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カレンダーを見てイルカは溜め息を吐いた。
カカシさんの誕生日は明日なのに。
また溜め息を吐く。
今から任務に行かないといけないんだよなあ、二泊三日の。
急に命じられた任務だったので断れなかった。
二泊三日だとカカシの誕生日の後に里に帰ってくることになる。
今年はカカシの誕生日を祝おうとちゃんと思っていたのに、と心が痛くなった。
それに、とイルカは気が重くなる理由が他にもある。
実は今、カカシは任務で里にいない。
でも誕生日までには必ず帰ってくると約束していた。
イルカがカカシの誕生日をお祝いしようと言ったから。
カカシはとても嬉しそうにしていた。
このことを提案した時には飛び上がって、本当に飛び上がるとは思わなかったが、そしてイルカを抱きしめてくれたのだ。
図らずもカカシとの約束を破ることにもなる。
そのことがイルカの心に影を落とす。
でも、とイルカは自分を奮い立たせた。
危ない任務じゃないし、頑張れば明日の夜には帰ってこられるかも!
日付が変わるぎりぎりかもしれないが。
それはカカシの誕生日が終わる直前かもしれない。
頑張って頑張って頑張ってみよう、とイルカは決意した。
待っていてください、カカシさん。
それと、ごめんなさい。
心の中で詫びるとイルカはカカシに書置きして任務に出発したのだった。



「ただいま〜」
幸か不幸かイルカと入れ違いにカカシが帰って来た、イルカの家に。
二人は一緒に住んでいる。
カカシは靴を脱ぎ捨てると勝手知ったる家の中とばかりに入ってきた。
二人の付き合いの長さが伺える。
「イルカ先生?」
任務に持って行った荷物を置くとカカシはイルカを呼ぶ。
応えはない。
部屋は、しんと静まり返っている。
イルカの気配は片鱗もないのだがカカシは諦めきれず、狭い室内を捜す。
「イルカ先生、いないんですか〜」
台所、風呂、トイレ、寝室と捜索した。
仕舞いには押入れまで開けてみた。
やはりイルカの姿はない。
「いない、買い物かな?」
まさか任務だとはカカシは思ってはいなかった。
自分の誕生日にイルカには任務には言ってほしくない。
我が侭だとは思うが、そう思ってしまうのだ。
去年の誕生日も、一昨年も、その前も。
思い出す度、憂鬱になる。
験担ぎと思われてもいいから、とにかくイルカには自分の誕生日、家にいてほしいのだ。
正確にいえば自分の傍にいてほしい。
だからイルカが約束してくれた時は嬉しいのもあったが安心した。
明日は俺の誕生日だからお祝いしてくれるって言っていたのに。
今日は俺が帰って来るのを家で待っていてくれるって言っていたのになあ。
切ない気持ちを胸に抱えたカカシの目にある物が目に留まった。
テーブルの上にイルカが残した書置き。
それを読んだカカシは、すっと青褪めた。



書置きは簡潔に書かれていた。
任務に出ること、帰還は二泊三日であること。
それと明日、ケーキ屋さんに注文の品を取りに行ってほしい、お金は払ってあると。
多分、カカシの誕生日ケーキと推測される。
最後に、ごめんなさいと書かれていた。
「イルカ先生・・・」
カカシの胸は心配で、はち切れそうになっていた。
それというのも去年のことがあるからだ。
去年、イルカは今年と同じくカカシの誕生日に任務に出ていた。
だが、その任務で酷い怪我を負い意識を失い、三途の川を渡りかけ、危うくカカシの誕生日がイルカの命日になるところであった。
そして一昨年も同じようなことが起きていた。
その前の年にもだ。
大怪我したり行方不明になったり。
俺の誕生日ってイルカ先生にとって縁起が悪いのか、と思うと落ち込んでしまう。
単なる誕生日なのに、なんでイルカに悪いことが起こってしまうのか。
偶然と言われれば、それまでだったがカカシは心配になる。
イルカがいなくなってしまわないか、自分の誕生日に。
だから家にいてって言ったのに。
そんなことを言っても後の祭りだ。
カカシは祈った。
無事にイルカ先生が帰ってきますように。
ふと書置きの紙の下の隅っこに何かが小さく書いてあるのに気がついた。
それは小さく小さく書いてある。
『カカシさん、ハッピーバースデー!』
「イルカ先生」
万感の想いを込めてカカシは愛する人の名を呟いた。
どうか無事に帰ってきて、イルカ先生。



