いつも一緒
イルカ先生との帰り道。
もう夕方だ。
その日は昨日まで降り積もった雪が残って、その上を吹いてくる風が体に当たると、とても冷たかった。
特に顔に当たると。
隣でイルカ先生が「寒い!」と肩を竦めている。
俺は覆面しているから風が直接、顔に当たることはないから、いいけど、イルカ先生が寒がっているのは嫌だなあ。
少しでもあったかくならないかな。
そう思ってイルカ先生に引っ付いた。
引っ付いたと言っても肩に手を回した、もしくは肩を組んだって感じだなんだけど。
でも、それだけでもお互いの体温で結構あったかくなる。
「ちょっと、カカシさん。」
イルカ先生が離れようとしたけど俺は離さない。
まあ、道端でこんなことしていたら誰かに見られちゃうかなーと思ったけど、冬の夕方なんて寒くて、みんな外に出てないよ、早々家に帰って炬燵にでも潜っているよと俺が言うとイルカ先生が「それもそうですね。」なんて返してきた。
珍しいな〜。
でも嬉しい。
イルカ先生も俺に、ぴたっと体を寄せてきた。
すっごく嬉しい。
ふふふ、と声を出さずに笑う。
「あ、カカシさん笑ってる。」
覆面越しで俺の顔は見えないはずなのにイルカ先生が言ってきた。
「なんで分かるの?」
不思議に思って聞くとイルカ先生が微笑んだ。
「そりゃあ、雰囲気で分かりますよ。」
だって、と肩を竦める。
「だって何年一緒にいると思っているんです。」
「うん、そうだね。」
俺とイルカ先生は付き合い始めて、何年かになる。
楽しくて幸せな時間ばっかりだった。
これからも、そうなる予定だ。
「カカシさんのことが好きだから分かりますって。」
イルカ先生は、そう言ってから、ふいと俺から顔を逸らして横を向いてしまった。
僅かに見える肩頬が赤くなっている。
普段、言わないようなことを言ってしまったから照れているんだなあ。
俺は益々、嬉しくなり、顔が緩む。
顔が緩んでしまって直らない。
「あー、まだ笑っている。」
やっと、こっちを向いたイルカ先生が拗ねたような声を上げた。
「そんなに笑わなくたっていいでしょう。」
「違うの違うの。」
俺はイルカ先生の顔に自分の顔を近づける。
「あんまりイルカ先生が嬉しいこと言ってくれるから、すっごく幸せな気持ちになっちゃって、それが顔に出ているんですよ〜。」
そう言うと納得してくれたのか拗ねたような顔と表情は引っ込んでしまった。
いいんだけど拗ねたイルカ先生も可愛くて、永遠に構ってしまいたくなる。
なかなか、拗ねたところなんてお目に掛かれないしね。
できれば、写真に撮っておきたかった。
なんて俺が不届きなことを思っているとイルカ先生が尋ねてきた。
「今日の夕飯、どうします?」
「あー、そうだねえ。」
「寒いから鍋にでもしましょうか。」
家にある材料を適当に入れて、と提案してきた。
「あ、いいですねえ。」
寒い日の鍋は体が温まって好きだ。
おまけにイルカ先生と一緒にご飯を食べているって、すごく実感するから、それも好き。
鍋の中身をお椀に装ってあげたり、イルカ先生のお椀に入っている具材を「いいなー、それ。食べたいなあ。」と言えば、あわよくば「あーん。」て口に入れてもらえるし。
俺が頭の中で妄想に膨らませているとイルカ先生が「じゃ、鍋に決まりですね。」と嬉しそうに言って俺を見詰めた。
「はい、もちろん。」
俺たちの家は、もうすぐで自然と早足になる。
北風が、ひゅーっと吹き抜けて行き、俺たちは同時に体を竦ませた。
「寒いですね。」
「本当に。」
この冬、何十回を繰り返された会話を、また繰り返し家への歩みを速める。
家が見えてきた。
もうちょっとであったかい家に着く。
その時、イルカ先生がぽつりと呟いたのが聞こえた。
「こういうのが普通の日常になったらいいのになあ。」
こういうの・・・。
多分、一緒に帰ったりご飯を食べたり、極々当たり前のことが普通になったらなあ、って意味だと思う。
その気持ちは俺も一緒だ。
どんな時間もイルカ先生と一緒に過ごせて、それが普通になったらいいね。
胸がいっぱいになってきて隣にいるイルカ先生が、突如とても愛しくなる。
いや、いつも愛しいけれど、今は尚更、愛しいというか気持ちが溢れ出てくるというか、そんな感じだ。
「イルカ先生、早く家に帰りましょう!」
俺はイルカ先生の手を引っ張った。
「え、なんで。」
慌てふためくイルカ先生に俺は言う。
「早く家に帰ってイルカ先生にキスしたいから!」
かーっとイルカ先生が見る間に赤くなった。
「な、何言ってんですか。」
「だって本当だもーん。」
本当は、この場でイルカ先生に、すぐさまキスしたかったけど止まらなくなる危険があるから家に早く帰りたかったのだ。
家に帰ってイルカ先生にキスをして、それで。
それで言いたい。
「好きだから、ずっと一緒にいましょうね。」
普通の日常を好きな人と、いつまでも。
いつまでも一緒だったら、とても幸せに違いない。
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