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LastFlower



カカシと付き合って二回目の誕生日が、もうすぐ来る。
イルカの誕生日は五月だ。
一回目の誕生日にカカシはイルカに花束を贈ってくれた。
清楚で純白の薔薇。
白い薔薇の花束をくれた。
「イルカ先生に、とても似合いますよ」と言って。
それはカカシが吟味に吟味を重ねて選んでくれたもので。
まさか、花束を貰うなんて思ってもみなかったが嬉しかった。
花束もカカシの気持ちも。
恋人から花束を貰うというのは密かなイルカの夢でもあった。
ロマンチストだと言われそうであったが。
「イルカ先生、誕生日おめでとう」
そう言って、カカシはイルカにキスをくれた。
そんなことをされて、もちろん、イルカはとても照れた。
照れながらカカシに礼を言う。
「ありがとうございます、嬉しいです」
贈られた花束に照れた顔を見られぬように埋めると耳元でカカシの声がした。
甘く聞こえる声。
「よかった、喜んでもらえて」
ふふ、と笑う。
「イルカ先生はロマンチストそうなので」
見事に見破られていた。



それから一年。
カカシとイルカは仲睦まじく、関係は続いていた。
カカシはイルカのことを大事にしてくれ、イルカもまたカカシのことを大事に思っていた。
「もうすぐ、イルカ先生の誕生日ですね」
五月に入って、うきうきとカカシはカレンダーを見ることが増えた。
「楽しみですねえ」
本人のイルカよりも楽しみにしていた。
「誕生日は盛大にお祝いしますから」
きっとびっくりしますよ、と茶目っ気を見せていた。
しかし、次の日、カカシは肩を落として帰ってきた。
「明日から任務です、何日か里外に出なければなりません」
心底、残念そうにしていた。
「あーあ、イルカ先生の誕生日なのに」
「誕生日たって、まだ先ですよ」
そう、まだ五月に入ったばかりだ。
「でもねえ」
カカシは不満そうだった。
「任務なんてなあ」
「まあまあ、そう言わずに。俺の誕生日なんかより、任務のこと優先してください」
自分の誕生日の所為でカカシが任務で怪我なんてしたら、とんでもない。
「もう、イルカ先生は〜」
ぎゅうっとカカシはイルカを抱きしめて、頬を摺り寄せる。
「なんか、じゃないでしょ。俺の大事な人の誕生日なんですよ」
俺にとって大事な日。
「すぐに帰ってきますから。イルカ先生の誕生日の前には必ず帰ってきますから」
カカシは約束してくれた。
「帰ってきて、イルカ先生に言うんです。『誕生日おめでとう』って」
俺が一番最初に。
「待っててね」とカカシが言うからイルカは頷いた。
「待ってますから、必ず帰ってきてくださいね」
そしてカカシは帰ってきた。
任務に出て、間もなくしてから。
約束したイルカの誕生日前に。
記憶を失って。



任務に出たカカシは敵の術者に命は助かったものの、意識不明で複雑な術を受けて帰ってきた。
記憶を混乱、喪失させる術だ。
医療の権威、木の葉の里の最高峰である五代目火影の綱手が直々にカカシを診察及び検査した。
何日間か掛けて、丁寧にカカシを見た綱手は難しい顔をしていた。
非常に顔が強張っていたのを覚えている。
カカシとイルカの関係は公にはしていないものの、一部の人間には知られていた。
カカシが、それとなく周囲にイルカとの関係とアピールしていたのは後になって知った事実だ。
「イルカ」
綱手は、いつになく真面目た顔をしていた。
「落ち着いて聞いてほしい」
カカシが帰ってきてから付きっ切りでカカシの看病をしていたイルカに綱手は言った。
残酷なことを。
「カカシの記憶は、もう戻らない」
総てではない、所々、疎らには残っている。
だがしかし、近年の記憶は消去されている可能性が高い。
近年、ここ二、三年の。
カカシとイルカは付き合って一年ほどだ。
カカシがイルカとの特別な関係を覚えている可能性はゼロに等しい。
綱手は、そう言いたいのだ
「そうですか」
言葉少なにイルカは答えて、カカシの顔を見る。
意識を失ってから、まだ起きていない。
イルカとの関係を知らせるのはカカシを混乱させるだけだ、きっと。
大切な記憶を失ったカカシの傍にイルカがいる必要性はあるのか・・・。
居ない方がいいのではないのか。
考えた末にイルカは綱手に申し出た。
カカシには自分のことは伏せてほしいと。
何も話さなくてよいと。
ただ・・・、ただカカシの快復だけを願った。
「そうか」
辛そうな声を出した綱手は辛そうな顔をしていた。
「すまないな」
それだけ言った。
そうしてカカシとイルカの関係は消滅してしまった。