次の日。
誕生日ではあったがカカシは上忍の控え室にいた。
無表情だが気配には不機嫌さが漂っている。
そんなカカシを面白そうに見ていたのは同じ上忍のアスマと紅だ。
不機嫌の理由を知っているので声は掛けない。
カカシの不機嫌の八つ当たりにされては適わないからだ。
アスマはタバコを吸い、紅は暇つぶしのために雑誌を見ている。
そんな紅が「あら、占いだわ」と声を上げた。
「今日の正座の運勢が出ているわね」
カカシを、ちらと見る。
「今日の乙女座はラッキーカラーは黒、ラッキーアニマルはイルカ、ラッキーフードはラーメンですって」
紅が笑いを堪えていた。
そんな紅を鋭い目つきでカカシが睨む。
紅は涼しい顔でカカシをスルーすると続けた。
「えーと、今日の乙女座は最高についています、チェリーパイをワンホール食べると必ず願いが叶います」
その言葉にカカシの眉が、ぴくりと動く。
「恋人がいる人は愛が深まるでしょう、ですって」
「紅!」
一瞬でカカシが紅の傍に来た。
「今、言ったこと本当?」
目がマジだった。
「本当っていうか、書いてあるだけよ」
「必ず願いが叶うって?」
「ああ、チェリーパイをワンホール食べるとね」
「ワンホールって?」
「一個、丸々ってことよ。円いのあるでしょ」
「なるほど」
矢継ぎ早に質問したカカシは立ち上がった。
「よし!」
何やら燃えている。
「やってやる!」と宣言したカカシは、しゅっと姿を消してしまった。
今日は控え室で待機なのでいなくなってもいいのだが。
「あれ、なに?何をやるの?」
「さあなあ。何か知らんが、やる気があるからいいんじゃないのか」
アスマと紅は顔を合わせて、揃って肩を竦ませた。



紅の見ていた雑誌から情報を得たカカシは里の甘いもの、所謂、ケーキやらパイやら売っている店に向っていた。
木の葉の里の商店街の中を歩いている。
甘いものは苦手だがワンホール食べれば願いが叶うのなら食べてみせると決意したのだ。
そのためには先ずはチェリーパイとやらを買わないと。
ポケットに手を突っ込んで歩いていたのだが、ポケットの中で何かがカカシの手に触れた。
出してみるとイルカの書置きだった。
「あ、そうだ」
イルカがケーキ屋に行って品物を受け取ってほしいと書いてある。
思い出した。
店の名前を見るとカカシも知っている店だった。
ちょうど、この近くにある。
渡りに船、とカカシはイルカの書置きされた店に行ってみることにした。



「あー、よかった」
夜遅く、里に向って全力で走っていたイルカは、ほっと息を吐いた。
木の葉の里の大門が見えている。
里はすぐそこだ。
時刻は、夜遅いが日付が変わる前だ。
「これなら間に合うな」
ぎりぎりだけど・・・。
まだカカシの誕生日だ。
あと少しで終わってしまうけれど。
早く帰らなきゃ。
イルカは報告書を提出すると、これまた全力でカカシがいるだろう家に帰り着いたのだった。



夜遅いので静かに家の扉を開ける。
自分の家だが、もうカカシが眠っているかもしれない。
だけど、いい意味でイルカの期待は裏切られた。
部屋の電気は煌々とついていてカカシは起きていた。
「あ、カカシさん」
「イルカ先生」
二人は、しばし目を合わせる。
妙な沈黙がカカシとイルカの間にある。
先にそれを破ったのはカカシだった。
「イルカ先生!」
カカシはいきなり、ぎゅっとイルカを抱きしめた。
「よかった、無事で。無事に帰ってきてくれてよかった〜」
ぎゅうぎゅうとあらん限りに力で抱きしめられてイルカは窒息しそうになる。
「ちょっと落ち着いて、カカシさん」
ぽんぽんとカカシの背を叩くとカカシの力が僅かに緩まった。
「俺は無事ですから。ね?」
優しく言葉を掛ける。
カカシに心配をかけてしまったことに対して胸が痛んだ。
「黙って任務に行ってしまってすみません」
素直に謝るとカカシの抱きしめる手が緩んで顔を覗き込まれた。
「ああ、イルカ先生だ」
カカシがイルカを見て笑顔になる。
その笑顔に惹きこまれた。
「俺のイルカ先生だ」
笑顔に見蕩れていたイルカであったが、はっと我に返る。
「あ、あの。ただいま」
ようやく、それだけ言うとカカシは「お帰りなさい」と返してくれた。
「俺は無事で怪我もしていませんから」
「うん」
「安心してください」
「うん」
カカシとイルカの目と目が合って、それから。
そっと唇が触れ合った。



唇を離れた時、イルカの顔は真っ赤になっていたがカカシは気づかない振りをする。
指摘すればイルカは、ますます照れて赤くなるし、それに下心もあったから。
「俺、イルカ先生が無事に帰ってくるようにチェリーパイを食べていたんです」
「チェリーパイ?」
話についていけないイルカにカカシは簡単に説明した。
占いにチェリーパイを丸ごと食べれば願いが叶うことを。
「イルカ先生の書置きにあった店に行ったらチェリーパイを渡されたので頑張って食べていたんです」
見るとテーブルの上には半分、半円になったパイがあった。
それは確かにイルカが注文したものだったのだが。
チェリーパイではない。
「あのう、カカシさん」
盛り上がっているカカシに言うのも悪いと思いつつイルカは言った。
「それはチェリーではなくてクランベリーのパイなんですけど」
「くらんべりー?」
「酸味があるベリーですよ。カカシさん、甘いの苦手だからと思って酸っぱいのならいいかな〜って」
カカシが頑張っていたのは何だったのか・・・。
呆然とするカカシにイルカは微笑んで。
今度はイルカがカカシを抱きしめた。
頬に軽くキスをして。
「誕生日、おめでとうございますカカシさん」
心を込めて言ったのだった。





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