『同棲への道』
『同棲への道1』
紆余曲折の末、俺は誕生日に欲しいものを手に入れた。
欲しいものって言うと少々御幣があるな。
その所為で、ものすごく相手に遠回りさせてしまったみたいだし。
そこは反省。
とにかく今年の俺の誕生日はハッピーだった。
まさにハッピーバースデー!
だって誕生日に意中の人と念願、叶って恋人になれたんだから。
その人の名はうみのイルカ。
俺はイルカ先生って呼んでいる。
アカデミーの先生で担当したのがイルカ先生の教え子で、その教え子がイルカ先生って呼ぶから、それが自然に口から出るようになってしまった。
イルカ先生って、ほんとイルカ先生って感じなんだよなあ。
ぴったりな呼び名だ。
俺としては恋人になったのだから、そのうち、家では「イルカ」と呼んでみたい。
イルカ、なんていい名前だろう。
そして、どさくさに紛れて同棲生活にこぎつけたイルカ先生の家に俺は向かっていた。
任務帰りで今日はイルカ先生の家に帰るのだ。
もちろん、イルカ先生が俺の家に帰ってくることもある。
同棲生活っても半々くらいでお互いの家に住んでいるんだよね。
一番、大事なのは一緒にいることなので、おれはどちらの家でも構わない。
それから付き合って日が浅い俺たちは、まだまだ清らな関係だ。
友達みたいな感じ。
それはいい、ゆっくり進めていくから。
でも、せめてキスはしたいなあ。
この前、ほっぺにチューはしてもらったけど、それ以上のキスがしたいと思う、今日この頃。
考えてみればファーストキスもまだだっけ・・・。
イルカ先生の、あのほんわか和やかな雰囲気に流されると色っぽくて甘いムードを作ることは不可能だ。
なんとかして、どうにかして、キスしたいと考えを巡らせる。
ロマンチックな夜を二人で過ごせば・・・。
そこまで考えてイルカ先生の家に着いた。
ノックをしてから扉を開ける。
「ただいま、イルカ先生!」
「あ、お帰りなさい〜」
イルカ先生が出迎えてくれた。
ああ、すぐに抱きしめたい衝動に駆られる。
だが!
「あ、先輩。お邪魔しています」
お邪魔虫がいた。
暗部で後輩だったやつだ。
イルカ先生に気がつかれないように目で言った。
『何でここにいる?帰れ!今すぐ!』
すると、やつは目で言い返してきた。
『イルカさんの招待されたから来たんです、それにイルカさんが先輩に騙されてないか心配でしたから』
『騙されたってなんだ!』
『言葉どおりです』
何だか泥沼になってきたところへイルカ先生が、にこにことして俺に後輩のことを言ってきた。
「ヤマトさんと偶然、会いまして夕飯、まだだって言うからお誘いしたんです。今日はカカシさんも俺の家に来るからって。お二人は先輩後輩で仲が良いですし、食事は大勢でした方が楽しいですから!」
「はあ、そうですね」
力なく俺は答える。
「それにヤマトさん、美味しいお酒を持ってきてくださったんです」とイルカ先生は嬉しそうに一升瓶二本を俺に見せてくれた。
「これ、とっても美味しいお酒ですよ。食事しながら飲みましょうか」
すぐ用意しますね、とイルカ先生は台所へと消えた。
台所から美味しそうな匂いがしてくる。
「あ、僕、お手伝いします」
後輩が素早く台所へと逃げ込んでいく。
俺からの追求を逃れるために。
それから、ちょっと気に掛かった。
さっき、後輩のやつは俺がイルカ先生を騙したみたいなニュアンスだったが。
何を見て、そう思ったんだろうか?
それにイルカ先生とやつは仲がいいのか?
