことがおかしい。
「俺はロマンよりマロンがいいです」
「やっぱりイルカ先生はロマンがないです」
「なくていいです」
ぶるっと体を震わせてイルカは両手で自分を抱き締める。
少しでも寒さが緩和されるように。
「そんなのなくていいので」
早く家に帰って熱い風呂に入って温まりたいです。
物理的にあったかくなりたい。
「それもそうですね」
春一番の冷たい風に押されるように二人は自然と早足になった。



「春と言いつつも鍋」
家に帰って一番風呂をカカシに譲ってくれたイルカは夕食の支度をしていた。
風呂から上がると食卓の中央にコンロと土鍋。
それに切った野菜に肉や魚。
「鍋って色々入れなれるから便利ですよね」
どうやら冷蔵庫の中の鍋の材料となる物を有りっ丈使うらしい。
そういえば今日の夕飯の献立は鍋じゃなかったはずだ。
「でも」
イルカは肩を竦めた。
「外が寒かったし、鍋をすると家の中があったかくなるでしょう」
コンロの火と鍋の蒸気で。
それは最もだった。
「代わりますよ」
イルカ先生お風呂の入ってらっしゃい。
途中までしていた夕食の準備を代わることを申し出るとイルカは受け入れた。
「ゆっくり入ってらっしゃい」
よく、あったまってね。
カカシの言葉を聞くとイルカは「お母さんみたい」と笑って風呂場に姿を消した。
「お母さんだなんて」
イルカの言葉に苦笑いをする。
「俺はあなたの恋人でしょう」
うん、多分。
台所にあった使ったままのまな板や包丁を洗いながらもカカシはイルカを思う。
恋人と称する間柄になって日が浅く、どちらかというと友達の方がしっくりくるかもしれない。
とても仲のいい友達。
友達以上恋人未満という言葉が思い浮かぶ。
洗い終わるとコンロに点火し鍋をかける。
味付けはどうしたのだろうと鍋を除くと水しか入っていなかった。
イルカらしい。
台所から適当な調味料を持ってきて適当に味付けをする。
沸騰してから味付けをした方がよかっただろうか。
その辺のところはカカシはよく解らない。
所詮、男の料理だからと理由をつけて考えないことにする。
そんなところはカカシとイルカはよく似ているかもしれない。
鍋が沸き立つ間、コンロのゆらゆらと揺れる火を見つめて先程の続きを考える。
友達以上の恋人未満。
では恋人になれる日はいつ訪れるのだろうか。
───そういえばキスもまだだな。
そんなことに唐突に気がつく。
キスをしなければ恋人じゃない、なんてことはないけれど出来ればしてみたい。
カカシも男なので、それなりの欲求や欲望を持っていた。
しかし、それ以上に恋人という存在が大事だから。
詰まるところイルカが大事すぎて手が出せない。
好き過ぎるのも如何なものか。
先に好きになったのはカカシで告白したのもカカシで付き合いたいと言ったのもカカシだ。
イルカの家に行ってみたいと言ったのもカカシで一緒にご飯を食べたいと言ったのもカカシだ。
ふと気がついた。
イルカ先生は俺の家に来たいと言ったことがないな・・・。
自分のことを話さない代わりにカカシのことも詮索したりしない。



鍋から湯が沸騰する音が聞こえてきた。
蓋を開けると煮立っている。
そこへ、これまた適当に野菜や肉を入れていく。
入れて、また蓋をする。
いい匂いが漂ってきた。
この分だともうすぐ食べられる。
それまでイルカが風呂から上がってくるといいけれどと視線が風呂場の方へと向いてしまう。
風呂場から音がしてイルカが上がったのが分かった。
程なくして体から湯気を立たせたイルカがカカシの元へと来た。
「もう出来ます?」
「もう出来ます」
「なら」とタオルで髪を拭く。
「ちょうど良かった」
冷蔵庫からビールを二本取り出してきた。
「飲みますよね」とカカシに一本渡す。
素直に受け取った。
缶を開けてビールに口を付けると苦さが口の中に広がる。
苦さが喉を通り抜けると、もう一口欲しくなった。
イルカは風呂上りで熱いのか、ごくごくと飲んでいる。
「はあ」
満足そうに息を吐き笑ったイルカが眩しい。
「あ、鍋も食べれますよ」
カカシの適当鍋が出来上がったようだ。
一口食べてイルカが「美味しいですね」とやっぱり笑ってカカシを見る。
なんだか幸せな気分だった。





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