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頑張れば、きっと幸せになれる!



それからというもの。
俺はカカシさんのお誘いを、ひたすら断り続けた。
仕事を理由にするとカカシさんは残念そうな顔はするものの、無理強いはして来ない。
それにだ。
桃色の髪の女性と話す機会が一回だけあった。
印象は・・・。
爽やかで、あっさりした性格で女性だけど実に男らしかった。
ついでに男性の目線の感想を述べると胸はなかった。
言ったら怒られるかもしれないが、ぺったんこだったのだ。
・・・それは俺が、どうこう言うもんじゃないんだけど。
男性の哀しき習性で胸を見てしまった。
反省。



カカシさんは相も変わらず、その桃色の髪の女性と仲良さそうで。
まるで男性同士の悪友みたいな雰囲気で仲が良い。
それを目撃すると、ついつい溜め息が漏れてしまう。
「・・・・・・はあ〜。」
もう仄かな恋心は粉々に砕け散ってなくなってしまったはずなのに。
アカデミーの校舎の廊下で、再び溜め息が出た。
「はあ〜あ・・・。」
「どうしたんですか、溜め息なんてついて。悩みごと?」
「ええ、まあ。ちょっと、お医者さんでも草津の湯でも治りそうにないっていうか・・・。」
つい、答えてしまったけれど。
ぎょっとして俺は声を掛けてきた相手を見た。



「カカカカカカ、シさん!」
「イルカ先生、カが多すぎ。」
そこにいたのはカカシさんだった。
苦笑しながら立っている。
俺が溜め息をついていたのを見られていたらしい。
「イルカ先生、悩みごとがあるんですか?」
「えっ。」
「俺でよかったら相談に乗りますよ。もしくは聞くだけでもしますから。」
誰かに話すと楽になれますよ、なんてカカシさんは言う。
「もちろん、秘密は厳守します。誰にも言いませんから。」
落ち着いた穏やかな口調は全てを包み込んでしまいそうで、あったかい。
しかし。



「いえ、いいんです。」
俺は思い切り辞退した。
「悩みっていうほど、たいそうなものじゃなくて。ちょっとした失恋みたいな感じのような・・・。」
あ、バカ!
俺は心の中で自分に突っ込んだ。
要らんこと言うな!、と。
「失恋?」
カカシさんの眉が寄り眉間に深く皺が出来る。
「イルカ先生を振る人なんているの?」
「え、いや。俺が一方的に想って勝手に玉砕したんです。か、片思いみたいなもので。」
・・・ああ、言えばいうほどボロが出る〜。
俺って恋愛ごとに関する駆け引きって向いていないんだな〜。



「イルカ先生、好きな人がいるんですか。」
カカシさんから穏やかな空気が消えて、ぴりっとした殺気めいたようなものが出始めた。
なんで?
「イルカ先生の好きな人って誰ですか。」
一歩、カカシさんが前に進み出て俺に近寄る。
俺は一歩、後退した。
「誰なんですか。」
カカシさんの口から低く重い声が出る。
誰なんですかって言われても・・・。
まさか今、俺の目の前にいるあなたです、とは流石に言う勇気はない。
っていうか、普通は言えないよ。



「誰なんですか。」
もう一度、尋ねられたけど、こればっかりは答える訳にはいかない。
「言えませんっ!」
きっぱりと拒否した。
その瞬間、カカシさんの眉が、きりきりと釣り上がった。
もしかして怒っているのか。
怒っている理由は不明だが、いずれにしても機嫌を損ねてしまったのには間違いない。
・・・嫌われた。
カカシさんに嫌われてしまった。
俺の胸に、どうっと何かが雪崩込んで来た。
苦しくて辛くて悲しいものが。
それ以上、カカシさんの顔が見ていられなくて俺は逃げ出した。
「失礼します。」
一目散に走って逃げたのであった。