それから人伝手でカカシが目覚めたという噂を聞いた。
やはり、記憶は曖昧で失っている部分も多数あるらしいと。
意識が戻ったと聞いて、イルカは心底、安堵した。
よかった、本当によかった。
会いに言うことは叶わないがカカシが元気出れば、それでいい。
体が元通りになれば、いずれ任務を受けるだろうし、そのときに受付所で姿を見ることもできるだろう。
自分に出来るのはカカシの邪魔をしないことだけだ。
心と体の回復の邪魔を。
頭では理解しているが、カカシに会いたくて堪らない。
今、どこで何をしているのだろう。
イルカの家のカレンダーの花丸印。
イルカの誕生日にカカシが書いたものだ。
それを見ると悲しくて切なくて、苦しくなる。
胸が押しつぶされそうなくらいに。
カカシが、もうイルカの誕生日を祝ってくれることはないのだ、永遠に。
唇を噛む。
じっと耐えた。
独りで。



何日かして、カカシが受付所に姿を現した。
以前と変わりないカカシの姿。
変わっているのは記憶だけ。
受付の係りをしているイルカのところへ依頼書を取りにきても、通り一遍のやり取りをするだけ。
特に交わす言葉もなかった。
それでも良かった、だってカカシの元気な姿を見られたから。
ほっとして安心して、同時に辛くなったけれども。
このカカシとの新しい関係にも、いつかは慣れる。
慣れたら辛くなくなるはずだ。
ただの知り合いという関係にも。
イルカの知っているカカシは、もういなくなってしまったから。



記憶のないカカシと何回か、言葉を交わすことが出来た。
書類の山を抱えたイルカが廊下を歩いていると偶然にもカカシと出くわし、落とした書類を拾ってくれたり。
指先を紙で切り絆創膏を貰いに医務室に行くとカカシがいて、辞退したのにも関わらず絆創膏を貼ってくれたり。
顔色が悪いと体調を気遣ってくれたり。
カカシとイルカの関係はなくなってしまったのに、優しくしてくれる。
カカシは相も変わらず優しい。
もともと、優しい人だった。
でも・・・。
優しくされると辛いなあ。
「イルカ先生、大丈夫?」
記憶がないのにイルカのことを前と同じく『イルカ先生』と呼んでくれる。
それさえも辛かった。
いっそ、清々しく自分のことなんてキレイさっぱりと忘れて、構うことなんてないのに。
なのに、カカシは何くれとなくイルカに親切にしてくれる。
根底にあるものは、分け隔てない平等な優しさで特別な感情があるわけじゃないのに。
カカシと会うたびにイルカの胸は痛み、見えない傷は深くなっていった。



そんなとき、決定的なことが起きた。
起きたというよりもイルカが目撃したというのが正しい。
カカシが妙齢の女性と親しげに歩いているのを見てしまった。
ぐさ、とイルカの胸の奥深くに刃が刺さる。
その刃は刺さったまま、抜けなかった。
頭が真っ白になる。
現実を突きつけられて、悟った。
自分は、まだカカシとのことを心のどこかで諦めてはいなかったのだ。
だから、カカシが女性といるのを見てショックを受けている。
もう、カカシの記憶の中にはイルカのことなんて欠片も残ってないのに。
呆然としたまま歩いて、どうやって家に帰ったのも定かではない。
カレンダーを見るとカカシが付けた花丸の日が明日になっていた。
明日はイルカの誕生日だ。
だけども、もうどうでもよかった。
どうでもよくなって、ビリビリとカレンダーを引き裂いて、破り捨ててしまった。
涙は出てこなかった。



一晩、寝ても気持ちは沈んだままだったけれども、だいぶ落ち着いていた。
寝たけれど、疲れている。
起きたイルカは、ぐったりとしていた。
気力が湧かないけれど、仕事には行かなければならない。
幸いなことに今日の仕事は午前中の受付だけで、午後からは何も予定はない。
自分の気持ちに決着をつけよう。
何となくイルカは、そう思い、あることをしてみようと思った。
その日の朝。
受付所に現れたカカシはイルカのところへ、任務の依頼書を受け取りに来た。
「おはようございます」
にこやかな顔で依頼書をカカシに渡す。
いつもなら、記憶がなくなってからのカカシなら依頼書を受け取った終了だが、その日は違っていた。
イルカを前にして、そわそわと落ち着かない。
「イルカ先生・・・」
何かを言いたげにしていて、口を開いては閉じ、イルカの方へ手を伸ばしては引っ込める。
「どうかしましたか?」
尋ねてみるとカカシは「はあ、あのう」と口ごもってしまう。
とうとう、口を開いた。
「今日の夜は予定とかありませんか?なかったら、俺と・・・」
「予定はあります」
にこやかな顔のまま、イルカはきっぱりと断った。
「そうですか」
明らかにカカシは、がっかりしたようだった。
「じゃあ、明日は?」
「明日もです」
「明後日はどうです?」
「明後日も予定はあります」
「その次は・・・」
「その次もです」
そこで、ようやくカカシはイルカの拒否されているということに気がついた。
気がついて、すっと顔色を変える。
「分かりました」
踵を返して受付所を出て行った。



