二人で一つ
カカシは任務から帰ってきて玄関のドアを開けようとして思わず、にんまりとしてしまった。
家の中に人の気配がある。
大好きな人の気配が自分の家からするのはいいものだ、とカカシは思う。
人見知りがちなイルカだったが最近はカカシの家へと、よく来てくれる。
最初は一緒に住む予定ではあったのだが、イルカは実家とは別に寮を借りていて、そこに住んでいた。
イルカの家へカカシが行くのは、しょっちゅうだったがイルカが自分から、しかも家主のいない家へ来るのは珍しい。
カカシがいないカカシの家でイルカは何をしているのだろう。
ちょっとだけ好奇心が出てきてしまったカカシは悪いと思いながらも、玄関のドアを静かに細く開けて隙間から部屋にいるイルカを覗いてみた。
ドアの隙間から見たイルカはベストを脱いで寛いだ格好している。
顔は、にこにことしていて機嫌は良さそうだ。
隙間から見えるカカシのベッドに腰を掛けて、何やら見詰めていた。
視線の先を追ってみる。
イルカは手に何かを持っていて、それを見て、にこにことしているようだった。
それは綺麗にラッピングされた小箱だった。
時期的に見ても、それは、きっとチョコに間違いない。
だって昨日はチョコを贈っていい日だったから。
イルカは誰かに貰ったチョコを見て、にこにことしているのだ。
なにかが、ぶちっと切れたカカシは、バーンと玄関のドアを開け放った。
「イルカ!」
靴を脱いで、ずかずかと近づくと腕を組み仁王立ちになってイルカを見下す。
「その手に持っているのはなんなの?」
突然のカカシの出現に目を丸くしていたイルカであったがカカシを見ると微笑んだ。
「お帰りなさい、カカシさん。」
「あ、ただいま。」
柔らかなイルカの雰囲気に流されてカカシは答えてしまう。
「早かったんですね、帰りは夜かと思っていました。」
「うん、夜になるかと思ったけどイルカに会いたくて早く帰ってきちゃった。」
「そうなんですか?嬉しいです。」
にっこりと笑うイルカは無邪気だ。
そんなイルカを見ていると怒っていたことを忘れてしまうカカシである。
「俺もカカシさんが帰ってきてくれて嬉しいです。」
手に持っていた小箱についてはイルカから説明してくれた。
「これ、カカシさんと半分こして食べようと思って持ってきたんです。」
「え、俺と!」
歓喜の声をカカシは上げる。
「ええ、チョコレートなんですけど。カカシさん、食べますか?」
「もちろん、食べますとも。」
小箱の中味はカカシの予想通りチョコで当たっていた。
どうやら、イルカが自分のために用意してくれたものらしい、とカカシは考えた。
イルカが嬉しそうにラッピングされた包装紙を丁寧に剥がして、小箱を開ける。
中は四つに仕切られていて、それぞれ、一粒ずつ、種類の違うチョコが合計四粒入っていた。
「美味しそうですね!」
「うん、そうだね。」
その中の一粒をイルカは指で挟む。
「カカシさん、半分こ、しましょう。」
小さな一粒をカカシに半分食べろということらしい。
イルカがチョコを食べさせてくれることにドキドキしながらカカシは小さなチョコを半分齧った。
苦味が口に広がる。
ビターな感じだ。
カカシが齧って残ったチョコをイルカは自分の口の中に入れた。
「ん、苦くて美味しい。」
満足そうに言う。
「はい、もう一つ、どうぞ。」
イルカは二粒目のチョコも同じようにカカシに食べされてくれた。
「これは少し甘いですね。」とか言っている。
「じゃあ、次。」
チョコを取ろうとしてイルカの手をカカシが止めた。
「俺が食べさせてあげるよ。」
イルカのしていることを自分もしたくなったのだ。
きっとイルカにチョコを食べさせても、ドキドキするに違いない。
「はい、どうぞ。」
口元にチョコを持っていくとイルカが、そっと齧りついた。
ぱきっとチョコが砕ける音がする。
「あ、これは中味がイチゴ味。」
なんてことを言って満足そうに笑う。
幸せそうに笑っているなあ、とカカシは思った。
よかったなあ、と。
ここまで来るのに、たくさん色んなことがあったけど。
イルカの家は閉じられた扉は、まだ開けられてないけれど。
まあ、それは、いつかすればいいことだから。
二人でいれば、それでいい。
あとは抱きしめて「大好き。」と言えれば、それでいい・・・。
いつもは、それで終わるカカシはだったが今日は、ちょっと欲張ってみようと、あることを思いついた。
「イルカ、少し目を閉じて。」
そう言われて素直に目を閉じるイルカ。
カカシの言葉に何の疑いも持っていない。
残ったチョコを口の中に入れたカカシは、そのままイルカの口づけた。
「なんってことすんですか!」
真っ赤になったイルカが口元を押させて抗議していたが、所詮、後の祭りだ。
作戦が見事に成功したとカカシは意気揚々としている。
「いいじゃないですか、恋人同士でしょ。」
「・・・それでも、こんなことしなくてもいいじゃないですか〜。」
イルカは一生懸命抗議するが、カカシから見れば可愛いだけだ。
「まあまあ、いいじゃない。いずれは、やろうと思っていたことの一つだしね。」
カカシの言葉にイルカの動きが止まった。
「他にも色々とやりたいことはあるけど、いっぺんにやったらイルカが驚くと思うしねえ。」
「やりたいことって・・・。」
今度は蒼ざめた顔になったイルカであったが、そんなイルカを抱きしめてカカシは安心するように囁いた。
ぽんぽんと軽く背中も叩いてやる。
「大丈夫、イルカが嫌がるようなことは絶対にしないから。」
「嫌がることって・・・。」
「まあ、それは追々ね。今はこっち。」
カカシは、もう一度イルカの唇に自身の唇を重ねる。
「大好きだよ、イルカ。すごく大好き。」
「・・・俺も好きです。」
ゆっくり口づけて好きな気持ちを確かめ合う。
だが、次のカカシの言葉でイルカは、はっと我に返ったようだった。
「イルカ・・・。チョコ、ありがとね。」
「ええ、チョコ・・・。あっ、チョコ!」
カカシを押しのけてチョコの入っていた小箱を見た。
「このチョコの詰め合わせ、サクラたちに貰ったんですよ。」
手作りだそうです、と嬉しそうにカカシに報告する。
「チョコを一粒ずつサクラ、いの、ヒナタ、テンテンが作ってくれて四粒詰め合わせしてくれたんです。」
「・・・へええ。」
カカシはイルカがチョコを用意したのではなく、イルカが貰ったチョコを食べたのかと思うと少し残念に思ったのだが、それも、まあいいかと思い直した。
一日後れだったけど、イルカとチョコを食べて幸せな気持ちを味わえたから。
欲張った分も貰ったことだし。
今は、これだけで充分だ。
大好きだと思い込めてカカシはイルカを、存分に抱きしめたのだった。
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