カカシさんに会いたくない。
会いたいけれど会いたくない。
逃げるように立ち去ってしまった俺をカカシさんは追いかけては来なかった。
けれども。
でも、あんな風に別れた後では会うのが気まずい。
ものすごく気まずい。
なので、俺はアカデミーと受付が手隙なのをいいことに任務を受けて、一人で里外に出ていた。
里の外ではカカシさんに会うことはないだろうと思って。
少し里から離れれば気分転換にもなって、気持ちが切り替わるんじゃないかなあと思って。
落ち込んだ気持ちも浮上するんじゃないかと希望的観測を見出したのだ。



もしかして、そこに隙があったのかもしれない。
任務の帰り道、俺はどっかの里のどっかの忍に襲われていた。
多勢に無勢、敵はたくさんで俺は一人。
里からは遠く、太刀打ちできる人数ではなかった。
既に腹を切られて血が出ていた。
こんなところで死ぬのかな、俺。
最後まで諦めるつもりはないが、如何せん、世の中、どうにもできないこともある。
・・・・・・好きとか嫌いとか。
不意にカカシさんの顔が目に浮かんだ。
頭の中はカカシさんとのことが明確に思い浮ぶ。
これが世に言う走馬灯ってやつか、死ぬ間際に見るらしいという。


最後に見たカカシさんは怒っていたけど。
今、思い出されるのは優しく笑っているカカシさんだけだ。
俺が死んでも、きっとカカシさんは幸せになる。
そう思うと気持ちが楽になるから不思議だ。
切られた腹を押さえながら俺は思った。
カカシさんのこと、やっぱり好きだなあ。
好きな人が幸せだったら・・・。
それで俺も幸せなんだな。
ふっと気が抜けて倒れてしまった。
敵は、まだいるというのに。
瞼が、どんどんと落ちてくる。
ああ、これで終わりだと思った、その時。



敵の気配が消滅した。
というか霧散した。
「イルカ先生!」
倒れていた体を抱き起こされる。
「しっかりしてください!」
落ちそうになっていた瞼を開けると、目の前には銀色の髪の覆面忍者がいた。
「・・・カ、シさん。」
「カが一つ足りません。」
泣きそうになりながらナイスな突っ込みをするのはカカシさんだった。
俺を助けてくれたのはカカシさんだったのだ。



「大丈夫ですか、すぐに里に連れて帰りますから。」
カカシさんは俺に応急措置を素早く施していく。
「絶対に助けますからね。」
力強く、勇気づけてくれる。
でもなあ。
俺は息が続かなかったので途切れ途切れに言った。
「いい、んです、もう。」
「何言って・・・。」
「カカシさん、なんて・・・。」
苦しくて、はあはあと息継ぎをする。
「カカシさんなんて、美人で可愛くて優しくて気配りが出来て料理上手そうな、あの人と結婚して・・・。」
あの人とは桃色の髪の女性だ。
「子宝に恵まれて、孫曾孫玄孫にも恵まれて、百歳超えるまで長生きして・・・。」
そして。
「家族に見守られながら、畳の上で老衰で、安らかに死ねばいいんです・・・。」
大往生すればいい。
「そうして魂は天国にいけば・・・。」
「何言っているんですか、こんなときに。」



カカシさんが困惑したような声を出した。
「俺が誰と結婚するって言うんです?」
「誰って、あの女性と・・・。」
「女性って、女?」
さっぱり解らないという風にカカシさんは首を傾げる。
「誰のこと?」
「誰って・・・。カカシさんの傍に、いつもいる背の高い綺麗な女の人、です。」
「そんな人、いたっけ?」
この後に及んで、まだ見当がつかないらしい。
俺は、はっきりと言った。
「いるじゃないですか、桃色の髪の女の人が。」
「ああ!あいつか〜。」
カカシさんは、やっと解ったようだった。



「イルカ先生が女性とか女とか言うから解りませんでしたよ。」
よっこらしょとカカシさんは俺を背に追う。
止血は的確にされていた。
力の出ない俺は、されるがままだ。
でも、次の瞬間、腹の傷も忘れてしまうほど飛び上がりそうになってしまった。
それはカカシさんが言った言葉。
「だって、あいつ、男だから。」
「・・・・・・は?」
「あいつは男で、面白がって女装しているの。」
「・・・・・・え。」
「任務で女装したら癖になったとかで。」
俺を背負って軽々と走りながらカカシさんは説明してくれた。