午前だけの仕事であったが引継ぎやら雑務やら残った仕事や急ぎの書類を片付けていたら、すっかり夕方になってしまっていた。
今日のイルカの帰り道は少し違っていた。
いつもの道ではなく、ある店へと寄り道していた。
「こんにちは」
店に入ると色とりどりの花に、芳しい濃厚な香り。
「あ、いらっしゃい!イルカ先生!」
迎えてくれたのは、かつてのアカデミーの元教え子で現在は下忍として修行中の身のくの一の女の子だ。
長い髪を、はためかしてイルカに近寄ってきた。
「お花、買いに来たの?」
無邪気に訊いてくる。
「うん、そうなんだ」
男が花なんて、と頭の片隅で思いながらもイルカは花を求めた。
欲しい花は決まっている。
元教え子はイルカの所望した花を華やかに包んでくれた。
「誰かに贈り物?」
好奇心で目を輝かせている。
「まあなあ」
苦笑しながらイルカは答えた。
贈り物っていうのかな、この場合・・・。
「はい、できた」
可憐な花束がイルカに渡された。
「ああ、そうそう」
何かを思い出したのか、元教え子は言う。
「去年の今頃かしら?カカシ先生も同じ花を買って行ったわ」
白い薔薇を。
「お店に何回も来て、何時間も花を見て選らんでいたの」
好きな人に贈るんだって言っていたわ。
「クールなカカシ先生が珍しく笑っていたの、嬉しそうに」と。



慰霊碑の前にいた。
イルカの持っていた花束も慰霊碑に供えられている。
綺麗な白い薔薇の花束が。
カカシに初めて貰った誕生日にのプレゼントだった。
とても嬉しかった。
今日はイルカの誕生日だったけれど、祝ってくれる人はいなくなってしまった。
『誕生日、おめでとう』と言ってくれる人はいない。
イルカのことを好きでいてくれたカカシはいない。
寂しいけれど、しょうがない。
最後に一度でいいから、カカシにお祝いの言葉を言ってほしかった。
カカシのことは今でも好きで未練はあるけれど・・・。
世の中には、どうしようもないこともあるのだ。
どうにもできないことが。
それがカカシとイルカの関係の修復、元には戻らない関係。
「カカシさん・・・」
慰霊碑に向かってイルカは呟いた。
俺の好きだったカカシさん。
俺を好きになってくれたカカシさん。
いなくなってしまったから、慰霊碑にお別れに来た。
死んでしまったわけじゃないけれど、それに等しい。
記憶は死んでしまった。
「今までありがとう・・・」
目頭が熱くなってくる。
カカシとの思い出を回想するのは時期尚早なのだろう。
もっと時間が経てば・・・。
「さよなら、カカシさん」
一緒にいたときは幸せでした、これからは別の人と幸せに。
幸せになってほしい。
遠くから、それだけを願っています。
慰霊碑に参ることでイルカは自分の、カカシへの気持ちに区切りをつけようと思ったのだ。
好きだったカカシに別れを告げようと思ったのだ、密かに。
供えた花束が白い薔薇だったのは、単に自分が隠れロマンチストだったからだ。



