Come on!
火影の執務室でイルカは五代目火影の綱手の仕事を、綱手の付き人シズネと手伝っていた。
「はあ、疲れた〜。」
綱手が自分で自分の肩を叩く。
「いつまで経っても仕事が終わらないねえ。」
愚痴っている。
「そうですね、綱手さま。」
シズネも同意した。
「もう、夜も明けて朝になっちゃいましたよ。」
窓から外を見て太陽が昇ったのをシズネは確認している。
綱手、シズネ、イルカの三人は徹夜していたのだ。
「今日も一日、頑張らないとねえ〜。」
欠伸をしながら綱手が言うとシズネもイルカも釣られたように欠伸をする。
イルカは欠伸をした後に「あ、すみません。」と慌てて、口に手を当てた。
「俺より火影さまやシズネさんの方が、お疲れなのに。」
イルカの言葉に綱手は微笑んだ。
「何、言ってんだい。イルカは昨日から、ずっと仕事を手伝ってくれているじゃないか。有難うよ。」
「そうですよ。」
シズネも頷いた。
「帰り間際にイルカさんが、この部屋に寄ったばっかりに仕事を手伝わせてしまうことになってしまって。でも、とっても助かりました。」
二人に礼を言われてイルカは、ちょっと照れる。
「そんなの、俺でよかったら幾らでも。」と人の好いことを言っていた。
ほのぼのとした空気が火影の執務室に漂う。
「あー、でも。」とシズネが首を、こきこきと動かしながら呟いた。
「仕事するのにも生き甲斐を感じますが、なんていうか、私、幸せになりたいです・・・。」
疲れているのか、そんな願望を口に出す。
「いいねえ、それ。」
綱手も「幸せは、どこにあるのかねえ。」と溜め息を吐いた。
そこへ、朝のほのぼのとした空気を乱すような人物が現れた。
執務室の扉が、ばばーんと開いて誰かが飛び込んできたのだ。
「任務終わりましたー!」
勢いこんで来たのは、上忍のはたけカカシだった。
綱手は眉を潜める。
「なんだい、朝っぱらから騒がしい。」
「いいじゃないですか!」
何故かカカシはご機嫌だ。
「頑張って任務を終えて帰還しました、任務完了の報告に来たんですよ。」
「それは、ご苦労だったな。」
綱手に労われ「帰ってよし。」と言われてから、カカシは執務室にいたイルカに気がついた。
「あれ?イルカ先生、どうしてここに。今日は休みじゃなかったですか?」
「はい、そうですけど。」
イルカは次の日が休みだというのもあって綱手の仕事を手伝っていたのだ。
なんでカカシさんが俺の休みを知っているんだろう、と不思議に思いながらもイルカは答えた。
「それが、どうかしましたか?」
「いいええ。」
首を振ったカカシは唐突にイルカに向かって、カモン!とばかりに両手を広げる。
非常に嬉しそうな顔だ。
「ということは今日は休みなのに、ここにいるイルカ先生は昨日から火影さまの仕事を手伝って徹夜して、現在、お疲れなんですね。」
カカシは推理したのだろうが、ズバリ当たった。
「ええ、まあ。」
「じゃ、どうぞ!」
「何がですか?」
自信たっぷりにカカシは言った。
「イルカ先生、お疲れでしょう?疲れを癒すのなら、今すぐ、ここで俺の腕の飛び込んで抱きしめられれば一発で疲れもとれて、そして、なんと!」
カカシは、にこにこと無邪気な顔をする。
「幸せになれるんです!」
しーんとした沈黙に火影の執務室は包まれた。
やや、あって綱手が疲れたような声を出す。
「もしかしてカカシ、『今日』、それをイルカに言いたいがために頑張って任務を終わらせてきたんじゃあるまいね?」
「だったら、何です?」
今日のカカシは強気だ。
『今日』と言われてシズネはカレンダーを見る。
四月一日だった。
「ああ、それで・・・。」
綱手とシズネはカカシを見て同時に、ひどく疲れたような溜め息を吐いた。
カカシは四月一日、つまり、ある程度の嘘を吐いても許される日に、態々、任務を終えて帰って来たのだ。
イルカを抱きしめたいがために。
綱手とシズネは何となく、日頃のカカシのイルカに対する言動から、イルカに好意を持っているなあと薄々、感じていたのだが当の本人、イルカだけは解っていなかったのである。
だから、というか焦れたカカシは『今日』という日を利用してイルカと、お近づきになりたいとでも目論だのであろう。
どうでもいい理由をつけて、イルカを抱きしめたい、と思ったに違いない。
だがイルカはカカシの言うことを真に受けたのか、目を輝かせて「本当ですか。」なんて言っている。
カカシも「写輪眼に隠された秘密の力です。」と適当に説明していた。
カカシの、ささやかな野望が達成されるかもしれなかった。
「写輪眼て、すごいんですねえ。だったら、シズネさん。」
素直に感心したイルカは笑顔でシズネに話を振ってきた。
「さっき、幸せになりたいと仰っていましたよね?今、カカシさんに抱きしめられたら・・・。」
「絶対嫌です!」
最後まで聞かずシズネは即効、断りを入れる。
「じゃあ、火影さま・・・。」
「結構。間に合っている。」
綱手も即効、断った。
そしてカカシも「俺も嫌です。」と渋い顔をしている。
「それはイルカ限定なんだろ。」
綱手はカカシに突っ込んだ。
「それに。」
じろりとカカシを見る。
「幸せになるのは抱きしめられた方じゃなくて、抱きしめた方なんだろ。」
鋭く指摘した。
要するにイルカを抱きしめたカカシが幸せになるんだろ、と言いたかったのである。
「まあ、そうですけどね。」
カカシは苦笑いをして肩を竦めた。
「いいじゃないですか、『今日』くらい。」
「分かった分かった。」
綱手は、もう帰れという風に手を振る。
「ここでは、やるな。二人とも帰っていいから続きは、どこか人目につかない場所でしておくれ。」
今日はイルカも休みで、任務から帰って来たカカシも休みだ。
「解りました。」
カカシは広げていた両手を下ろしてイルカの手を取った。
「イルカ先生、火影さまも、ああ言っていることですし帰りましょう。」
「でも・・・。」
「いいからいいから。」
当惑するイルカを連れてカカシは火影の執務室を出て行ってしまった。
二人を見送ったシズネが、ぽつりと言った。
「大丈夫しょうか、あの二人・・・。」
特にイルカさん、とイルカの身を案じている。
「大丈夫だろ。」
綱手は投げやりに言い放って、机の上の書類を手にした。
「幸せとやらになれるさ、きっと。」
「そうですね。」
シズネも仕事の続きを再開する。
そして二人とも黙々と仕事をしたのであった。
次の日、カカシを見かけた綱手は、その顔を見て『イルカと幸せになったんだなあ。』と悟り、ちょっと羨ましく思ったのだった。
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