疑問が次々に涌いてくる。
ともあれ、俺とイルカ先生のファーストキスは遠のいた。
忍びにも忍道という道があるんだからファーストキスの道もあるに違いない。
俺とイルカ先生のファーストキスへの道は、まだまだ長い道のりになりそうであった。
『同棲への道2』
イルカ先生とのキスは、と俺はつい考え込んでしまった。
誕生日にバースデーキスをしたけど、あれはキスをいうより唇が触れただけみたいな、なんていうか接触事故みたいな感じのキスだった。
それでも、ものすごく嬉しかったが。
この間は頬にちゅってしてくれた。
本格的なキスって、まだなんだよなあ。
そういう雰囲気にならないし。
それが一番の問題だ。
俺はイルカ先生と話している邪魔なやつを密かに睨んだ。
早く帰れと念じてみる。
後輩のことは決して嫌いじゃないけれど、それとこれとは話が別だ。
さっきも俺がせっかく買ってきたイルカ先生とのペアの茶碗を使われそうになったし・・・。
イルカ先生は俺にご飯を装ってくれてから、ごくごく自然にやつにもご飯を装うとしていた。
俺と同じ茶碗で。
イルカ先生はペアという意識はなくて、後輩のやつがお客様だから新しい茶碗の方がよかろうと、ただそれだけ。
後輩の方が先に気がついて、やんわりと断っていた。
「あ、僕は酒を飲むとき飯はいらない派なんです」
さすがに俺と同じ茶碗で飯を食うのはイヤだったらしい。
「イルカさん、どうぞ」と勧めていた。
そして食事と飲みが始まって。
後輩はイルカ先生に質問していた。
「どうして先輩と共同生活、つまり同居する羽目になったんですか?」
共同生活って・・・。
それに同居じゃなくて同棲だと突っ込みたいのを抑えてみる。
「えー、それは、そうですねえ」
イルカ先生は笑って首を傾げた。
「いつの間にか、そういうことになっていて」
「へえー」
相槌を打つ後輩は俺を冷たい目で見てくる。
疑惑に満ちた目で。
「付き合う切っ掛けは何でしたっけ?」
さり気なく話題を誘導してイルカ先生から聞きだそうとしている。
元暗部なだけあって、話題は豊富で話術も巧みで雰囲気作りが上手い。
話しやすそうな雰囲気ができつつある。
「あー、それはカカシさんの誕生日ですかねえ」
「なるほど」
「カカシさんの誕生日のプレゼントが俺だったんですよ〜」って言うイルカ先生は少し酔っ払っていた。
にこにことしているイルカ先生は酒を飲むと笑い上戸に変身する。
「最初は解らなかったんですけどカカシさん、俺のことが好きだったらしいんですよ〜」
あー、こりゃ完全に酔っているな、イルカ先生。
普段はこんなこと絶対に言わないもんな。
「それから恋人になったんですけど」
イルカ先生の目が、とろんとして俺を見る。
「カカシさん、すごく優しくて好い人なんですよ〜。俺には、もったいないくらいの人で」
その告白を聞いて俺は、じーんとなってしまった。
後輩が居なければ、確実に言っていた。
イルカ先生、愛してますって!
「切っ掛けはあれですけど」
イルカ先生が後輩のやつを見て微笑んだ。
ほわ〜んと無邪気に。
「今、とっても幸せなんです」
後輩は何も言わなかった。
その後、当たり障りのない会話をして後輩は帰っていった。
帰り際に呟くように言っていた。
「僕も恋人ほしいなあ」
背中に哀愁が漂っていたのが切ない。
頑張って、俺のように可愛い恋人を見つけて幸せになれよとエールを送りたくなる。
イルカ先生は好い具合に酔っ払ってベッドで寝てしまった。
風呂は明日の朝に入ればいっか。
俺は簡単に後片付けして、明日の朝飯の準備をしてイルカ先生のベッドに一緒に入る。
ベッドは男二人では、ちと狭い。
ま、その狭さが心地いいんだけどね。
便利なこともあるし。
俺の横で、すやすや寝ているイルカ先生の寝顔を見つつ俺は眠りに落ちていった。
ちなみにイルカ先生と眠ると、いつも決って熟睡で安眠になる俺だった。
『同棲への道3』
うーむと家への道を歩きながら俺は考えていた。
イルカ先生との同棲について。
ちなみに今日もイルカ先生の家に帰る予定。
同棲って親密な関係、いわゆる恋人がするものだと思う。
でもイルカ先生は俺と恋人って自覚していても、どっか違うんだよなあ。
なんていうか友達の延長線上の恋人っていうか。
友達以上恋人未満・・・。
いや恋人以上の恋人未満・・・。
イルカ先生が俺の事を好きだというのは解っている。
だ、け、ど。
帰って出迎えてくれてさー、言ってほしいことがある。
「ご飯にします?お風呂にします?それとも・・・」とか言う台詞だ。
イルカ先生に、是非にとも言ってほしい。
でも、無理だろうなあ。
なにしろ、色々まだだから。
今でも、十二分に幸せだからな〜。
イルカ先生の家に帰り着いてノックをしてからドアを開ける。
「ただいま帰りました〜」
すると奥から「はーい」と返事をしてイルカ先生が玄関に来てくれた。
「あ!」
俺はイルカ先生の姿を見て、ときめいた。
心拍数が一気に上がる。
だってイルカ先生はエプロンをしていたから。
そのエプロンはシンプルな形で色も白一色。
さすがにフリルはどーよ?と思ったし、そんなのイルカ先生がしてくれないだろうなあと思ってシンプルなものにしたのだ。
それをイルカ先生はしてくれていた。
とっても似合う!
