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抱きしめてダーリン!




「お帰り、ハニー!」
家に着き「ただいま。」と玄関の扉を開けると満面の笑みのカカシさんが両腕を大きく広げていた。
それにフリルのついた白いエプロンをして。
バタン。
見てはいけないものを見てしまったようで、俺は思わず扉を閉めてしまった。
何々だ、あれは。
ハニーってハニーって何?
よもや蜂蜜のことじゃないよな。
ハニーって俺のことか?
そりゃあカカシさんとは、そう呼ばれても、おかしくない間柄だけども。
しかし実際に呼ばれてみると、ものすごく恥ずかしく赤面ものだ。
恐る恐る、もう一度扉を開けるとやっぱりカカシさんがいて。
「お帰り、ハニー!」
やっぱり満面の笑みがあった。




「あの、どういうことでしょうか?」
戸惑いつつ、玄関で理由を聞いてみた。
だって、いつもは「お帰り、イルカ先生。」って普通に出迎えてくれる。
「えーとね。」
カカシさんは少し恥ずかしそうにしながら言う。
「だってねえ、円満な夫婦生活にも適度な刺激や起伏が必要だって紅が言うから。」
紅先生が情報源か。
おまけに円満な夫婦生活って、何をどういう風に話したんだ?
「偶には違ったシチュエーションで出迎えてみたんです。」
「そ、そうですか。」
もしかして、このためだけに白いエプロン買って来たのかな。
妙にカカシさんに似合うフリルのエプロン。
「イルカ先生は、あんまりこういうの好きじゃないですか?」
「えっと。」
好きじゃないというか。
「苦手です、実は。」
「そっか。」
俺が正直に答えるとカカシさんは困ったように頭を掻いた。
うっ、カカシさんを落ち込ませてしまったかな。
ごめんなさい、と言おうとするとカカシさんがポンと手を打った。
「なら、逆になればいいかな。イルカ先生がこれで出迎えて下さいよ。」
「え?」
あっと云う間にカカシさんに額宛とベストを取られて白いエプロンを付けさせられる。
「さ、これで腕を大きく広げて。はい、笑顔でね。」
両腕を広げさせられて。
「今、俺が帰宅したってことで。」
カカシさんが玄関から外に出て行く。
「あ、ちゃんと、『お帰り、ダーリン。』って言ってね。」
そしてドアが閉まった。




で、できるわけないじゃん。
お帰り、ダダダ、ダーリンなんて無理無理。
心の中で呟いただけでもうギブアップ、とばかりに冷や汗が出てきた。
でも、カカシさんはすぐそこで逃げるわけにも行かず。
どうしよう。
どうしたらいいんだ。
俺が心臓を高鳴らせていると、今帰宅してきた、という設定のカカシさんが帰ってきた振りをして玄関を開けた。
「ただいま、イルカ先生。」
果たして言わなきゃいけないのか、俺。
両腕を広げて、頑張って言ってみた。
「お帰りなさい、だ。」
「ダ?」
にこにこ顔のカカシさん。
「だ。」
「ダ?」
期待に満ちた目をしたカカシさんが目の前にいる。
「だ・・・。」
「ダ?」



「抱きしめてください!」



俺の言葉を聞いてカカシさんは、おやっとしたようだけど。
「喜んで。」
笑って、俺を抱きしめてくれた。






後日、紅先生に会った俺は言われた。
「イルカ先生、家ではカカシのこと『ダーリン』って呼んでいるんですってね。」
「ええっ。」
息が止まるほど驚いた。
「カカシがね、自慢していたわよ。家に帰ると『お帰りなさい、抱きしめてダーリン!』って出迎えてくれるって。」
「えええっ。」
本当に息が止まるかと思った。
ダーリンって言えないから、抱きしめてって言ったのに。
紅先生は、そんな俺を見て、ふふふと笑って「恥ずかしがることないのに。」と言う。
「い、いや、その。」
それは違いますって言いたいのに、驚いているので言葉が上手く出てこない。
「ホント、二人とも仲好いわねぇ。」
動けない俺を放って紅先生は、すごい誤解をして行ってしまった。




俺、一言もダーリンとは言ってませんって。
あれから何度か挑戦したけど無理だった。
でもカカシさんは、それでもいいようで「お帰りなさい、抱きしめて。」というのが今では二人の間の恒例となっている。
それでも充分に恥ずかしいんだけどね。
しっかし、何でカカシさんはダーリンと呼ばれているなんて思い込んじゃったのかな。
本当は呼んでほしいんだろうけど。




えーとさ、頑張ってみようかな。
頑張って白いエプロンして、帰ってきたカカシさんに笑顔で「お帰りなさい、ダーリン。」って言えるように。
「お帰りなさい、抱きしめてダーリン。」と言えれば、もっと好いと思うのだけれど。
頑張った効果が表れるのが、いつになるのか分からないけど。
ちょっとだけ、待っててカカシさん!
いつの日か言えるようになるから。
・・・多分ね。







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