「あいつ、昔から変わり者で変人だから奇妙奇天烈なこと、よくやるんですねえ。」
だから周りも慣れていて特に何も言わず、誰も何も思わなかったらしい。
ついでに、ある情報も教えてくれた。
「あんなやつでも来月、結婚するんだからいい加減、女装なんて止めればいいのにねえ。」
・・・・・・なんだ。
・・・なんだ、そういうことだったのか。
気力も体力も抜け落ちてしまった俺は遠慮なくカカシさんの背に、もたれ掛かった。
なんだ、そうだったのか。
男だったから、一人称は俺で声はハスキーで胸はなくて。
カカシさんも相手を丸っきり男だと思っていたから気安く飲みに行ったりしていたのか。
そうだったのか〜。
真相が解って気が抜けた俺は、そのままフェードアウトしてしまった。





その後。
俺の腹の傷は思ったより大したことなくて、すぐに治った。
それからカカシさんは桃色の髪の女性、もとい、男性を紹介してくれた。
「付き合いの長い、単なる知り合いです。」
「よろしく!」と陽気に笑って言った彼は男性の姿に戻っていた。
男性になると女性の面影は微塵もない。
本当の髪は茶色で桃色の髪のウィッグを被っていたらしい。
「来月、結婚なんだろ。もう、祝いで奢るのはないからな。」
カカシさんが渋い顔をしていた。
この前の奢る約束をしていたというのは、このことだったらしい。
「はいはいはーい。」
男性は適当に返事をする。
「お前なあ、もう少し、しっかりしないと・・・。」
珍しくカカシさんが説教モードだ。



「なーに、言ってるんだか。」
男性は豪快に、あっはっはっ、と笑うとカカシさんの背中を、ばんばんと叩いた。
「好きな人に告白もできないやつが何、言ってんだよー。」
「おま、ちょっ・・・。」
「好きだけど告白も出来ず、食事や酒に誘っても靡いてくれず、だったら押せばいいのにそれも出来ずに、いつも控えめで相手のことを考えすぎて。」
「黙れって!」
「好き過ぎて、どうしようもないんだろ。」
この人、案外、意地悪で。
でも、いい人かもしれない・・・。
男性は、ひひひ〜と笑った。
「綺麗で艶やかな黒髪の可愛い子ちゃんで、顔を横切る傷がキュートで、見ているだけで幸せだと言っていたけど。」
見ているだけでいいのかー、という男性に、とうとうカカシさんが切れた。
「お前、どっか行け!」
「オッケー!」
男性は降参という様に両手を上げる。
「好きなら同性だとか悩んでいたらダメだぜ!」
その言葉は誰に言ったのか・・・。
男性は俺にウインクすると行ってしまった。



「あの、イルカ先生。」
見ればカカシさんは真っ赤になっている。
「あのバカの言ったことは・・・。」
どうやらカカシさんは緊張しているらしい。
「ほ、本当ですから。」
緊張している所為か、声が小さい。
「俺、実は。」
はあ、と大きく深呼吸したカカシさんは俺に言った。
「イルカ先生が好きなんです!」
付き合ってください、と手を差し出してくる。
「イルカ先生が誰に失恋したかは知りませんが、その失恋相手より俺は!」
カカシさんの瞳は真剣だ。



「イルカ先生のことが好きです、誰よりも!大切に大切にしますから!」
その言葉に、ぽっと胸に火が灯った。
恋の炎だ。
砕け散った仄かな恋心が戻ってきたのだ、俺の心に。
もう仄かな恋心ではなく。
大きく温かいものなって戻ってきた。
俺は差し出されたカカシさんの手を握りながら思った。



ああ、この人が好きだ。
この人と。
頑張って、きっと幸せになろう。



「カカシさん。」
俺は満たされた想いで幸せだった。
「俺の失恋した相手はですね。」
本当のことを言う。
それから。
好きな人が誰なのかを、きちんと伝えた。
聞いていたカカシさんの目が丸くなり、細くなり、優しくなり。
俺を見つめて、愛しそうに微笑んだのだった。





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