可愛い!
贈ってよかった!
「お帰りなさい、カカシさん」
イルカ先生は、にこにことして出迎えてくれた。
「お仕事お疲れ様でした」
なんて言ってくれて疲れも吹っ飛んだ。
「いえいえ、疲れてなんていませんよ」
俺も、にこにこしてしまう。
あー、幸せ〜。
「そうですか・・・」
イルカ先生は、ちょっと躊躇ってから俺を上目遣いで見て言った。
あの台詞を。
「だったら、あのー」
ちら、と俺を見る。
「ご飯にします?お風呂にします?それとも・・・」
えっ、それとも・・・?
「それとも・・・」
イルカ先生は恥かしそうにしている。
俺は期待で胸が、どきどきしていた。
ま、まさかね・・・。
と思っていたらイルカ先生が背後から、ぴらと一枚の紙を取り出して言った。
「それとも任務にします?」
がくーっと俺は膝を突いてしまった。
絶望のあまりに。
俺のピュアな男心が砕け散った瞬間だった。
涙が出そうになる。
「カ、カカシさん!」
イルカ先生が慌てて俺の傍に駆け寄ってきた。
「ど、どうしたんです?」
俺の様子に慌てふためいている。
「すみません、火影さまが任務のことをカカシさんに話すのを忘れていて俺に依頼書を持って行くように言われたんです」
イルカ先生の手が俺の肩に置かれる。
「依頼書を渡す時に、こう言えばいいからって言われて、それで、あの」
火影さまの差し金だったのか・・・。
「ごめんなさい、カカシさん」
しょんぼりとしたイルカ先生の声。
顔を上げてイルカ先生を見ると今にも泣きそうな顔をしていた。
「いいんですよ」
俺はイルカ先生から依頼書を受け取ってポケットに仕舞う。
任務は明朝だ。
「イルカ先生は悪くありません。悪いのは火影さまですから」
本当にそうだ、火影さまには後できっちり言っておこう。
イルカ先生を利用するなって。
俺の心を弄ぶなって。
俺は素早く立ち直った。
イルカ先生は所為じゃないしね。
傍で跪いていたイルカ先生を立ち上がらせて俺はイルカ先生の肩に腕を回した。
「任務のことは了解しました」
「はい」とほっとしたようなイルカ先生。
「先にご飯にします」
「はい」
嬉しそうに頷いた。
和やかな会話に俺の心は満たされる。
なんか、いいよね、こういうの。
何気ない日常を好きな人と過ごせるのってさ。
それに新婚みたいで毎日、どきどきわくわくの連続だしねえ。
焦らなくってもいっか、と俺は結論を出した。
イルカ先生を好きな気持ちは生涯変わらないし、イルカ先生が傍にいてくれればそれでいい。
ゆっくり二人で幸せになっていこう。
好きな人を大事にしよう。
大好きな人の笑顔を見ながら俺は、そう思ったのだった。
終わり
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