どのくらい、立ち尽くしていただろう。
気がつくと辺りは暗くなっていた。
夜が近づいてきていた。
「さてと」
イルカは無理やりに口角を上げる。
「明日から頑張るぞ、と」
気持ちを新たに決意する。
「一人でも頑張るぞ、と」
「一人で何を頑張るんですか?」
心臓が口から飛び出そうなほど驚いた、その声に。
その声の持ち主は一人しかいない。
胸を押さえながら振り向くと、そこにいたのはカカシであった。
なんで、ここに?
「あ、あの・・・」
「何を頑張るんですか?」
冷静な表情のカカシが淡々とイルカに質問してくる。
「それに、何でこんなところにいるんですか?」
慰霊碑に供えられた花束に視線を向ける。
「その花束は・・・」
「こ、これは」
何と言えばいいのだろう、こんな場面でカカシと会うなんて想定していなかった。
不思議なそうに花束を見たカカシが口を開こうとしたのだが、それより早くイルカが口を開いた。
「カカシさん!あ・・・、じゃなくて、えっと」
「カカシさんでいいですよ」
「あ、はい」
カカシに見つめられて居心地が悪い。
悪いが、ここで頑張らないとダメだ。
最期にカカシにお願いしたいことがあったから。
「あの、お願いがあるんですけど」
なに?とカカシが首を傾げる。
「こんなこと言うと変なやつだと思われると思いますが」
勇気を出した。
「一回でいいので言ってほしいんです」
『誕生日、おめでとう』って。
目を瞬かせたカカシは気軽に言った。
「なんだ、そんなこと。そんなことなら、いくらでも言いますよ」
「・・・え?」
顔を上げると自分を見ているカカシがいた。



その目が優しくイルカを見つめて、弧を描く。
「イルカ先生、誕生日、おめでとう!」
どこから取り出したのか、イルカの目の前にはピンク色の薔薇の花束があった。
「はい、これ」
薔薇の花束を渡される。
鮮やかなピンク色の薔薇はイルカに、よく似合った。
「白い薔薇も似合いますが、ピンク色の薔薇も可愛くてイルカ先生にぴったりですね!」
その言葉にイルカは大きく目を見開いた。
「今年は、これを贈ろうって決めていたんです」
イルカは目を、パチパチさせた。
「さあ、家に帰りましょう。誕生日のお祝いをしないと」
イルカの手を引いた。
「イルカ先生、家にいなくて探しましたよ。朝は怒っているみたいだったし、まあ、怒りますよね、記憶喪失が誤診だったなんて」
「え、誤診て・・・」
初耳だ。
「綱手さまも極々、偶に、万に一つ、いや億に一つくらいは間違いがあるのは解りますが」
人間だから、とカカシは話す。
「でも、タイミングが悪すぎましたよね。大事なイルカ先生の誕生日があるのに誤診なんて」
説明されて謝られたけど、あったまにきたから思わず、火影さまの部屋で雷切しちゃって部屋が半壊しちゃいました、なんてカカシは言うが。
部屋が半壊って・・・とイルカは絶句する。
「まあ、全壊しないだけよかったというべきか」
カカシの話を聞いているうちに家に着いた、イルカの家だ。
勝手知ったる我が家といった感じでカカシは渡してある合鍵で玄関を開けてイルカを中に、いざなった。



部屋の中に入って二人きりになり花束を置くなり、イルカを抱きしめる。
「イルカ先生、ごめんなさい」
強く強く抱きしめられた。
「寂しい思いさせてごめんなさい。辛い思いさせてごめんなさい。悲しくさせてごめんなさい」
「カカシさん・・・」
カカシの記憶は完璧に戻っていた。
「数日間だけ記憶が戻らない術だったんです、なのに永遠に戻らないみたいなことを言うなんて」
抱きしめられた腕の中で、それらことを聞きながらイルカは頭の中を整理していた。
カカシさんが掛けられた術は短期間だけ記憶が戻らない術で。
その術が解けて、今のカカシさんは・・・。
前のカカシさんと同じ人なんだ。
「それも術が解けたのが今朝で、イルカ先生が怒っているだろうなあと戦々恐々で」
誕生日を忘れられたら怒りますよね、約束したいたのに。
「記憶がない間もイルカ先生の映像が頭の中を、ちらついて。色々な人にイルカ先生のことを聞きまくっていたんです」
多分、カカシが一緒にいた女性も、その聞きまくった中の一人なのだろう。
「そして、答えに辿りついた」
カカシがイルカの顔を両手で挟んだ。
大切に、愛しそうに。
「ごめんね」
唇にキスを落とされる。
「帰ってくるのが遅くなって」
また、キスされた。
「さっきの慰霊碑の花束は別れの花束?」
図星だったけれど答える前に唇を塞がれた。
「イルカ先生と別れるなんて絶対にしませんからね、俺は」
あり得ませんから、とキスされて抱き込まれる。
「ずっと、これからも俺はイルカ先生の誕生日を祝い続けるんですから」
そして再び、言われた。
「誕生日おめでとう、愛してるイルカ先生」
愛している、大事な人。
大好き、愛しい人。
それはイルカ先生だけ。
「カカシさん、ありがとう。お帰りなさい」
カカシを抱き返すイルカの顔は満ち足りていて。
最高に幸せそうであった。





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