頑張れば、きっと!
カカシさんが最近、ある女性と一緒にいるのをよく見かける。
清楚な人で、髪は長くて桃の色。
教え子のサクラと同じ髪の色だ。
サクラが成長して大人になったら、あんな感じになるのだろうか。
綺麗で可愛いくて優し気で気遣いできて料理の上手そうな・・・。
背が高く声は低くてハスキーだったが、そこがまた魅力的なのかもしれない。
言葉遣いも女性にしては、多少、乱暴で一人称が俺だったけれど。
それを補うだけ、十分に美しい人だった。
「イルカ先生。」
隣で歩くカカシさんが話しかけてきた。
俺は受付所からアカデミーへ戻るのだが、書類やらファイルやらの荷物がたくさんで運ぶのをカカシさんが手伝ってくれているのだ。
「よかったら、今夜。」
カカシさんが柔らかく微笑む。
「食事がてら飲みにでも行きませんか?」
控えめなお誘いだった。
いつもカカシさんは無理矢理に誘ってくることはない。
俺に断る余地を十分に作ってから誘ってくる。
「そうですね。」
俺は微笑み返して、いいですよ、と言おうしたのだが。
廊下の向こうから声がした。
「カカシー!」
例の桃色の髪の女性であった。
「今日、飲みに行くぞー!この前、奢ってくれるって言ってただろう。」
意気揚々と歩いてくる。
「あー・・・。そういえば。」
カカシさんが、あちゃーという顔をした。
忘れていたというような。
「あの、イルカ先生。」
気まずそうに俺を見る。
俺は先に言葉を発した。
「この辺で結構です。」
運んでもらっていた荷物をカカシさんの腕から奪い取る。
「どうもありがとうございました。」
「イルカ先生・・・。」
強気に、にこっと笑ってみせた。
「先ほどのお誘いはなかったことに。」
そう言って颯爽とカカシさんの前から立ち去った。
すたすたと歩いて行くと後ろから声がした。
「イルカ先生〜。」という悲しそうなカカシさんの声。
そして。
「どうしたんだ?」と桃色の髪の女性の声。
「お前が変なところで声を掛けてくるからだろ。」
桃色の髪の女性を、お前、呼ばわりするカカシさん。
「何か邪魔したか?」
「もういい!」
「じゃ、飲みに行こうぜ。」
すごく親し気に聞こえた。
俺は、なんていうか・・・。
二人の関係が、とても羨ましく思えたのだった。
認めよう・・・。
そして楽になろう・・・。
そう、俺はカカシさんのことが好きなのだ、多分。
優しい人柄に好意は持っていたけれど、それが仄かな恋愛感情なのではないかと近頃、思うようになっていた。
だってカカシさんの傍は居心地がいいから。
居心地が良すぎて動きたくなくなる。
ずっと声を聞いていたいし、姿を見ていたい。
ああ、これが恋ではなくて何なのだろう!
・・・ちょっと芝居がかってしまったが俺の心内は、だいたいこんな感じだ。
誰にも明かしたことはないが。
よこっらしょ、と俺は荷物を抱え直した。
仄かな恋心は大きく育つ前に粉々に砕け散ってしまった。
これで良かったのかもなあ。
俺は前向きに考えた。
前向きなのは俺の良いところでもある。
所詮、カカシさんとは男同士。
結ばれることはない。
カカシさんだって女性の方がいいに決まっている。
上忍と中忍の壁も厚いし、な・・・。
それに、と俺は桃色の髪の女性と思い浮かべる。
あんな綺麗な人が常日頃、カカシさんの隣にいたんじゃ俺なんてアウトオブ眼中ってとこだろう。
だって、あの二人は、とってもお似合い。
仲も良さ気だし、いずれは、きっと・・・。
結婚・・・・・・。
そこまで考えて俺は。
自分の考えたことに滅茶苦茶に落ち込んだのだった。
次の日、会うとカカシ先生は言ってきた。
「昨日はごめんね、イルカ先生。」
「お気になさないでください。」
俺は努めて明るい笑顔で答えた。
そう、カカシさんのことは吹っ切れた。
・・・・・・はず。
カカシさんへの仄かな恋心を粉砕してしまったので、今日からは新しい俺として新たな人生を歩める!
・・・・・・はず。
なのにカカシさんは甘い言葉を投げかけてきた。
「今晩はどうですか?イルカ先生の予定がなければ。」と誘ってくる。
カカシさんの優しさが胸に痛い・・・。
きりきりする胸を押さえているとカカシさんが不安そうに俺を見てくる。
「イルカ先生、どうしたの?」
そんな優しい目で見つめれると、ドキドキしてしまうじゃないか!
せっかく仄かな恋心を粉砕したのに、また芽生えてしまう!
それは駄目だ。
俺は意に反して首を振った。
「すみません、今日は都合が悪くて・・・。」
「そうなんですか。」
思い切りカカシさんが残念そうな顔をしているのは気の所為だろうか。
俺の良心が、ちくちくと痛む。
ほんとは予定なんてないし。
「ごめんなさい。」
良心の呵責に耐えかねて俯くとカカシさんが、気にしないで、というように俺の肩を軽く叩いてきた。
「いいんですよ。また今度、付き合ってくださいね。楽しみにしていますから。」
気遣いを見せてくれる。
やっぱり優しい人だなあ。
カカシさんの人柄に、じーんと感動しているとカカシさんは俺に向かって微笑んだ。
微笑んだ顔は、とても綺麗でカッコよくて、きらきらと輝いて見える。
「仕事、無理しないでくださいね。」
俺が都合が悪い、と言ったのを仕事が忙しいと解釈してくれた。
最後まで気遣いと気配りを忘れないカカシさんだ。
そう言ってからカカシさんは紳士的に俺の前から去って行った。
その晩。
カカシさんが仕事が忙しいのだと思ってくれた手前、俺は残業をして帰ることにした。
残業を終えて帰る家までの道。
一人きりで夜道を歩いて行く。
繁華街の近くを通りかかると、がやがやと大勢の人の声が聞こえた。
声のする方を見ると知っている人が何人かいる。
上忍の人たちだった。
連れ立って飯でも食べに来ているのかもしれない。
ぼんやり、その一団を見ていると、よく知っている人が目に入った。
カカシさんだ。
楽しそうに皆と話している。
そんなカカシさんを見て俺の心は和む。
カカシさん、楽しそう。
良かった、と。
そしてカカシさんの横には指定席とばかりに背の高い桃色の髪の女性の姿も見えたのだった。
夜道を全速力の早足で俺は歩いていた。
先ほど目にした光景が目に焼きついて離れない。
カカシさんと桃色の髪の女性だ。
仄かな恋心は跡形もなく砕け散ったはずなのに。
どうして、こんなに動揺しているのだろう。
夜空を見上げると、たくさんの星が輝いている。
宇宙は広い・・・。
俺の胸の痛みなんて宇宙の塵みたいに小さなものだ。
小さな胸の痛みなんて吹っ飛ばしてしまえ!
カカシさんだって楽しそうだったじゃないか!
・・・カカシさんは幸せに違いない。
カカシさんが幸せなら本望だ。
俺だって!
俺は夜空の輝く星に誓った。
俺だって、きっと!
「頑張って幸せになってやる!」
空元気だったけど。
ほんの少しだけ、本当の元気が出た俺だった。
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